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後日譚④『夜の訪問』R
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※R18です。ご注意ください。
魔獣討伐に連れて行かれることが決まったその日の夜、海人は自室のベッドに入って本をめくっていた。明かりは暖炉の火と燭台に灯された三本の蝋燭だけだ。
こちらの世界に来たばかりの頃は蝋燭だけでは暗いと思っていたが、半年以上も経つと目が慣れた。
字も十分に見えるが、まだ覚えていない単語がほとんどだ。
暖炉にくべた薪の爆ぜる音を聞く静かな夜を過ごしていると、扉を叩く音がした。
「カイト。いいか」
イリアスだ。海人の胸が鳴ったが、平静を装った。
「いいよ」
木製の扉が開き、寝衣をまとったイリアスが入ってきた。カイトは開いていた本を脇に置いた。イリアスはベッドに腰かけると、その本を手に取った。
「おとぎ話か」
「うん。グレンさんがこれなら読みやすいだろうって」
「読めたか?」
「あ~。半分くらい、まだわかんない」
海人が苦笑交じりに答えると、イリアスは、ふ、と笑った。
海人の心臓が大きく跳ねた。金色の髪におそろしく整った顔。普段は表情が読めず、笑うことも滅多にないのだが、海人と二人きりのときは、笑ってくれるようになった。
イリアスは本を小机に置くと、その手で海人の頬を触った。
親指でなでられ、鼓動が速くなる。
暖炉の炎が揺れ、イリアスの顔の翳りが深くなった。
「これから先、怖い思いをさせるかもしれん」
昼間、話のあった魔獣討伐のことだろう。
魔獣ホイホイだと言ったシモンの声が蘇り、自然と笑みが出た。海人は灰色の瞳を見つめて言った。
「大丈夫。イリアスがいるから怖くない。守ってくれるんでしょ」
本心だった。この人の圧倒的な強さはよく知っている。
イリアスは返事の代わりに、海人に口づけた。海人もキスを待っていた。
舌が深く入ってきて、搦めとられた。絡めながら吸われて、海人の背に微弱な快感が走った。
魔力の受け渡しのときも舌を入れられたが、あれはお遊戯みたいなものだ。比べ物にならないくらい濃厚で甘美なキスは、快感を引きずりだしてくる。
「……ん……」
イリアスが布団を剥ぎ、かぶさってくると、起こしていた半身が滑って組み敷かれた。
キスは角度を変えて、口を吸われるたびにぞくぞくした。
服の中に手が入ってくる。愛撫する右手が熱い。口腔を侵されながら胸の突起を撫でられた。
「……ぁ」
軽く触られただけで声が出た。
海人はこの半年でずいぶん感じるようになっていた。
イリアスは海人の胸を舐めながら、その手は海人の下部に伸び、硬くなり始めた昂ぶりを握った。直接的な快感にビクッと肩が揺れた。優しく扱かれ、海人は息を荒くした。
「……んくっ」
我慢がきかず、すぐに達してしまう。脱力して、大きく息をした。
呼吸を整えていると、イリアスはじっと海人を見ていたが、ふと海人の上から退いた。
イリアスがそのままベッドから下りようとしたので、慌てて起き上がり、服を掴んだ。イリアスが顔だけを向けた。表情のない美貌に怯みそうになりながら、つぶやくように言った。
「イリアスが、まだ……でしょ……」
達したのは自分だけだ。イリアスも熱を持っているのは、寝衣の上からわかった。それなのに部屋を出て行こうとしたのだ。
海人は恥ずかしさで目を逸らしてしまったが、服を握る手には力が入った。
イリアスにも気持ち良くなってもらいたくて、引っ張った。すると、彼は体の向きを変え、海人を軽く押し倒した。再びベッドに上がってきたので、海人はぎゅっと唇を噛んだ。
今日こそは、と思った。
ところがイリアスは自分の昂ぶりと海人のものを一緒に握り、強く擦った。
海人は、そうじゃない、と思ったが、熱くてぬるぬるしていて、手だけのときより気持ちよくなってしまった。快感は思考を鈍らせる。
海人の息が上がるのと同時に、イリアスの息も乱れてきた。耳元で熱い息を吐かれ、一層感じて、海人はたやすく果てた。イリアスも息を詰めて達した。
余韻に浸ることなく、イリアスは海人に優しくキスをして、今度こそ部屋を出て行った。
海人は閉じられた扉を見て、ため息を吐いた。
想いを交わし合って、すでに半年。実はまだ体をつなげていなかった。
原因はわかっている。自分のせいだ。
イリアスの部屋で初めて体を触られてから、数日後、また触れ合う機会があった。そのとき後孔に指を入れられて、嫌がってしまったのだ。
イリアスのものが入るとは思えずに、痛みを想像して怖くなった。だが、男同士でも体をつなげられることは知っている。
これはやればできるはずだと思って、次のときに「いいよ」と言ってみた。だが緊張で体が固くなってしまったせいか、指ですら思うように吞み込めなかった。
痛いとは言わなかったが、違和感に耐えているのがわかったのだろう。「無理をするな」と言われ、その日以降イリアスは海人の後孔を触らなくなった。
海人はあのとき何故「やだ」と言ってしまったのか、後悔している。
初めてのことに口をついて出てしまっただけだ。本気で嫌だったわけではない。
今のままでも気持ち良いのは確かだが、触れられるたびに思う。
もっと深くつながってみたい、と。
そして体を結ぶことで現れるという『竜の瞳』を見たかった。
