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第5章 動乱の王宮①『イリアスの思い』
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カイトが兄のユリウスを気にしていることには気づいていた。
どうしたのか訊いても、なんでもないと言うわりに、ずっと目で追っていた。
兄のことが気になるのだろうか―
イリアスは焦っていた。
カイトが兄に興味を持ったことに。
自分の気持ちに気づいたのは、カイトがさらわれた日の夜だった。
ゆっくり休むように言った数刻後、部屋にカイトが来たことに気づいた。
イリアスは人の気配に敏感だった。
誰かとまではわからないが、深夜に部屋に来るような人物はカイトくらいしかいない。
日中、拉致されかけたのだ。眠れないのだろう。
すぐに扉を開けようとしたが、イリアスはふと、カイトがどんな顔をして扉を叩くのか知りたくなって、そのまま待ってみることにした。
ところが待てども気配はするのに、一向に扉を叩こうとしない。
コト、と物音がしたので、扉を開けてみたら、座り込んで寝ていた。
カイトは人に迷惑をかけることを厭う節があった。辺境警備隊の駐屯地でも面倒をかけたと思ったら、それに見合うように別の働きをした。
今も自分に迷惑をかけたくないと思いながら、だが、部屋にも帰れずにいたのかと思うと、堪らなくなった。
軽く肩を揺すってみたが、起きる気配がない。このままにしておくわけにもいかないので、ベッドに運ぶことにした。
カイトは小柄というわけではないが、細身なので軽く抱き上げられる。本人は筋肉がないことを気にしていたが、均整の取れた肢体をしていた。
抱き上げたらさすがに起きるかと思ったが、熟睡したままだった。
自分のそばにいれば安心だと言っているようなもので、イリアスは自然と笑みを浮かべていた。
そのとき、思った。
自分は彼から絶大な信頼を得ているのか―
イリアスは胸が大きく鳴ったのを感じた。
ベッドに寝かせ、しばらくカイトを見ていた。
黒い髪、黒い瞳、健康的な小麦色の肌。
見た目はディーテと同じなのに、海人は彼とはずいぶん違う。
ディーテはこの世界に来てから、しばらく部屋にこもっていた。警戒心が強く、なかなか心を開こうとしない。
跳躍者の役割を聞いたときなど、冗談じゃないとしばらく会ってくれなかった。
それなのにディーテはいつしか心を開いた。それは兄の存在が大きかった。
兄はなんだかんだディーテのところに行っては追い返されていたようだが、いつの間にか二人で話をするようになっていた。
ディーテがイリアスを弟のように可愛がるようになったのは、それからだった。
兄とディーテはよく言い争っていたが、翌日にはけろりとしていたので、喧嘩するほど仲が良いというやつなのだろう。その頃になって、ディーテはやっとこの世界と向き合い始めた。
ところがカイトは違った。最初は驚きこそすれ、すぐにこの世界に順応しはじめた。
外に興味を持ち、人と接することを恐れず、素直でよく笑った。
自分は愛想の良い方ではないのに、物怖じせずに話しかけてくる。
日々、駐屯地であったことを楽しそうに語り、わからないことは何でも質問してくる。
彼から「ありがとう」と笑いかけられると心が温かくなった。
周囲も海人の明るさと純朴さに元気をもらっているようだった。
この世界でうまくやっていけるだろう。何も問題はない、そう安心していた。
だがその明るさの裏に、不安を押し殺していたのを知った。
どうしたのか訊いても、なんでもないと言うわりに、ずっと目で追っていた。
兄のことが気になるのだろうか―
イリアスは焦っていた。
カイトが兄に興味を持ったことに。
自分の気持ちに気づいたのは、カイトがさらわれた日の夜だった。
ゆっくり休むように言った数刻後、部屋にカイトが来たことに気づいた。
イリアスは人の気配に敏感だった。
誰かとまではわからないが、深夜に部屋に来るような人物はカイトくらいしかいない。
日中、拉致されかけたのだ。眠れないのだろう。
すぐに扉を開けようとしたが、イリアスはふと、カイトがどんな顔をして扉を叩くのか知りたくなって、そのまま待ってみることにした。
ところが待てども気配はするのに、一向に扉を叩こうとしない。
コト、と物音がしたので、扉を開けてみたら、座り込んで寝ていた。
カイトは人に迷惑をかけることを厭う節があった。辺境警備隊の駐屯地でも面倒をかけたと思ったら、それに見合うように別の働きをした。
今も自分に迷惑をかけたくないと思いながら、だが、部屋にも帰れずにいたのかと思うと、堪らなくなった。
軽く肩を揺すってみたが、起きる気配がない。このままにしておくわけにもいかないので、ベッドに運ぶことにした。
カイトは小柄というわけではないが、細身なので軽く抱き上げられる。本人は筋肉がないことを気にしていたが、均整の取れた肢体をしていた。
抱き上げたらさすがに起きるかと思ったが、熟睡したままだった。
自分のそばにいれば安心だと言っているようなもので、イリアスは自然と笑みを浮かべていた。
そのとき、思った。
自分は彼から絶大な信頼を得ているのか―
イリアスは胸が大きく鳴ったのを感じた。
ベッドに寝かせ、しばらくカイトを見ていた。
黒い髪、黒い瞳、健康的な小麦色の肌。
見た目はディーテと同じなのに、海人は彼とはずいぶん違う。
ディーテはこの世界に来てから、しばらく部屋にこもっていた。警戒心が強く、なかなか心を開こうとしない。
跳躍者の役割を聞いたときなど、冗談じゃないとしばらく会ってくれなかった。
それなのにディーテはいつしか心を開いた。それは兄の存在が大きかった。
兄はなんだかんだディーテのところに行っては追い返されていたようだが、いつの間にか二人で話をするようになっていた。
ディーテがイリアスを弟のように可愛がるようになったのは、それからだった。
兄とディーテはよく言い争っていたが、翌日にはけろりとしていたので、喧嘩するほど仲が良いというやつなのだろう。その頃になって、ディーテはやっとこの世界と向き合い始めた。
ところがカイトは違った。最初は驚きこそすれ、すぐにこの世界に順応しはじめた。
外に興味を持ち、人と接することを恐れず、素直でよく笑った。
自分は愛想の良い方ではないのに、物怖じせずに話しかけてくる。
日々、駐屯地であったことを楽しそうに語り、わからないことは何でも質問してくる。
彼から「ありがとう」と笑いかけられると心が温かくなった。
周囲も海人の明るさと純朴さに元気をもらっているようだった。
この世界でうまくやっていけるだろう。何も問題はない、そう安心していた。
だがその明るさの裏に、不安を押し殺していたのを知った。
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