異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

文字の大きさ
65 / 117

第4章 いにしえの因果㉒『行かないで』

しおりを挟む
 王宮滞在も三日目になった。

 この日の朝食後、イリアスが庭園を散歩しないかと言ってきた。
 
 イリアスから何か誘われることなど、今まで一度もなかったので、彼も暇なのかと思った。
 
 王宮の庭園は広く、植えられた花も多彩である。朝の陽を受けて、緑の芝が美しく光って見える。

 イリアスの屋敷の庭も広いと思っていたが、洗練された庭づくりなどはスケールが違った。
 
 豊かな緑は人の心を落ち着かせてくれるのだろうが、海人は昨日、佐井賀から聞いた話で頭がいっぱいになっていた。
 
 庭園を眺めて歩きながら、海人はポツリと言った。

「佐井賀さんってすごいね」

 足元には小さな紫色の花が咲いていた。

「この世界のこと、自分で本を読んで調べ続けてて。ずっとあきらめてなくて、俺に帰れるかもって希望をくれた」

 イリアスは海人を見下ろした。

「おれ、すぐにあきらめてた。帰る方法はないって聞いたときから。自分で見つけようなんて思わなかった」

 海人は落ち込んでいた。

 佐井賀の不屈の精神とその行動力に感心しながらも、自分と比べてしまったのだ。

 佐井賀は海人より一歳若いときにこちらに来ている。同じような年齢だったのに、考えることは違った。

 うつむいていると、

「あの人もこちらに来てすぐにああだったわけじゃない。月日が経つうちに、そうなっていったんだ。
 まだ来たばかりのカイトとは違う。カイトもそのうち、やりたいことが見つかるだろう」

 イリアスが海人の頭をぽんと触った。比べても詮無せんない事だ、とイリアスは続けた。

(やりたいこと……)

 海人はこれからの自分のことを思った。

 同郷の人アフロディーテに会うという目的は果たせた。ならば今、言うべきかもしれない。

 王宮に旅立つ前に決めていたこと。
 
 海人は立ち止まった。

「イリアス。リンデに帰ったら、剣を教えてほしいんだ」

 この世界で生きる覚悟はもうできている。

「自分の身は自分で守りたいから」

 いつまでもお荷物でいるのは御免だ。
 
 海人が真剣な眼差しで見つめていると、イリアスが、わかった、と言った。

 海人はうれしくなり、顔を綻ばせた。

「おれも佐井賀さんみたいに勉強もするよ。せめて読み書きくらいはできなきゃな!」

 グレンさんに教えてもらおう、と言いながら歩き始めた。
 
 陽光が徐々に暖かくなっていた。光を浴びるように、グッと背伸びをしたとき、

「カイト」

 数歩進んだ先で呼ばれた。振り返ると、彼はまぶしそうに目を細めて言った。

「おまえは強いな」

 イリアスがふわりと笑った。

 どくん、と胸が鳴る。

 柔らかくて、優しい綺麗な微笑み。
 海人がまた見たいと思っていた、あの笑顔だ。
 
 トクトクと自分の鼓動を聞きながら、海人は見惚れていた。

 と、そのとき、遠くから佐井賀の声が響いた。

「イルー、どこー? いるんでしょー?」

 彼を呼ぶ声にイリアスの笑みが掻き消えた。
 ため息交じりに言う。

「ほんとうに騒がしい人だな」

 イリアスが踵を返した。
 
 刹那。

 海人はとっさにイリアスの腕を取った。

 急に腕を掴まれたイリアスは驚いたように振り返った。

「どうした?」

 灰色の瞳が見つめてくる。

 行かないで―

 海人は思わず口から出そうになった言葉を、ぐっと堪えた。

「カイト?」

 いぶかしんだ表情をされ、海人は目を伏せ、ゆっくりと手を放した。

「ごめん、なんでもない。行こう」

 海人はイリアスが向かおうとした先― 佐井賀の元へ歩き出した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...