異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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後日譚⑭『同郷の計らい』

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 ユリウス滞在二日目の朝、海人が窓の外を見るとイリアスが庭にいた。

 朝は大概、剣を振っているが、今日は違った。何も持っていない代わりに指先を合わせていた。魔法を使っているようだった。
 
 朝食を食べに食事の間に行くと、マーシャが配膳の準備をしているくらいで、誰もいなかった。

 海人はイリアスが座る椅子の隣に座った。普段はイリアスと向かい合わせなのだが、客人がいる間はここだと言われた。

 しばらくすると、執事のグレンと共にユリウスがやってきた。

 朝の挨拶を交わし、いつも海人が座っている席に着いた。その顔色が悪い気がする。

「ユリウスさん、疲れてますか?」

 海人が心配して声を掛けると、ユリウスは口端を上げて「大丈夫だ」と言った。

「早朝からイリアスが結界作りの練習をしていてな。霊脈が揺れるのが気になるだけだ」

 少し寝不足なのかもしれない。

「視えるのも大変なんですね」

 海人が言ったところで、イリアスが入ってきた。

「兄上、申し訳ありません。気になりましたか」

 イリアスが椅子を引きながら言う。

「かまわん。私がいる間に形にはしろよ」
「はい。そのつもりです」

 二人がまた魔法談義に入ってしまったので、海人は蚊帳の外だった。

 その間、ユリウスを見ていた。イリアスと違って表情があるので、面白い。

 顔が似ている兄弟でもこんなに違うのかと思っていると、伯爵がやって来た。見計らったかのように朝食が運ばれてくる。

「ノルマンテ様。本日はどのようにお過ごしになられますか」

 伯爵が訊いた。

「せっかくだから、リンデの街を見て回りたいのだが……領主殿のお手を煩わすわけにはいかんし、イリアスは結界の練習が優先。となれば」

 ユリウスは伯爵、イリアスと目を移し、海人を見る。

「カイトに頼もうか」

 にこりと笑うその顔は有無を言わせない。急にお鉢が回ってきて、海人は慌てた。

「あ、はい。おれでよければ……」
「ああ、よろしくな」

 ふと緩めた優しい瞳にどきりとした。イリアスと同じ微笑み方だったからだ。

 動揺したのがバレないように、蒸したキノコを食べた。どこを案内しようか考えを巡らせ始めると、

「もうひとつ、お伝えしたいことが」

 と、伯爵が言った。

「今夜は私もイリアスもそれぞれ先約があり、そちらに参りたいのですが」
「無理を言ってきたのはこちらだ。気にせず出掛けてくれ」

 客人を置いて出掛けるなど無礼千万だが、ユリウスは機嫌を損ねることもなかった。
 
 伯爵は丁重に礼を言った。

 その後、朝食は和やかに続き、海人はユリウスと共に出掛け、リンデの街を案内をした。

 といっても、案内できるほど詳しくもなく、商店が並ぶ街通りを歩き、イリアスが連れて行ってくれた教会や噴水のある広場を見て回った。

 昼食はグレンがサンドイッチを持たせてくれたので、公園で食べた。

 なんかデートみたいだなとぼんやり思いつつ、充分に歩いたので、屋敷に帰ることにした。

 庭で結界の練習をしているイリアスに顔を見せ、帰宅したことを知らせる。

 イリアスは汗をかいていた。ユリウスはしばし、その練習風景を見た後、敷地内を歩きたいと言い出した。

 王宮ほどではないが、領主家の庭も広い。朝は顔色が悪かったし、疲れていないのか気になった。

「部屋で休まなくて大丈夫ですか?」

 海人が訊くと、ユリウスは苦笑いした。

「屋敷の中だと、霊脈が揺れるのが気になってな。少し離れたところで休みたい」

 そういうことなら、と海人は庭外れにあるお気に入りの場所にユリウスを連れて行った。

 そこは緑が生い茂る一本の大きな樹があり、木陰になっている。

 春の陽射しが心地良いので、海人はたまにここで本を読んだり、昼寝したりしていた。ここなら休めるだろう。

 ユリウスは木にもたれて座り、片足を伸ばした。

「あの、ゆっくりしてください。おれは屋敷に戻ってるんで……」

 海人が去ろうとすると、隣に座るように言われる。戸惑いがちに腰を下ろすと、ユリウスはおもむろに口を開いた。

「なにか悩みがあるようだが」
「?」

 海人はなんのことかな、と思った。

「ディーテに手紙を出しただろう?」

 その一言に一気に顔が熱くなった。思い当たる節があった。

「読んだんですか⁉」

 思わず声が大きくなる。ユリウスは小さく笑った。

「君たちの国の文字は読めんよ。ディーテから海人の悩みを訊いてこいと言われた」

 ディーテとは王宮にいるもうひとりの異世界人、佐井賀翔のことだ。

 十六年前に海人と同じように日本からこの世界に跳ばされ、以来王宮で暮らしている。

 この世界の人間に本名を明かさず『アフロディーテ』と名乗っていたため、彼と親しい者は佐井賀のことをディーテと呼んでいる。

 海人が唯一、日本語で文通できる相手だ。

 ユリウスが横目で見てくる。

「あ、あの、他に人がいるし……」

 海人は衛兵をちらりと見た。街を散歩しているときも、今もだが、近くにユリウスの護衛がいる。

 邪魔をしないように距離をとってくれてはいるが、会話は届いてしまう。

 すると、ユリウスは護衛に離れるように言った。衛兵は一礼をして屋敷の方に去って行く。

 声が届かなくなるほど離れたのを見ても、海人は口を結んでいた。

 人払いされたとはいえ、言えない。

『あなたの弟が最後までセックスしてくれません』、なんて言えるわけがない!

 海人は赤い顔で両膝に額をくっつけた。

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