異世界美貌の騎士様は、キスで魔力をもっていく

琉希

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後日譚㉑『ユリウスの仲裁』

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 翌朝、海人は消化しきれない気持ちを抱えて、朝食を食べに一階に下りた。

 伯爵の席に食器がない。まだ帰って来ていないようだ。
 
 イリアスは隊服を着て座っているので、今日は駐屯地に行くのだろう。海人は無言で席に着いた。

「おはよう」

 イリアスが代わり映えなく挨拶してきたので、ぼそりと返した。

 昨夜はよく眠れなかった。

 イリアスの服に付いていた香水のことで、嫌なことばかりが頭をよぎった。

 ユリウスが遅れて入ってくると、食事が運ばれてきた。睡眠不足のせいか、食欲がなかった。

 パンを小さく千切り、もそもそと食べる。スープやキノコを少し口にし、フォークとナイフを置いた。

「カイト」

 食べ終わったイリアスが声を掛けてきた。

 いつもならこのまま駐屯地に共に行くが、海人は下を向いたまま言った。

「今日はユリウスさんと一緒にいる」

 気持ちの整理がつかないまま、そばにいたくなかった。

 何か言われるかと思ったが、イリアスは気にも留めなかった。

「兄上、よろしいですか」
「かまわんよ。昼は外で食べたい。どこか教えてくれ」
「それなら『シルフレイン』がいいでしょう。グレン、手配しておいてくれ」

 淡々と話しが進み、イリアスは食卓を後にした。

 海人は顔を上げられなかった。子供みたいな我がままを言った自分に嫌気が差した。

「カイト。昼まで寝てくるといい」

 ユリウスはまるですべてを知っているかのように優しく声をかけてくれた。

 海人は小さくうなずき、部屋に戻ってひと眠りすることにした。


***


 太陽が中天に差し掛かった頃、グレンに起こされた。

 ユリウスは海人が以前、使っていた部屋に泊まっている。顔を出して、休ませてくれた礼を言うと「私も寝不足だったからな、ちょうどよかった」と笑った。

 昼食に選んだ店『シルフレイン』は貴族街にある高級レストランだ。

 貴族だけではなく、富豪の商人といった上流階級が利用するらしい。

 こういう店は肩が凝るので、海人はあまり好きではなかったが、料理はとても美味しかったことを覚えている。

 雑な盛り付けの多い庶民の店とは違い、洗練されている店だった。

 ユリウスの馬車で向かい、店に入ると海人を見た給仕係が「サラディール様ですね」とにこやかに言った。

 海人のことを覚えていたようだ。

 給仕係に案内された店内には、客がまばらにいた。皆、静かに食事を楽しんでいる。

 海人たちは窓際の見晴らしの良い席に案内された。メニューの説明はユリウスが聞いてくれる。

 海人がこういう店に慣れていないのは百も承知だ。

 給仕係が下がると、ユリウスがのんびりした声で言った。

「夕べは喧嘩でもしたか」

 海人は言葉に詰まった。どう言おうかと視線を泳がせていると、

「あれは弟が悪い」

 と、ずばりと言った。

「私もイリアスの部屋に行ったからわかる。あれはひどい香りだったな」

 海人は口をきゅっと結んだ。移り香のことだ。

 給仕係がやってきて、ユリウスのグラスに食前酒を注ぐ。海人は水を頼んだ。

 給仕係の後ろ姿を見やり、ユリウスは続けた。

「だがな、カイト。おまえが心配するようなことはないよ。昨日は舞踏会だったからな」
「舞踏会?」

 ユリウスは食前酒をひとくち飲んだ。

「貴族の間ではよくあることだ。何人もの女と踊るから、匂いも移る。別に誰かと何かあったわけではない」

 海人は小さく口を開けた。

「そうだったんだ……」

 つぶやくと、ユリウスが苦笑した。

「独身貴族の集まりだからな。若い女ばかりだし、言いづらかったんだろう。ただ、男も同世代が多く参加する。交流を深める場にもなるのだ。許してやってくれ」

 海人は視線を落とした。

「おれ、謝らなきゃ」

 ユリウスが何かあったのか訊いてきたので、突き飛ばしたことを言った。

「謝る必要はない。言ったろう、あいつが悪いと」
「でも……」
「カイトに嫌われたくなくて黙っていた結果、墓穴を掘ったんだ。自業自得だ」

 運ばれてきた肉料理を優雅に切りながら、口ぶりは容赦ない。海人も音を立てないように、そろそろと肉にナイフを入れた。

 ユリウスの言葉を反芻する。

(おれに、嫌われたくなくて……)

 そうかと思ったら、少し元気が出てきた。同時に食欲も出てくる。

 自然と笑みが浮かび、顔を上げたら、柔らかな瞳があった。

 海人と目が合うと、うなずくように笑い、フォークを口に入れた。

 この人も、本当に優しい。

 海人はほっこりしながら、だからこそ不思議に思うことが自然と口に出た。

「ユリウスさんは、なんでいつも佐井賀さんを怒らすんですか」
「!」

 途端、ユリウスの手が止まった。美麗な顔に驚きが浮かんでいる。まじまじと見てきた。

 海人は気にせず肉を食む。

「イリアスも喧嘩はいつものことだって言ってたし……」
「待て。ディーテは私のことをなんと言っているんだ」

 ユリウスがフォークを置いた。思いの外、真剣な顔をしたので、まずかったかなと思った。

「あ、えっと……大したことじゃないです」
「こら。気になるじゃないか」

 ユリウスが軽く身を乗り出したとき、

「サラディール様?」

 と、別の声が割って入った。
 
 声のした方を向くと、少し離れたところから、こちらを窺うように少女が立っていた。

 その顔に見覚えがあった。

「あ……」

 海人が声を上げると、花咲くような笑みを浮かべた美少女が近寄ってきた。
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