102 / 117
後日譚⑩『助言』
しおりを挟む
先輩二人がいなくなると、談話室は静まり返った。
シモンは脱力して、ストンとソファに腰を落とした。手で顔を覆う。
どっと疲れた。
カイトは苦笑混じりに言った。
「二人してからかわれちゃったね」
二人というより、シモンがからかわれたのだ。
普段からあの二人にはおちょくられているが、まさかカイトを交えてくるとは思わなかった。
はあ、とひと息つきながら、片目でカイトを見た。
「……マリアージュがどんな店かわかったか?」
カイトは頬をかいた。
「うん。女の人が相手する店だよね」
「そう。娼館だから」
「……途中でなんとなく気づいてたんだけど、口を挟めなくて」
シモンが必死で娼館行きを阻止しようとしているのを黙ってみていたわけだ。
申し訳なさそうにするので。額を指で弾いた。デコピンだ。
カイトが肩を竦めて「ごめん」と笑った。
シモンがソファにもたれかかるとカイトは「あのさ」と言いかけて淀んだ。
顔だけ向けると、軽く目を伏せて言った。
「騎士の人に『騎士みたい』って言ったら、怒る、よね」
黒い瞳がゆらゆらしている。
「人によるんじゃないの。俺は怒んないけど」
シモンが「なんで」と訊くと、カイトはためらいながら、隊長を怒らせたかもしれない、と言った。
さらに事情を問うと、シモンが令嬢を送りに出た後の会話を教えてくれた。
「謝った方がいいかな……」
隊長は冷静沈着で感情が表に出ることはほとんどないが、声音やちょっとした動作で心情がわかったりする。
カイトも不穏な雰囲気を感じ取ったようで、不安になったのだろう。
隊長は滅多に怒ったりしない。だから余計に気になるのもわかる。
カイトは自分の何が失言だったのか、気づいていなかった。
「隊長は騎士っぽいって言われたから、不機嫌になったわけじゃない」
シモンはソファに沈めていた体を起こした。
「おまえに、あの子とお似合いだって言われたからだろ」
カイトの口が、え、と動いた。
やれやれ、と思った。
「自分の恋人に他の子とお似合いだって言われたんだ。そりゃショックだろ。俺がそんなこと言われたら、俺のこと好きじゃないのかよって思うよ」
シモンが呆れて言うと、カイトは動揺した。
「おれ……そんなつもりで言ったんじゃ……」
「わかってるよ。カイトは見たままを言ったんだろ。隊長だってわかってると思う。でも、面白くなかったんだろ」
カイトはうつむいた。何か考えているようだった。
シモンはソファの背もたれに腕を置いて、カイトに体を向けた。
「カイトって、嫉妬したりしねえの?」
「え?」
「だから、隊長に可愛い子が寄ってきても、嫉妬しないのかって」
カイトは少し考えるようにして、答えた。
「あんまり……。イリアスは綺麗でかっこいいからモテるのも当然っていうか。そんなの気にしてらんないよ。それにイリアスが寄ってくる人をあしらってるのは知ってるから、嫉妬する必要ないっていうか」
事も無げに言うカイトに、シモンは空を仰ぎたい気分になった。
隊長も厄介な奴を好きになったなあと思った。
隊長はおそらく、独占欲が強い。今まで色恋沙汰を見たことはなかったので、わからなかった。
だが、ルヴェン家の令嬢に浮かべてみせた笑みに肝が冷えた。
カイトは可愛い女の子を前に、照れていた。そして彼女がカイトに興味を持って話しかけたとき。
普段、笑うこともない隊長が見せた、あの美しい極上の笑み。
あれは彼女に強烈に嫉妬した裏返しのような気がしてならない。
カイトは膝を見つめて、思案顔のままだ。
嫉妬しないとのたまったカイトではあるが、隊長のことはちゃんと好きなようだ。
些細なことを気にしているくらいだ。互いの気持ちは通じ合っている。
だが、言葉足らずの隊長とどこか鈍いカイト。
すれ違って拗れることがなければいいが、とシモンは思った。