海人はイリアスの気を変えるにはどうすればいいんだろう、と長い息を吐いた。
魔獣討伐に連れて行かれることが決まったその日の夜、海人は自室のベッドに入って本をめくっていた。明かりは暖炉の火と燭台に灯された三本の蝋燭だけだ。
こちらの世界に来たばかりの頃は蝋燭だけでは暗いと思っていたが、半年以上も経つと目が慣れた。
字も十分に見えるが、まだ覚えていない単語がほとんどだ。
暖炉にくべた薪の爆ぜる音を聞く静かな夜を過ごしていると、扉を叩く音がした。
「カイト。いいか」
イリアスだ。海人の胸が鳴ったが、平静を装った。
「いいよ」
木製の扉が開き、寝衣をまとったイリアスが入ってきた。カイトは開いていた本を脇に置いた。イリアスはベッドに腰かけると、その本を手に取った。
「おとぎ話か」
「うん。グレンさんがこれなら読みやすいだろうって」
「読めたか?」
「あ~。半分くらい、まだわかんない」
海人が苦笑交じりに答えると、イリアスは、ふ、と笑った。
海人の心臓が大きく跳ねた。金色の髪におそろしく整った顔。普段は表情が読めず、笑うことも滅多にないのだが、海人と二人きりのときは、笑ってくれるようになった。
イリアスは本を小机に置くと、その手で海人の頬を触った。
親指でなでられ、鼓動が速くなる。
暖炉の炎が揺れ、イリアスの顔の翳りが深くなった。
「これから先、怖い思いをさせるかもしれん」
昼間、話のあった魔獣討伐のことだろう。
魔獣ホイホイだと言ったシモンの声が蘇り、自然と笑みが出た。海人は灰色の瞳を見つめて言った。
「大丈夫。イリアスがいるから怖くない。守ってくれるんでしょ」
本心だった。この人の圧倒的な強さはよく知っている。
イリアスは返事の代わりに、海人に口づけた。海人もキスを待っていた。
舌が深く入ってきて、搦めとられた。絡めながら吸われて、海人の背に微弱な快感が走った。
魔力の受け渡しのときも舌を入れられたが、あれはお遊戯みたいなものだ。比べ物にならないくらい濃厚で甘美なキスは、快感を引きずりだしてくる。
「……ん……」
イリアスが布団を剥ぎ、かぶさってくると、起こしていた半身が滑って組み敷かれた。
キスは角度を変えて、口を吸われるたびにぞくぞくした。
服の中に手が入ってくる。愛撫する右手が熱い。口腔を侵されながら胸の突起を撫でられた。
「……ぁ」
軽く触られただけで声が出た。
海人はこの半年でずいぶん感じるようになっていた。
イリアスは海人の胸を舐めながら、その手は海人の下部に伸び、硬くなり始めた昂ぶりを握った。直接的な快感にビクッと肩が揺れた。優しく扱かれ、海人は息を荒くした。
「……んくっ」
我慢がきかず、すぐに達してしまう。脱力して、大きく息をした。
呼吸を整えていると、イリアスはじっと海人を見ていたが、ふと海人の上から退いた。
イリアスがそのままベッドから下りようとしたので、慌てて起き上がり、服を掴んだ。イリアスが顔だけを向けた。表情のない美貌に怯みそうになりながら、つぶやくように言った。
「イリアスが、まだ……でしょ……」
達したのは自分だけだ。イリアスも熱を持っているのは、寝衣の上からわかった。それなのに部屋を出て行こうとしたのだ。
海人は恥ずかしさで目を逸らしてしまったが、服を握る手には力が入った。
イリアスにも気持ち良くなってもらいたくて、引っ張った。すると、彼は体の向きを変え、海人を軽く押し倒した。再びベッドに上がってきたので、海人はぎゅっと唇を噛んだ。
今日こそは、と思った。
ところがイリアスは自分の昂ぶりと海人のものを一緒に握り、強く擦った。
海人は、そうじゃない、と思ったが、熱くてぬるぬるしていて、手だけのときより気持ちよくなってしまった。快感は思考を鈍らせる。
海人の息が上がるのと同時に、イリアスの息も乱れてきた。耳元で熱い息を吐かれ、一層感じて、海人はたやすく果てた。イリアスも息を詰めて達した。
余韻に浸ることなく、イリアスは海人に優しくキスをして、今度こそ部屋を出て行った。
海人は閉じられた扉を見て、ため息を吐いた。
想いを交わし合って、すでに半年。実はまだ体をつなげていなかった。
原因はわかっている。自分のせいだ。
イリアスの部屋で初めて体を触られてから、数日後、また触れ合う機会があった。そのとき後孔に指を入れられて、嫌がってしまったのだ。
イリアスのものが入るとは思えずに、痛みを想像して怖くなった。だが、男同士でも体をつなげられることは知っている。
これはやればできるはずだと思って、次のときに「いいよ」と言ってみた。だが緊張で体が固くなってしまったせいか、指ですら思うように吞み込めなかった。
痛いとは言わなかったが、違和感に耐えているのがわかったのだろう。「無理をするな」と言われ、その日以降イリアスは海人の後孔を触らなくなった。
海人はあのとき何故「やだ」と言ってしまったのか、後悔している。
初めてのことに口をついて出てしまっただけだ。本気で嫌だったわけではない。
今のままでも気持ち良いのは確かだが、触れられるたびに思う。
もっと深くつながってみたい、と。
そして体を結ぶことで現れるという『竜の瞳』を見たかった。
海人はイリアスの気を変えるにはどうすればいいんだろう、と長い息を吐いた。
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