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第5章 動乱の王宮⑥『宰相の密偵』
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窓もない閉ざされた部屋にざわめきが起こる。
「さらわれた、だと?」
「どういうことですか」
それぞれの口から各々の声が漏れている。
エドワードも驚き、顔を上げた。イリアスは表情を変えずに宰相を見ている。
宰相はその目を見返していた。
「まったく動じないところはさすがというべきですが。殿下、その件について、ご報告してもよろしいですか」
宰相はエドワードに体を向けた。
「言ってみろ」
密偵の報告によれば、と宰相は語った。
彼はその立場から、多くの密偵を他国のみならず自国にも放っている。
自国に入り込んだ他国の密偵の動きを探らせているのだ。
そのうちの一人がリンデでアルミルト法国の密偵を追っていた。
***
隣国の密偵が不穏な動きを見せた。
つけたところ、ルンダの森で人さらいの準備をしていた。
自国の人間が拉致されるのを見過ごすわけにはいかない。
密偵は隣国の企みを阻止した。
始末できればよかったが、隠密行動をする密偵は引き足も速い。
隣国の領土へと逃げ込まれてしまった。
まもなく、馬車が一台やってきた。
アルミルト法国の密偵と待ち合わせていたのだろうが、相手はもういない。
時を置かず魔獣が現れるが、宰相の密偵は木の上から様子を見ていた。
魔獣と戦っても勝ち目はない。
密偵は宰相に事の顛末を報告する義務がある。
なにかを企んでいる隣国の者に自国の者を易々と渡すわけにはいかないが、
魔獣に襲われて死んでしまうならそれまでだ。
ほどなくして、辺境警備隊の隊長自らが救出にやって来た—
***
報告を終えると、宰相は小さく息を吐いた。
「さすがにさらわれたのが跳躍者だとは思いませんでした。その後、跳躍者を王宮に連れていくと連絡が来たときはまさかと思いましたよ」
皆が宰相の言葉に聞き入っていた。
「カイト殿はリンデでは危険はなかったと言っていましたが、口止めしたのですか?」
イリアスは黙した。
仮に口止めはしていないと言ったとて、信じてはもらえないだろうし、どちらにしろ、印象は最悪だ。
(リンデで保護するという功に焦ったか。領主殿であれば、そのあたりの根回しをやっただろうが……。
イリアスもまだ若いな)
エドワードは指を組んで揺らした。
「口止めをしたのか、自ら言わなかったのか、どちらでもかまいませんが」
宰相もイリアスの気質がわかっているのか、強く責め立てることはしなかった。
「私の密偵がたまたま良い働きをしてくれたおかげで、事なきを得ました」
宰相はエドワードに向き直った。
「殿下。イリアス様がおっしゃる王宮への懸念は、彼にしかわからないことで信憑性に欠けます。それよりもリンデでカイト殿が隣国にさらわれかけたという事実を重視すべきでしょう。今後も狙われる可能性があります。私は王宮での保護を薦めます」
エドワードは静かに目を閉じた。
できることならば、イリアスの意向を汲んでやりたかった。
さらわれたという事実がなければ、国王である父上に上申できたかもしれない。
イリアスがそばにいて保護対象者をさらわれるなどありえない。
おそらく別の者の護衛が甘かったのだろう。しかし、それを問うても意味はない。
(父上に伺うまでもないな)
エドワードは、イリアスの負けだ、と思った。
広間は静まり返っていた。誰も口を開かなかった。
(私はまた、おまえに何もしてやれない)
エドワードは心の中で、イリアスに詫びた。
そして、ゆっくりと目を開けた。
「跳躍者フジワラカイトは、王宮で保護する」
エドワードの宣言にイリアスはきつく口を引き結んでいた。
「さらわれた、だと?」
「どういうことですか」
それぞれの口から各々の声が漏れている。
エドワードも驚き、顔を上げた。イリアスは表情を変えずに宰相を見ている。
宰相はその目を見返していた。
「まったく動じないところはさすがというべきですが。殿下、その件について、ご報告してもよろしいですか」
宰相はエドワードに体を向けた。
「言ってみろ」
密偵の報告によれば、と宰相は語った。
彼はその立場から、多くの密偵を他国のみならず自国にも放っている。
自国に入り込んだ他国の密偵の動きを探らせているのだ。
そのうちの一人がリンデでアルミルト法国の密偵を追っていた。
***
隣国の密偵が不穏な動きを見せた。
つけたところ、ルンダの森で人さらいの準備をしていた。
自国の人間が拉致されるのを見過ごすわけにはいかない。
密偵は隣国の企みを阻止した。
始末できればよかったが、隠密行動をする密偵は引き足も速い。
隣国の領土へと逃げ込まれてしまった。
まもなく、馬車が一台やってきた。
アルミルト法国の密偵と待ち合わせていたのだろうが、相手はもういない。
時を置かず魔獣が現れるが、宰相の密偵は木の上から様子を見ていた。
魔獣と戦っても勝ち目はない。
密偵は宰相に事の顛末を報告する義務がある。
なにかを企んでいる隣国の者に自国の者を易々と渡すわけにはいかないが、
魔獣に襲われて死んでしまうならそれまでだ。
ほどなくして、辺境警備隊の隊長自らが救出にやって来た—
***
報告を終えると、宰相は小さく息を吐いた。
「さすがにさらわれたのが跳躍者だとは思いませんでした。その後、跳躍者を王宮に連れていくと連絡が来たときはまさかと思いましたよ」
皆が宰相の言葉に聞き入っていた。
「カイト殿はリンデでは危険はなかったと言っていましたが、口止めしたのですか?」
イリアスは黙した。
仮に口止めはしていないと言ったとて、信じてはもらえないだろうし、どちらにしろ、印象は最悪だ。
(リンデで保護するという功に焦ったか。領主殿であれば、そのあたりの根回しをやっただろうが……。
イリアスもまだ若いな)
エドワードは指を組んで揺らした。
「口止めをしたのか、自ら言わなかったのか、どちらでもかまいませんが」
宰相もイリアスの気質がわかっているのか、強く責め立てることはしなかった。
「私の密偵がたまたま良い働きをしてくれたおかげで、事なきを得ました」
宰相はエドワードに向き直った。
「殿下。イリアス様がおっしゃる王宮への懸念は、彼にしかわからないことで信憑性に欠けます。それよりもリンデでカイト殿が隣国にさらわれかけたという事実を重視すべきでしょう。今後も狙われる可能性があります。私は王宮での保護を薦めます」
エドワードは静かに目を閉じた。
できることならば、イリアスの意向を汲んでやりたかった。
さらわれたという事実がなければ、国王である父上に上申できたかもしれない。
イリアスがそばにいて保護対象者をさらわれるなどありえない。
おそらく別の者の護衛が甘かったのだろう。しかし、それを問うても意味はない。
(父上に伺うまでもないな)
エドワードは、イリアスの負けだ、と思った。
広間は静まり返っていた。誰も口を開かなかった。
(私はまた、おまえに何もしてやれない)
エドワードは心の中で、イリアスに詫びた。
そして、ゆっくりと目を開けた。
「跳躍者フジワラカイトは、王宮で保護する」
エドワードの宣言にイリアスはきつく口を引き結んでいた。
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