オメガになってみたんだが

琉希

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第15話

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繁華街の喧騒の中を、サキは肩を怒らせて歩いていた。

電車に乗って携帯を見ると、時刻は十一時前だった。興奮してしまったので、落ち着こうと何度も深呼吸をした。

レイに送ったチャットを開くと、既読にはなっていたが返信はなかった。

携帯をズボンの後ろポケットにしまい、顔を上げた。暗い窓ガラスに自分の顔が映る。整った造形が台無しなくらい目つきが悪く、眉間に縦皺が入っていた。

まったく、なんてバイトをしてんだ、と元の魂に文句を垂れたくなった。

店員である新田が手引きしたということは、店長も承知の上だ。個室という場所はヤリ部屋だ。

そういうサービスを提供する店なのだろう。合法か違法かはわからないが、元の魂はよくても、自分はダメだった。

ヒロムも知っていたのなら教えてくれればいいのに、と思ったがそこまで教える義理もない関係なのだろう。

サキは長いため息を吐いた。

そこでふと、大河内の言葉が甦った。サキはカウンターから出ないと言っていた。

もしかすると、元の魂も身の危険を避けながら、あの店でバイトをしていたのかもしれない。

(うまくやってたってことか)

サキは中を仰いだ。電車の天井は白く丸みを帯びている。

駅のホームに電車が入ると、音もなく止まり、揺れもない。在来線なのに新幹線のような乗り心地だ。普段の自分なら感動していただろうが、その気力はなかった。

電車を降り、とぼとぼと疲れた身体を引きずって歩いた。

マンションまで戻り、五階を見上げると明かりがついていた。レイが帰っているようだ。なぜかホッとした。

スペアでもらっていた鍵を使い、玄関を開ける。リビングに入るとレイはソファーに座って携帯を見ていた。

「ただいま」

声を掛けたが返事はなく、レイは顔すら上げなかった。手元に目を落としたままだ。

サキは気にせず、キッチンで水を一杯飲み、シャワーを浴びに脱衣所に入った。

服を脱ごうとして、着替えずに帰ってきたことに気づく。大河内に一番上のボタンを外されたままで、胃がむかむかした。

そういえば、あの店はゲイバーだったのだろうか。

客も従業員も、男しかいなかったことに思い至った。しかし、そんなことはもうどうでもいい。

置いてきてしまった自分の服も、取りに行く気はなかった。

サキはシャワーを浴びながら、色白の肌を乱暴に擦った。

大河内に触られたところは念入りに洗った。鼻息が首筋にかかったときの不快感がまだ残っている。とにかく洗い流したかった。

風呂から上がってみると、レイは変わらずソファーで携帯をいじっていた。

サキは、つかつかと歩み寄り、隣にどかっと座る。レイは不愉快そうに顔をしかめた。

「ソフィアって店、どんな店か知ってた?」

レイは表情を変えず、冷めた声でぼそりと答えた。

「……まあ」

なるほど、と思った。レイの機嫌が悪いように見えたのは、バイトの内容を知っていたからかもしれない。

二人が付き合っていたときから、元の魂がこのバイトをしていたのなら、レイが面白くないのは当然だろう。サキは天井を見ながら言った。

「辞めてきた」

するとレイは一瞬止まり、サキに顔を向けた。

「辞めた? ソフィアを?」

「うん。おれには向かないから」

レイは怪訝そうにした。

「割りのいいバイトで、性に合ってるから辞めないって言ってたじゃないか」

サキは苦笑した。元の魂はそうなのかもしれない。

「でも、もう辞めてきたから」

呆気にとられたようなレイの表情に、サキは口端を上げた。

「新しいバイト、探さなきゃ」

サキは両膝を打って立ち上がった。

「疲れたから、もう寝るよ」

レイは何も言わず、サキの動きを目で追っていた。

「あ、そうだ」

思い出したように振り返る。

「今日いろいろ教えてくれて、ありがとな。電車もスムーズに乗れたし。助かったよ」

そう言って笑いかけたが、レイは怪訝そうな顔をしたまま、何も言わなかった。
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