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第7話
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レイはキッチンに入り、冷蔵庫や棚を開け始めた。朝食を作るようだ。サキもお腹が空いてきた。ジュウ、という焼ける音がした。
なんとはなしにレイの動きを見ていると、皿を二枚持ってやってきた。ひとつにはトーストが、もうひとつには目玉焼きとソーセージが乗っていた。
レイはサキの反対側の椅子に座ると、一人で食べ始めた。
(あ……)
サキはそれを見て、恥ずかしくなった。
(なんで、おれの分も作ってくれるって思ったんだろ)
レイにとってはサキは別れたばかりの元恋人だ。しかも自分が目覚める寸前は、喧嘩をしていたらしい。小柄とはいえ男のサキが壁に当たるくらい強く振り払われていたのだ。本当なら、顔も見たくないのかもしれない。
頼れるのはレイしかいないとはいえ、ひと回りも年下の男に無意識に甘えかけていた。黙々と食べ続ける端整な顔を見て思った。
(しっかりしないと)
サキは椅子に座り直して、レイに話しかけた。
「あのさ」
レイは咀嚼しながら、目だけ向けた。
「食事って、お互いどうしてんの?」
「……別々だよ。自由にしてる」
レイは口の中の物を飲み込んでから、言った。
「キッチンとか、冷蔵庫にあるものは勝手に食べていいから。食べられたくない物だけ、名前を書いといて」
サキはうなずき、続けた。
「あとでいいんだけど、これの使い方、教えてくれないかな」
サキは部屋から持ってきたタブレット端末を撫でた。わからないことはこれで調べられそうな気がした。
レイはタブレットに視線を送ると、わかった、と言った。
「シャワー浴びてからでいい?」
「うん、いつでもいい」
答えると、レイは立ち上がった。早々に朝食を終わらせ、キッチンに皿を下げる。その足で浴室に行った。
リビングのドアが閉まるのを確認してから、サキは食べ物を物色しにキッチンに入った。
パンは冷蔵庫の横の三段ラックの一番上に置いてあった。その横に置いてあるのはレンジだと推測したが、使うのはやめた。
トーストにしたかったが、下手に触って焦がすのは避けたかった。冷蔵庫を開けると、なるほど、サキと書かれた個装のものが四つあった。スフレやプリンといった、いわゆるコンビニスイーツだ。
この身体の元の魂『泉サキ』は甘い物が好きだったようである。だが自分は違う。甘い物は苦手で、食指が動かない。
目を動かすとレタスがあったので、取り出した。手で千切って皿に載せ、冷蔵庫の扉にあったフレンチドレッシングをかける。コーヒーが飲みたかったが、探すのも面倒だったので、牛乳にした。
コップを探して戸棚を開けると、マグカップが目に入った。これでいいか、と取ろうとして、手を止めた。
茶色と白の陶器のマグカップが並んでいた。ペアのようで、どちらかがレイのものかもしれない。愛用のカップであれば、他人に使われるのは嫌だろう。サキは別のコップを探した。
透明な形のそろったガラスコップを見つけ、これなら大丈夫だろう、と牛乳を注ぐ。箸も見つけたが、形が違うものが数本あった。これも避け、当たり障りないフォークを選んだ。
なんとはなしにレイの動きを見ていると、皿を二枚持ってやってきた。ひとつにはトーストが、もうひとつには目玉焼きとソーセージが乗っていた。
レイはサキの反対側の椅子に座ると、一人で食べ始めた。
(あ……)
サキはそれを見て、恥ずかしくなった。
(なんで、おれの分も作ってくれるって思ったんだろ)
レイにとってはサキは別れたばかりの元恋人だ。しかも自分が目覚める寸前は、喧嘩をしていたらしい。小柄とはいえ男のサキが壁に当たるくらい強く振り払われていたのだ。本当なら、顔も見たくないのかもしれない。
頼れるのはレイしかいないとはいえ、ひと回りも年下の男に無意識に甘えかけていた。黙々と食べ続ける端整な顔を見て思った。
(しっかりしないと)
サキは椅子に座り直して、レイに話しかけた。
「あのさ」
レイは咀嚼しながら、目だけ向けた。
「食事って、お互いどうしてんの?」
「……別々だよ。自由にしてる」
レイは口の中の物を飲み込んでから、言った。
「キッチンとか、冷蔵庫にあるものは勝手に食べていいから。食べられたくない物だけ、名前を書いといて」
サキはうなずき、続けた。
「あとでいいんだけど、これの使い方、教えてくれないかな」
サキは部屋から持ってきたタブレット端末を撫でた。わからないことはこれで調べられそうな気がした。
レイはタブレットに視線を送ると、わかった、と言った。
「シャワー浴びてからでいい?」
「うん、いつでもいい」
答えると、レイは立ち上がった。早々に朝食を終わらせ、キッチンに皿を下げる。その足で浴室に行った。
リビングのドアが閉まるのを確認してから、サキは食べ物を物色しにキッチンに入った。
パンは冷蔵庫の横の三段ラックの一番上に置いてあった。その横に置いてあるのはレンジだと推測したが、使うのはやめた。
トーストにしたかったが、下手に触って焦がすのは避けたかった。冷蔵庫を開けると、なるほど、サキと書かれた個装のものが四つあった。スフレやプリンといった、いわゆるコンビニスイーツだ。
この身体の元の魂『泉サキ』は甘い物が好きだったようである。だが自分は違う。甘い物は苦手で、食指が動かない。
目を動かすとレタスがあったので、取り出した。手で千切って皿に載せ、冷蔵庫の扉にあったフレンチドレッシングをかける。コーヒーが飲みたかったが、探すのも面倒だったので、牛乳にした。
コップを探して戸棚を開けると、マグカップが目に入った。これでいいか、と取ろうとして、手を止めた。
茶色と白の陶器のマグカップが並んでいた。ペアのようで、どちらかがレイのものかもしれない。愛用のカップであれば、他人に使われるのは嫌だろう。サキは別のコップを探した。
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