68 / 117
第5章 動乱の王宮③『慣例』
しおりを挟む
王太子のエドワードが宰相と共に会議の場に入ると、皆が立ち上がり、一礼をした。
テーブルには六つの椅子が用意されており、扉に一番近いところにイリアスがいる。その隣に憮然とした顔の枢密院長官、魔法院長官と並び、イリアスの向かいに貴族院長官が座していた。
エドワードが上座に着くと、その隣に宰相が腰を下ろし、みなが一斉に座った。
この六名で話し合いが行われるが、形式的なものである。王宮としての結論は決まっていた。ゆえに、国王ではなく、王太子の自分が参加するのだ。
「ご承知の通り、イリアス=サラディール様がお連れになった跳躍者フジワラカイト殿の今後について皆様方のご意見を伺いたいのですが、何か訊きたいことはありますか」
宰相が議題を述べ、問いかける。
皆、お互いの様子を見回していたが、口火を切ったのは貴族院長官だった。
彼は政治を動かす貴族たちで構成される院を仕切っている侯爵である。イリアスの実父であるノルマンテ大公と真っ向からぶつかることも多い人物だ。
貴族院長官はしかめ面をして言った。
「あの者は跳躍者との話だが、まことなのですか。確かに黒髪ではあるが、同じ時代に跳躍者が二人も現れるなど、信じがたい」
カイトが跳躍者だと言っているのはイリアスだけだ。
ディーテのときのように衆目の前に、空中から落ちてくるという疑いようもない光景を目撃したわけではない。しかも、ディーテが現れるまでルテアニア王国には三十年間、跳躍者がいなかった。
それくらい稀有な存在なのだ。信じられないというのは理解できる。
貴族院長官はイリアスが跳躍者だと偽って、何か良からぬことを企んでいるのではないか、と疑っているのだ。
伏魔殿の王宮において、長く政治に携わる者ほど疑心暗鬼に陥る者は多い。
疑われたことについて、イリアスが答えた。
「それについてはアフロディーテが保証してくださるでしょう。昨日の面会でも、自分の世界の人間だと仰ってくれた」
貴族院長官はその言葉を聞き、それ以上は何も言わなかった。
他の方、なにかございますか、と宰相が各々の顔を見まわす。
誰の発言も出ないことを確認すると、宰相は、
「慣例では跳躍者は王宮で保護することになっていますが、イリアス様もそれでよろしいか」
イリアスに話を持っていった。
この場にいる全員が王宮保護を了承するためにこの場に呼ばれたと思っている。イリアスもまた王宮に預けるつもりで連れてきたのだと、エドワードも考えていた。
だが、その空気は打ち破られた。イリアスは立ち上がり、自分の要求を述べた。
「私は、かの者を王宮ではなく、サウスリー領リンデで保護したいと思っています」
思わぬ提案にざわめきが起こった。エドワードも内心、驚いた。
イリアスはエドワードに体を向けた。
「私に預けてくださいませんか」
真摯な眼差しをしている。
(これは……本気だな)
エドワードは一呼吸おき、慎重に答えた。
「理由を聞こう」
皆が黙り、室内に緊張が走った。
テーブルには六つの椅子が用意されており、扉に一番近いところにイリアスがいる。その隣に憮然とした顔の枢密院長官、魔法院長官と並び、イリアスの向かいに貴族院長官が座していた。
エドワードが上座に着くと、その隣に宰相が腰を下ろし、みなが一斉に座った。
この六名で話し合いが行われるが、形式的なものである。王宮としての結論は決まっていた。ゆえに、国王ではなく、王太子の自分が参加するのだ。
「ご承知の通り、イリアス=サラディール様がお連れになった跳躍者フジワラカイト殿の今後について皆様方のご意見を伺いたいのですが、何か訊きたいことはありますか」
宰相が議題を述べ、問いかける。
皆、お互いの様子を見回していたが、口火を切ったのは貴族院長官だった。
彼は政治を動かす貴族たちで構成される院を仕切っている侯爵である。イリアスの実父であるノルマンテ大公と真っ向からぶつかることも多い人物だ。
貴族院長官はしかめ面をして言った。
「あの者は跳躍者との話だが、まことなのですか。確かに黒髪ではあるが、同じ時代に跳躍者が二人も現れるなど、信じがたい」
カイトが跳躍者だと言っているのはイリアスだけだ。
ディーテのときのように衆目の前に、空中から落ちてくるという疑いようもない光景を目撃したわけではない。しかも、ディーテが現れるまでルテアニア王国には三十年間、跳躍者がいなかった。
それくらい稀有な存在なのだ。信じられないというのは理解できる。
貴族院長官はイリアスが跳躍者だと偽って、何か良からぬことを企んでいるのではないか、と疑っているのだ。
伏魔殿の王宮において、長く政治に携わる者ほど疑心暗鬼に陥る者は多い。
疑われたことについて、イリアスが答えた。
「それについてはアフロディーテが保証してくださるでしょう。昨日の面会でも、自分の世界の人間だと仰ってくれた」
貴族院長官はその言葉を聞き、それ以上は何も言わなかった。
他の方、なにかございますか、と宰相が各々の顔を見まわす。
誰の発言も出ないことを確認すると、宰相は、
「慣例では跳躍者は王宮で保護することになっていますが、イリアス様もそれでよろしいか」
イリアスに話を持っていった。
この場にいる全員が王宮保護を了承するためにこの場に呼ばれたと思っている。イリアスもまた王宮に預けるつもりで連れてきたのだと、エドワードも考えていた。
だが、その空気は打ち破られた。イリアスは立ち上がり、自分の要求を述べた。
「私は、かの者を王宮ではなく、サウスリー領リンデで保護したいと思っています」
思わぬ提案にざわめきが起こった。エドワードも内心、驚いた。
イリアスはエドワードに体を向けた。
「私に預けてくださいませんか」
真摯な眼差しをしている。
(これは……本気だな)
エドワードは一呼吸おき、慎重に答えた。
「理由を聞こう」
皆が黙り、室内に緊張が走った。
15
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる