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後日譚㉒『イリアスの言葉』
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海人に華やかな笑顔を向けながら少女が言った。
「このようなところでお会いできるなんて」
駐屯地に来ていた、見惚れるような美少女である。
海人が口を開こうとしたとき、ユリウスが先手を取った。
「どちらの御令嬢かな」
にっこりしていたが、目が笑っていなかった。彼女は胸に手をあてた。
「わたくしは、リエンヌ=ルヴェンと申します。サラディール様……ではありません?」
イリアスとユリウスは似ている。
遠目から見て間違うことはあっても、近づけば別人だとわかる。ユリウスは乾いた笑みのまま、
「関係者ではあるが、サラディールではない」
と言って、名乗らなかった。リエンヌもそれ以上は聞かなかった。彼女は海人の方を向いた。
「あの、せっかくお会いできたのですが、どうしても訊きたいことがあるのです」
困ったように言う顔もまた愛らしい。
海人は唐突なことに戸惑った。が、リエンヌは返事を待たずに言った。
「サラディール様が昨日仰っていたことをお伺いしたいのです」
海人はどきりとした。
「昨日って……舞踏会でってことですか?」
「はい」
リエンヌは可憐な顔を曇らせた。
駐屯地でイリアスと並んでいたときは美男美女だ、くらいにしか思わなかったが、彼女がイリアスに手を取られて踊ったのかと思うと、胸がざわついた。
海人はちらとユリウスを見ると「訊け」と目で促された。
「なんでしょうか」
海人の声が上擦った。リエンヌは形の良い眉を寄せて言った。
「あなた様はサラディール様のもの、というのは、どういう意味でしょうか」
「え⁉」
思わず大きな声が出て、周囲が顔を上げた。海人がすみません、と頭を下げると客たちは食事に戻った。
リエンヌは可愛らしく両手を胸の前で握っていた。その顔はいたって真剣である。
海人も混乱していると、ユリウスが口を開いた。
「正確に言ってくれるか。イリアスは君になんと言った?」
彼女は言いたくなさそうだったが、ユリウスの威圧に負けたのか、つぶやくように口にした。
「『彼は私のものだ。あなたには渡さない』」
瞬間、海人はゆでだこのように耳まで真っ赤になった。
ユリウスは咳払いをして、肩を震わせている。リエンヌだけが困った顔をしていた。
「あの……そ、それは……」
海人がしどろもどろしていると、ユリウスが助け舟を出してくれた。
「言葉の通りだ。意味がわからないようなら、まだ子供だな」
リエンヌはカッと頬を染めた。子供扱いされたことを恥じたのか、意味がわかったのか、どちらなのかは海人にはわからなかった。
「リエンヌ嬢」
愉快そうに肩を揺らしていたユリウスが不意に真顔になった。
「そこの彼はノルマンテ大公家に連なる者だ。これ以上立ち入るな。深入りするなら、大公家を敵に回すと思え」
ユリウスが声を潜めて言うと、リエンヌは口元に手をやり、青ざめた。
サッとお辞儀をすると、店の入り口に向かった。
彼女の連れと思われる男が少女の名を呼びながら追いかけていった。
海人はユリウスを見た。
「なんか、脅してませんでした?」
「あれくらい言わんと付きまとわれるぞ。カイトが彼女とどうにかなりたいんなら、余計な世話だったがな」
ユリウスが意地悪く言ったので、海人は頬を掻きながら礼を言った。
「それにしても、大公家ってすごいんですね。名前を聞くと、みんな固まってしまう」
感心すると、ユリウスは皮肉そうに笑った。
「面倒なことも多いが、邪魔な貴族を黙らせるには役に立つ。使えるものは使わんとな」
海人は目を見張り、くすりと笑った。
王宮に行ったとき、イリアスも大公家の名を使って似たようなことをしていた。
海人がこっそり笑っていると、ユリウスが「それよりも」と言った。
海人が顔を上げると、神妙な顔をしている。
「ディーテは私のことをなんて言っているんだ」
海人は思わず吹き出した。
イリアスとの中を取り持とうとしてくれているのに、自分の恋人のことになるとうまく立ち回れないようだ。
今回はユリウスにいろいろと助けてもらった。佐井賀には悪いが、少しだけ教えてあげることにした。そう、あの手紙に書かれていた盛大な愚痴のひとつかふたつを。
「このようなところでお会いできるなんて」
駐屯地に来ていた、見惚れるような美少女である。
海人が口を開こうとしたとき、ユリウスが先手を取った。
「どちらの御令嬢かな」
にっこりしていたが、目が笑っていなかった。彼女は胸に手をあてた。
「わたくしは、リエンヌ=ルヴェンと申します。サラディール様……ではありません?」
イリアスとユリウスは似ている。
遠目から見て間違うことはあっても、近づけば別人だとわかる。ユリウスは乾いた笑みのまま、
「関係者ではあるが、サラディールではない」
と言って、名乗らなかった。リエンヌもそれ以上は聞かなかった。彼女は海人の方を向いた。
「あの、せっかくお会いできたのですが、どうしても訊きたいことがあるのです」
困ったように言う顔もまた愛らしい。
海人は唐突なことに戸惑った。が、リエンヌは返事を待たずに言った。
「サラディール様が昨日仰っていたことをお伺いしたいのです」
海人はどきりとした。
「昨日って……舞踏会でってことですか?」
「はい」
リエンヌは可憐な顔を曇らせた。
駐屯地でイリアスと並んでいたときは美男美女だ、くらいにしか思わなかったが、彼女がイリアスに手を取られて踊ったのかと思うと、胸がざわついた。
海人はちらとユリウスを見ると「訊け」と目で促された。
「なんでしょうか」
海人の声が上擦った。リエンヌは形の良い眉を寄せて言った。
「あなた様はサラディール様のもの、というのは、どういう意味でしょうか」
「え⁉」
思わず大きな声が出て、周囲が顔を上げた。海人がすみません、と頭を下げると客たちは食事に戻った。
リエンヌは可愛らしく両手を胸の前で握っていた。その顔はいたって真剣である。
海人も混乱していると、ユリウスが口を開いた。
「正確に言ってくれるか。イリアスは君になんと言った?」
彼女は言いたくなさそうだったが、ユリウスの威圧に負けたのか、つぶやくように口にした。
「『彼は私のものだ。あなたには渡さない』」
瞬間、海人はゆでだこのように耳まで真っ赤になった。
ユリウスは咳払いをして、肩を震わせている。リエンヌだけが困った顔をしていた。
「あの……そ、それは……」
海人がしどろもどろしていると、ユリウスが助け舟を出してくれた。
「言葉の通りだ。意味がわからないようなら、まだ子供だな」
リエンヌはカッと頬を染めた。子供扱いされたことを恥じたのか、意味がわかったのか、どちらなのかは海人にはわからなかった。
「リエンヌ嬢」
愉快そうに肩を揺らしていたユリウスが不意に真顔になった。
「そこの彼はノルマンテ大公家に連なる者だ。これ以上立ち入るな。深入りするなら、大公家を敵に回すと思え」
ユリウスが声を潜めて言うと、リエンヌは口元に手をやり、青ざめた。
サッとお辞儀をすると、店の入り口に向かった。
彼女の連れと思われる男が少女の名を呼びながら追いかけていった。
海人はユリウスを見た。
「なんか、脅してませんでした?」
「あれくらい言わんと付きまとわれるぞ。カイトが彼女とどうにかなりたいんなら、余計な世話だったがな」
ユリウスが意地悪く言ったので、海人は頬を掻きながら礼を言った。
「それにしても、大公家ってすごいんですね。名前を聞くと、みんな固まってしまう」
感心すると、ユリウスは皮肉そうに笑った。
「面倒なことも多いが、邪魔な貴族を黙らせるには役に立つ。使えるものは使わんとな」
海人は目を見張り、くすりと笑った。
王宮に行ったとき、イリアスも大公家の名を使って似たようなことをしていた。
海人がこっそり笑っていると、ユリウスが「それよりも」と言った。
海人が顔を上げると、神妙な顔をしている。
「ディーテは私のことをなんて言っているんだ」
海人は思わず吹き出した。
イリアスとの中を取り持とうとしてくれているのに、自分の恋人のことになるとうまく立ち回れないようだ。
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