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第5章 動乱の王宮②『カイト』
しおりを挟む―日本に帰りたい―
命の危険に晒されたとき、隠された本音を聞いた。
しがみついて泣く彼は、ずっと我慢していたのだと思った。
自分には元の世界に帰してやることはできない。ただ、彼が不自由なく暮らして行けるようにすることくらいしかできなかった。
目が覚めたとき、落ち込んでいるだろうか。なんて声を掛けようか、言葉を探した。
ところが起きたとき、カイトはもう前を向いていた。皆に礼を言いたいと言った。
昨日吐いた本音をまた隠し、明るく振舞うつもりでいる。
カイトは時に幼く見えるが、芯は強かった。
イリアスは彼の強さを愛おしく思った。
自分がカイトに特別な感情を持ったことを言うつもりはなかった。
伝えたとしても、彼には逃げる先がない。カイトが困る顔は見たくなかった。
カルの里で力をもらったとき、こんなかたちで触れたくないと思うと同時に、彼に触れられることを喜んだ自分がいた。
魔力の付与を受けるという名目でこの先も口づけができると、浅ましいことを考えた。だが、想いは隠すと決めたものの、海人が自分以外の人に気を向けると心が騒いだ。
ディーテが兄とカイトはパートナーだと言ったときは、兄に嫉妬すらした。
(王宮に残りたいと言うかもしれない)
不安になったが、カイトが自分と一緒にリンデに帰るつもりだと知り、安堵した。
早くリンデに連れて帰りたい。これ以上、兄に魅かれてもらいたくなかった。
そして、それだけではない理由もできた。
これはイリアスも王宮に着いてから気づいたことだが、カイトとディーテが並んでいるところを見て、霊脈がやけに目立つと思ったのだ。
兄がそのことに気づいたかどうかはわからない。だがこの懸念は王宮に伝えておく必要がある。
この二人が並ぶと目立つ霊脈が、魔獣にどんな影響を及ぼすかわからない。被害が出てからでは遅いのだ。
王宮にとっては良くない話だが、この懸念はカイトをリンデに連れて帰る一助になる。
だからこそ、これから開かれるカイトの処遇についての会議では、なんとしてでも要求を通さなければならない。
冷たい石造りの王宮の廊下を歩きながら、イリアスは前を見据えた。
王宮滞在三日目の正念場である、政治交渉が始まろうとしていた。
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