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第5章 動乱の王宮⑤『王太子の思い』
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エドワードが黙考しようとしたとき、枢密院長官のベイルが手を挙げたのだ。
「王都に被害が出るのは本望ではないが、あくまで懸念でしかない」
ベイルは太い腹を膨らませて、声を張り上げた。
「私が懸念するのは、ノルマンテ大公にこれ以上、力を持たせていいのかということだ」
皆がベイルを見る。
「跳躍者から得られる魔力は国家を転覆させるだけの力がある。それを大公の二人の子息が独占するのはいかがなものか。王家にとって、これは脅威ではないか」
滔々と語ったベイルに、エドワードは心底呆れ返った。
王家と深い結びつきのあるノルマンテ家が、王家に仇をなすと本気で思っているのか。
ノルマンテ大公は国王の威信を守るため、我が子から家名を剥奪したくらいの人物だ。
それに大公家が王家に逆らうつもりであるならば、イリアスが跳躍者を王宮に連れて来るはずがない。リンデという辺境の地で匿い続けるだろう。
エドワードが横目でイリアスを見ると、彼は無表情を貫いていた。
(よくもまあ、平然とした顔をしてられるものだな)
エドワードは内心、苦笑した。おそらく、腹の底ではベイルを罵倒しているだろう。
しかし、意外にもこの論に貴族院長官が賛同した。
「確かに王家よりもノルマンテ家が力を持つのは看過できない。それにこの者は昔、王太子殿下に怪我を負わせたことがあったな」
イリアスが目を見張り、エドワードは眉根を寄せた。
七年前のあの事件のとき、貴族院長官はまだ長官の任にはなかった。一議員としてイリアスを貶める流言飛語に踊らされた人物のひとりだったのかもしれない。
エドワードがイリアスをどれだけ庇ったか知っているのは、この場では宰相くらいだろう。あのとき彼はすでに宰相の座に着いていた。
魔法院長官は事件を思い出したのか、渋面を作った。
「そういえば、あのときイリアス殿はディーテ様からの力の供給で、魔力を暴走させ、魔法院を破壊しましたね。跳躍者を預けるには危険かもしれません。リンデの街を破壊する恐れがありましょう」
イリアスを見ると、彼は絶句していた。
まさか七年前のことをこのように持ち出されるとは思わなかったのだろう。
胸中でため息をつく。
(大公も敵が多いな)
エドワードはそれぞれの意見を聞き、ひとつ苦言を放った。
「かつて私が傷を負ったことは、イリアスがノルマンテ家から出ることで片をつけた。魔力の暴走を危惧しているようだが、あれから何年経ったと思っている。
彼はリンデの警備隊の隊長だぞ。近衛騎士団も彼の実力を認めている。昔と同じように考えるな。以後、この話を持ちだすことは許さん」
長官たちの言葉を一蹴する。彼らはばつが悪そうに顔を背けた。
エドワードは嫌気が差した。
十四歳という若さで、イリアスがどれだけ必死で自分を守ってくれたか、いくら伝えても掻き消されてしまう。
彼はノルマンテ大公に傷をつけたい者たちの政治の道具に使われてしまったのだ。
当時、すでに王太子という身でありながら、命の恩人に対して何も出来なかった。
その無念は今でも抱えている。
長官らの主張は王都に住む民衆や我が国の犠牲者ともいえる跳躍者を真に思った言葉ではない。
自らの政治的野心を隠そうともしない、下卑た者がこの国の政治を動かしている。
うんざりした気持ちを隠し、エドワードはそれまで意見を言わなかった宰相に話を振った。
「宰相殿は、なにかあるか」
顔を横に向けると、宰相は小さくうなずくように、ゆっくりと瞬きをした。
「過去のことを持ち出したら切りがありませんので、私はそのことには触れません。あくまで今現在のことを申しましょう」
宰相は淡々と述べ、目を眇める。