シモンは脱力して、ストンとソファに腰を落とした。手で顔を覆う。
どっと疲れた。
カイトは苦笑混じりに言った。
「二人してからかわれちゃったね」
二人というより、シモンがからかわれたのだ。
普段からあの二人にはおちょくられているが、まさかカイトを交えてくるとは思わなかった。
はあ、とひと息つきながら、片目でカイトを見た。
「……マリアージュがどんな店かわかったか?」
カイトは頬をかいた。
「うん。女の人が相手する店だよね」
「そう。娼館だから」
「……途中でなんとなく気づいてたんだけど、口を挟めなくて」
シモンが必死で娼館行きを阻止しようとしているのを黙ってみていたわけだ。
申し訳なさそうにするので。額を指で弾いた。デコピンだ。
カイトが肩を竦めて「ごめん」と笑った。
シモンがソファにもたれかかるとカイトは「あのさ」と言いかけて淀んだ。
顔だけ向けると、軽く目を伏せて言った。
「騎士の人に『騎士みたい』って言ったら、怒る、よね」
黒い瞳がゆらゆらしている。
「人によるんじゃないの。俺は怒んないけど」
シモンが「なんで」と訊くと、カイトはためらいながら、隊長を怒らせたかもしれない、と言った。
さらに事情を問うと、シモンが令嬢を送りに出た後の会話を教えてくれた。
「謝った方がいいかな……」
隊長は冷静沈着で感情が表に出ることはほとんどないが、声音やちょっとした動作で心情がわかったりする。
カイトも不穏な雰囲気を感じ取ったようで、不安になったのだろう。
隊長は滅多に怒ったりしない。だから余計に気になるのもわかる。
カイトは自分の何が失言だったのか、気づいていなかった。
「隊長は騎士っぽいって言われたから、不機嫌になったわけじゃない」
シモンはソファに沈めていた体を起こした。
「おまえに、あの子とお似合いだって言われたからだろ」
カイトの口が、え、と動いた。
やれやれ、と思った。
「自分の恋人に他の子とお似合いだって言われたんだ。そりゃショックだろ。俺がそんなこと言われたら、俺のこと好きじゃないのかよって思うよ」
シモンが呆れて言うと、カイトは動揺した。
「おれ……そんなつもりで言ったんじゃ……」
「わかってるよ。カイトは見たままを言ったんだろ。隊長だってわかってると思う。でも、面白くなかったんだろ」
カイトはうつむいた。何か考えているようだった。
シモンはソファの背もたれに腕を置いて、カイトに体を向けた。
「カイトって、嫉妬したりしねえの?」
「え?」
「だから、隊長に可愛い子が寄ってきても、嫉妬しないのかって」
カイトは少し考えるようにして、答えた。
「あんまり……。イリアスは綺麗でかっこいいからモテるのも当然っていうか。そんなの気にしてらんないよ。それにイリアスが寄ってくる人をあしらってるのは知ってるから、嫉妬する必要ないっていうか」
事も無げに言うカイトに、シモンは空を仰ぎたい気分になった。
隊長も厄介な奴を好きになったなあと思った。
隊長はおそらく、独占欲が強い。今まで色恋沙汰を見たことはなかったので、わからなかった。
だが、ルヴェン家の令嬢に浮かべてみせた笑みに肝が冷えた。
カイトは可愛い女の子を前に、照れていた。そして彼女がカイトに興味を持って話しかけたとき。
普段、笑うこともない隊長が見せた、あの美しい極上の笑み。
あれは彼女に強烈に嫉妬した裏返しのような気がしてならない。
カイトは膝を見つめて、思案顔のままだ。
嫉妬しないとのたまったカイトではあるが、隊長のことはちゃんと好きなようだ。
些細なことを気にしているくらいだ。互いの気持ちは通じ合っている。
だが、言葉足らずの隊長とどこか鈍いカイト。
すれ違って拗れることがなければいいが、とシモンは思った。
17
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる