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第4章 いにしえの因果⑮『ディーテの思い』

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 イリアスが語り終わると、佐井賀しょうは目を伏せて言った。

「この七年間、王宮に来ても僕に顔を見せなかったのは、魔力を暴走させて、合わせる顔がないって思ってたからでしょ。
 でもそれは違う。合わせる顔がないのは、僕の方だ。迂闊うかつにも魔獣の活動時期に王宮から出たりした。もっと気をつけていれば、あんなことにはならなかった」

 だけど、と祥は続けた。

「僕は今でも、あのときイルに魔力を与えたことは最善だったと思ってる。だから、イルが家を捨てることになったのも、すべて僕の責任だ」

 唇を震わせて、イリアスに頭を下げる。

「ごめん。ノルマンテとしての君の将来を奪ってしまった」
「…………」

 伏せたまま上げずにいると、イリアスが腕を伸ばし、祥の頬をそっと触った。

「あなたはずっとそんなふうに思っていたのか」

 顔を上げると、そこに優しい灰色の瞳がある。

「私はあなたと殿下を守れたことを誇りに思っている。だからもう、気に病まないでほしい」

 イリアスが柔らかく微笑む。それは祥の自責の念を拭い去っていった。
 会うことのなかった七年間の時の流れが埋まっていくようだった。

 触れられた手が温かい。祥も微笑んだ。

 そして次の瞬間― 素早くイリアスの手を取った。

「イル! ほんっといい男になったね! 僕、今、ドキッとしちゃったよ!」

 目を輝かせて言うと、イリアスは顔を顰め、握られた手をぞんざいに振り払った。

「あなたはそういう人だった」

 不機嫌そうにソファに体を預ける。祥は愉快げに肩を揺すった。目尻に涙が溜まっているのを笑いで誤魔化した。
言っておくが、とイリアスが口を開く。

「ノルマンテの名を惜しいと思ったことはない。王宮で腹黒い貴族たちと化かし合いをするくらいなら、辺境で魔獣を倒している方がよっぽど楽だ」

 面白くなさそうな口ぶりだが、祥の気がかりを取り払おうとしてくれたのがわかる。

 ユリウスと違って不愛想だが、どこまでも優しい人だった。
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