オメガになってみたんだが

琉希

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第14話

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新田に従ってカウンターを出る。

店内奥に連れて行かれると、カウンターから死角になっていた場所にエレベーターがあった。

三階で降りると、部屋が左右に二つずつある。右奥の部屋を新田が開けた。

サキが顔を出すと、中にいた男は目を輝かせて立ち上がった。

「サキくん!」

 五十代くらいの脂ぎった男の破顔した顔に、にわかに引いた。だが、顔はいい。

個室には革張りの大きなソファーとテーブルにワインボトルが置いてあった。サキは部屋をさっと見回し、眉を潜めた。

(続き部屋がある?)

違和感が脳裏をかすめたが、大河内がサキを呼んだ。

「こっち来て座って、座って! 新田くん、ありがとね!」

大河内は新田に礼を言うと、彼は乱雑な言葉を放っていたとは思えないほど丁寧にお辞儀をして下がった。

サキが少し離れてソファーに腰を下ろすと、大河内はにじり寄ってきた。

「ワイン、好きでしょ」

そう言って、ワインボトルに手を伸ばしたので、サキは素早くボトルを持ち上げた。

「おれがやります」

目上の人に酒を注がせるわけにはいかないと動いてしまったのは、社会人生活で染みついた癖だ。

大河内は身なりの良いスーツを着ていたので、取引先の上司を相手にするような感覚だった。

サキがワイングラスを差し出すと、大河内はいたく感激した。

「うれしいよ! サキくんが来てくれるなんて思ってなかったから!」

サキは己の分のワインを注いでいた手を止めた。

「……え?」

サキがワインボトルを置くと、大河内はグラスを一気に煽った。

「今日もダメもとだったんだ。サキくんはカウンターから出ないことで、有名だから」

どきっと心臓が嫌な音を立てた。無意識に続け部屋に目をやった。

これはまずいかもしれない、と思ったとき、肩を抱かれた。

「サキくん……」

大河内は無遠慮にサキの首筋に顔を近づけ、匂いを嗅ぐように鼻で吸った。背筋がぞわりとした。

男はサキのシャツのボタンを外して、手を入れてきた。

「ちょ……!」

サキは驚き、その手を押さえながら身体をひいた。

「ちょっと!」

サキが逃げようとすると、大河内はサキの手を掴み、ソファーに押し倒した。

小柄なサキは体格のいい男に力負けした。大河内はサキを組み敷いて言った。

「部屋に来たんだから、いいってことでしょ」

はしゃいでいた大河内の目が獣のように光った。下唇を舐めたのを見て、サキはぞっとした。

(新田が言った「やれるか」って、こういう意味か!)

怪しげな店だと思ってはいたが、まさか、身体も売らせるとは!

サキは頭に血が上り、押さえつけてきた大河内の股間を蹴り上げた。

醜い悲鳴が上がり、大河内がソファーから落ちる。サキは跳ね起きて、個室から飛び出した。

エレベーターで地下に降り、店内を駆け抜けた。

途中、フロアにいたヒロムと肩がぶつかったが、おかまいなしだ。バックヤードに回る。

更衣室の隣がスタッフルームだと聞いていたので、その扉を勢いよく開けた。

「店長はどこだ!?」

怒りを露わにしたサキに、監視カメラの映像を見ていた男が振り返った。知らない顔だ。

「泉? どうかしたのか?」

「どうしたも何もあるか! あんたが店長か!?」

「なにを今さら」

小馬鹿にした態度に、この男が店長だろうと確信した。

中年男を想像していたが、思っていたより若かった。

泉サキの中身である社会人の自分と同年代くらいだろうか。髪をなでつけて、貫禄を出そうとしていた。

サキは店長と思しき男を睨みつけた。

「辞める。金はいりません」

それだけ言って踵を返し、ドアを叩き閉めた。

背後から、おい! と呼ぶ声がしたが、聞く耳はない。怒りで血管がブチ切れそうだった。
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