「イリアス様。リンデで彼を保護するとのことですが、本当に危険はないと言い切れますか」
宰相はイリアスを見据えた。
「彼は一度、さらわれましたね?」
「王都に被害が出るのは本望ではないが、あくまで懸念でしかない」
ベイルは太い腹を膨らませて、声を張り上げた。
「私が懸念するのは、ノルマンテ大公にこれ以上、力を持たせていいのかということだ」
皆がベイルを見る。
「跳躍者から得られる魔力は国家を転覆させるだけの力がある。それを大公の二人の子息が独占するのはいかがなものか。王家にとって、これは脅威ではないか」
滔々と語ったベイルに、エドワードは心底呆れ返った。
王家と深い結びつきのあるノルマンテ家が、王家に仇をなすと本気で思っているのか。
ノルマンテ大公は国王の威信を守るため、我が子から家名を剥奪したくらいの人物だ。
それに大公家が王家に逆らうつもりであるならば、イリアスが跳躍者を王宮に連れて来るはずがない。リンデという辺境の地で匿い続けるだろう。
エドワードが横目でイリアスを見ると、彼は無表情を貫いていた。
(よくもまあ、平然とした顔をしてられるものだな)
エドワードは内心、苦笑した。おそらく、腹の底ではベイルを罵倒しているだろう。
しかし、意外にもこの論に貴族院長官が賛同した。
「確かに王家よりもノルマンテ家が力を持つのは看過できない。それにこの者は昔、王太子殿下に怪我を負わせたことがあったな」
イリアスが目を見張り、エドワードは眉根を寄せた。
七年前のあの事件のとき、貴族院長官はまだ長官の任にはなかった。一議員としてイリアスを貶める流言飛語に踊らされた人物のひとりだったのかもしれない。
エドワードがイリアスをどれだけ庇ったか知っているのは、この場では宰相くらいだろう。あのとき彼はすでに宰相の座に着いていた。
魔法院長官は事件を思い出したのか、渋面を作った。
「そういえば、あのときイリアス殿はディーテ様からの力の供給で、魔力を暴走させ、魔法院を破壊しましたね。跳躍者を預けるには危険かもしれません。リンデの街を破壊する恐れがありましょう」
イリアスを見ると、彼は絶句していた。
まさか七年前のことをこのように持ち出されるとは思わなかったのだろう。
胸中でため息をつく。
(大公も敵が多いな)
エドワードはそれぞれの意見を聞き、ひとつ苦言を放った。
「かつて私が傷を負ったことは、イリアスがノルマンテ家から出ることで片をつけた。魔力の暴走を危惧しているようだが、あれから何年経ったと思っている。
彼はリンデの警備隊の隊長だぞ。近衛騎士団も彼の実力を認めている。昔と同じように考えるな。以後、この話を持ちだすことは許さん」
長官たちの言葉を一蹴する。彼らはばつが悪そうに顔を背けた。
エドワードは嫌気が差した。
十四歳という若さで、イリアスがどれだけ必死で自分を守ってくれたか、いくら伝えても掻き消されてしまう。
彼はノルマンテ大公に傷をつけたい者たちの政治の道具に使われてしまったのだ。
当時、すでに王太子という身でありながら、命の恩人に対して何も出来なかった。
その無念は今でも抱えている。
長官らの主張は王都に住む民衆や我が国の犠牲者ともいえる跳躍者を真に思った言葉ではない。
自らの政治的野心を隠そうともしない、下卑た者がこの国の政治を動かしている。
うんざりした気持ちを隠し、エドワードはそれまで意見を言わなかった宰相に話を振った。
「宰相殿は、なにかあるか」
顔を横に向けると、宰相は小さくうなずくように、ゆっくりと瞬きをした。
「過去のことを持ち出したら切りがありませんので、私はそのことには触れません。あくまで今現在のことを申しましょう」
宰相は淡々と述べ、目を眇める。
「イリアス様。リンデで彼を保護するとのことですが、本当に危険はないと言い切れますか」
宰相はイリアスを見据えた。
「彼は一度、さらわれましたね?」
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