異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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第3章 王都への道③『それぞれの身の上』

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 テーブルには次々に料理が運ばれてきた。
 肉、肉、野菜、肉、スープ、肉。
 肉ばかりである。

 シモンの注文にイリアスも文句はないようで、出てきたものを食べていた。
 こんなに食べ切れるのかと不安になったが、シモンはかなりの大食いだった。
 
 イリアスも上品ながらよく食べる。かといって、二人とも太っているわけではなく、むしろ身体は引き締まっている。
 二人の胃袋はどうなっているんだろうと思った。

 出された料理の中には、隊舎の厨房でも見ない料理があった。
 何の肉かわからないものは尋ねる。シモンも首を捻ったものは、イリアスが答えてくれたりする。
 
 海人が見知らぬ味を楽しんでいると、隣の席に新しい客が座り、給仕の子が店の料理名を上げていた。
 
 これもまた、たどたどしく、一生懸命思い出しながら言っている感じである。
 客は、じゃあ、それ、などと言っている。
 
 メニューを見ればいいのに、と思ったが彼女はメニュー表をまたもや持っていなかった。
 そこでふと、グレンが言っていたことを思い出した。

「字が読める人って、少ないんだっけ?」

 シモンが大口を開けながら、うなずいた。

「貴族や商人くらいだよ。普通は読めない人の方が多い。俺は近衛騎士団に入ってから教わって、リンデに来てからも勉強したから……あれ、騎士もみんな読めるのか。あ、他の警備隊って、どうなんですか?」

 ひとりごとのように言いながら、最後はイリアスに目を向けた。

「辺境警備隊はどこも教えている。読み書きは必須だ。口頭でしか伝達できんなど、話にならん」

 海人は食事の手を止めた。

 自分も未だに字が読めない。会話が成り立つので、文字を覚える気が出ないのだ。
 だがイリアスの「話にならない」という言葉に、胸がちくりとした。

 自分のことを言われたわけではないのに、落ち込む。
 傷ついたことを悟られないように、スープをすくっていると、隣の客の笑い声が耳をつんざいた。

 シモンが、これもうまいぞ、と海人の皿に肉を入れた。

 食事も終盤に差し掛かった頃、シモンがなにやら遠慮がちに口を開いた。

「隊長。王都滞在中のことなんですが」

 イリアスは黙って先を促した。

「少しだけ、実家に顔を出したいのですが……」

 シモンは王都アルバスの生まれだった。十六歳でリンデの街に来るまで過ごした故郷だ。
 せっかくなので、家族の顔を見たいと思ったようだ。
 イリアスもそれがわかっていたのか、特に渋ることもなく許可した。

「王宮に入ってしまえば、危険はないだろう。呼ぶまで実家でゆっくりしていろ」
「それって、実質休暇みたいなものですが……」

 聞き違いでないか確認し、イリアスがうなずくのを見て、シモンは顔を輝かせた。

 辺境警備隊に入って約二年。実家には一度も帰っていないらしい。いや、帰れないというのが正しい。
 王都とリンデでは馬で飛ばしても往復八日はかかる。
 王都に滞在するとなるとさらに日数がいる。そんな長期休暇などよほどのことでなければもらえない。
 
 家族とは滅多に会えないことを承知の上で王都アルバスを飛び出してきた。

 シモンに後悔はないが、帰れる機会があるのなら、帰りたい。
 この機会を逃せば、次に家族に会えるのは何年先になるかわからないからと、海人に申し訳なさそうに言った。

 どうやら海人の身の上(元いた世界に帰れないこと)を気にしたようだったが、海人は気にならなかった。
 シモンと自分は違うからだ。

羽目はめを外すなよ」

 イリアスは釘を刺した。
 シモンは威勢よく返事をしながら、思い出したように言った。

「そういえば、隊長の実家もアルバスでしたよね」

 海人は残っていたサラダを口に入れながら、顔を上げた。

「実家って……イリアスの生まれは王都なの?」

 グレンがイリアスは領主の跡継ぎだと言っていたから、サラディール伯爵の息子だと思っていた。
 イリアスも伯爵のことを「父上」と言っていた。

 ところが実際に会ってみた伯爵とイリアスは似ても似つかない。
 親子間のことなので本人には訊きにくく、ずっと気にはなっていたのだ。
 
 繊細な話だと思っていたが、イリアスはあっさりしていた。

「言ってなかったか。私はサラディール伯の養子だ。実の親は王都にいる」

 イリアスが麦酒ビールを飲み切ると、シモンが言った。

「隊長と領主様って、ぜんっぜん、似てないですもんね」

 言いにくいことを笑って放てるシモンがうらやましい。海人は続けて訊いた。

「養子って、いつから?」
「十四の時」

 海人の世界でいえば中学二年生だ。その歳に養子に出されるのは、いったいどんな気分だろうか。

「じゃあ、イリアスも家族に会いたいよね」

 海人は気を遣ってみたが、イリアスは無表情で言った。

「いや、顔を出すつもりはない。こちらのことは気にしなくていい」

 そして話は終わりとばかりに席を立った。
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