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第4話
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安心したらトイレに行きたくなり、レイに断って傍を離れた。
トイレに入ったとき、ふと鏡に映ったこの身体の容姿を見て、驚いた。
自分でいうのもなんだが、中性的な顔立ちで整っている。顎のラインは細いし、目もくっきりしていて、鼻筋も通っていた。肌も色白で、まちがいなく美青年といえる。
あの異空間の中で、『泉サキ』はこの身体はいやだと言っていた。
これだけの容姿ならモテるだろうに、何が不満だったのだろうか。化粧をしたら女に間違われそうな顔だからだろうか。
そう思ったら、ふと、この身体は本当に男なのだろうかと疑念が湧いた。ズボンのボタンを外し、パンツを指で引っ張り確認する。間違いなく男だった。
用を足し、トイレから出ると待合室にいたレイが「帰ろう」と言った。
「会計は?」と訊いたら、無料なのだという。医療施設がタダというのは、ありがたい。日本だったらどれくらい取られただろうかと、詮無いことを考えた。
病院を出ると、辺りは茜色に染まっていた。夕暮れの涼しい風に身震いする。
レイは病院前に停まっていたタクシーに乗った。一緒に乗るように言われた。
車中でいろいろ訊きたかったが、深刻な表情を浮かべ、窓の外を見ているレイに話しかけることはできなかった。
彼は自分のせいで泉サキが記憶喪失になったと思っているだろう。
『大きな意識』の手違いで魂が抜けて、別の魂が入っただけなので気にするなと言ってあげたかったが、頭がおかしくなったと思われそうなので、黙っておく。
運転手も話しかけてくることもなく、ただ景色が流れていた。サキは暮れゆく窓の外を見ながら、風景は日本と似ているなと思った。
十分ほどでタクシーは目的地に停まった。灰色の外壁をしたマンションが目の前にあった。
レイに連れられ、マンションのエレベーターに乗ると八階建てだとわかった。五階で降りる。サキの家まで連れて来てくれたのかと思ったが、レイは自分のポケットから鍵を取り出した。
「ここ、どこかわかる?」
わかるわけがない。首を横に振る。
「おれの家だけど、サキも一緒に住んでるんだ」
え、と目を見張った。
レイが「入って」と言うので靴を脱いで上がった。こんなところも日本にそっくりだった。
廊下を進むと部屋がふたつ並んでいた。その先のドアを開けると、ダイニングとリビングがつながった広い部屋があった。キッチンがあり、ダイニングテーブルが横づけされている。部屋の真ん中にはとソファーとローテーブルが置かれていた。
レイの家だと言っていたが、大学生が住むには贅沢な部屋だった。子供のいる家族が住める広さだ。ドアの近くで立ち止まっていると、
「夕飯、なんでもいい?」
と言われ、うなずくとレイは手元の携帯端末を触った。スマホで注文といったところだろう。
「座って待ってて」
目線でダイニングテーブルを示されたので、手前にあった椅子をひくと、
「サキはいつもこっち」
と反対の椅子を示された。定位置があるらしい。
大人しく移動すると、レイはサキが引いた椅子に座った。
レイは携帯端末を触っている。その顔は疲れているようだった。サキは彼が端末から目を離すのを見計らって、口を開いた。
「霧島さん。おれたちはルームシェアをしている大学の友達ってことですか?」
訊くと、レイは表情を曇らせた。
「ちがう」
「違うんですか?」
「……恋人だから」
「えっ!」
サキは驚きの声を上げた。
「一週間前、別れたけど」
「ええっ⁉」
さらに驚き、レイは気まずそうにテーブルに視線を落とした。
(男同士だよな⁉ いや、それよりも、これはどうすればいいんだ⁉)
サキの頭はぐるぐる回った。
トイレに入ったとき、ふと鏡に映ったこの身体の容姿を見て、驚いた。
自分でいうのもなんだが、中性的な顔立ちで整っている。顎のラインは細いし、目もくっきりしていて、鼻筋も通っていた。肌も色白で、まちがいなく美青年といえる。
あの異空間の中で、『泉サキ』はこの身体はいやだと言っていた。
これだけの容姿ならモテるだろうに、何が不満だったのだろうか。化粧をしたら女に間違われそうな顔だからだろうか。
そう思ったら、ふと、この身体は本当に男なのだろうかと疑念が湧いた。ズボンのボタンを外し、パンツを指で引っ張り確認する。間違いなく男だった。
用を足し、トイレから出ると待合室にいたレイが「帰ろう」と言った。
「会計は?」と訊いたら、無料なのだという。医療施設がタダというのは、ありがたい。日本だったらどれくらい取られただろうかと、詮無いことを考えた。
病院を出ると、辺りは茜色に染まっていた。夕暮れの涼しい風に身震いする。
レイは病院前に停まっていたタクシーに乗った。一緒に乗るように言われた。
車中でいろいろ訊きたかったが、深刻な表情を浮かべ、窓の外を見ているレイに話しかけることはできなかった。
彼は自分のせいで泉サキが記憶喪失になったと思っているだろう。
『大きな意識』の手違いで魂が抜けて、別の魂が入っただけなので気にするなと言ってあげたかったが、頭がおかしくなったと思われそうなので、黙っておく。
運転手も話しかけてくることもなく、ただ景色が流れていた。サキは暮れゆく窓の外を見ながら、風景は日本と似ているなと思った。
十分ほどでタクシーは目的地に停まった。灰色の外壁をしたマンションが目の前にあった。
レイに連れられ、マンションのエレベーターに乗ると八階建てだとわかった。五階で降りる。サキの家まで連れて来てくれたのかと思ったが、レイは自分のポケットから鍵を取り出した。
「ここ、どこかわかる?」
わかるわけがない。首を横に振る。
「おれの家だけど、サキも一緒に住んでるんだ」
え、と目を見張った。
レイが「入って」と言うので靴を脱いで上がった。こんなところも日本にそっくりだった。
廊下を進むと部屋がふたつ並んでいた。その先のドアを開けると、ダイニングとリビングがつながった広い部屋があった。キッチンがあり、ダイニングテーブルが横づけされている。部屋の真ん中にはとソファーとローテーブルが置かれていた。
レイの家だと言っていたが、大学生が住むには贅沢な部屋だった。子供のいる家族が住める広さだ。ドアの近くで立ち止まっていると、
「夕飯、なんでもいい?」
と言われ、うなずくとレイは手元の携帯端末を触った。スマホで注文といったところだろう。
「座って待ってて」
目線でダイニングテーブルを示されたので、手前にあった椅子をひくと、
「サキはいつもこっち」
と反対の椅子を示された。定位置があるらしい。
大人しく移動すると、レイはサキが引いた椅子に座った。
レイは携帯端末を触っている。その顔は疲れているようだった。サキは彼が端末から目を離すのを見計らって、口を開いた。
「霧島さん。おれたちはルームシェアをしている大学の友達ってことですか?」
訊くと、レイは表情を曇らせた。
「ちがう」
「違うんですか?」
「……恋人だから」
「えっ!」
サキは驚きの声を上げた。
「一週間前、別れたけど」
「ええっ⁉」
さらに驚き、レイは気まずそうにテーブルに視線を落とした。
(男同士だよな⁉ いや、それよりも、これはどうすればいいんだ⁉)
サキの頭はぐるぐる回った。
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