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第50話
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サキは携帯を取り出し、時間を確認した。白河紙書店を出て二十分経っている。
マンションに帰り着くのはレイが早いかサキが早いか微妙なところだ。
サキは火照る身体を抱きしめるようにして、無心になろうと目をつぶった。
湧き出る性欲についてあまり考えないようにするのは、ヒートを穏便に過ごすための手段のひとつだった。
淫らな想像はヒートを悪化させるという経験談を読んだことがある。
ゆっくり呼吸をしながら待っていると、ユタカが戻ってきた。
後部座席のドアが開き、サキの横にレジ袋が置かれた。
「これ、食料」
袋の中を覗くと栄養補給剤やヨーグルト飲料が入っていた。
「ダイチがよく買ってるやつ。籠るときにいいって言ってたから」
「あ、すみません、ありがとうございます」
サキは慌てて礼を言った。食料の買い溜めのことなど頭になかった。
今回もレイが鎮めてくれる、そう思っていたからだ。
ユタカに同居のことは言っていない。知らないのならあえて言うつもりもなかった。
レイもユタカには言っていないと思われた。もし知っていたら、この車に乗るように言ったはずだ。
恋人でもないのにアルファとオメガが同居していると知られたら、何を言われるかわからない。
面倒なことは避けたかった。
「このまま家に向かうよ」
サキがうなずくと、ユタカは車を発進させた。五分もかからないうちにマンションに着く。
サキが礼を言って車を降りると、ユタカはレジ袋を持って部屋の前までついてきた。
「家に入るまで心配だから。油断するのはよくない」
というのがユタカの言い分だった。ダイチというオメガが幼馴染でいるからか、ユタカは慎重だった。
部屋の鍵を開け、玄関に入ると、ユタカがレジ袋を渡してくれた。
「ありがとうございます。お金はあとで送りますね」
送金は携帯にする。それが現金のないこの世界の常識だった。
サキが言うと、ユタカは首を振った。
「いいって。おれが勝手に買ったものだから」
「いや、そんなわけには」
「ほんと、いいから。早く上がって」
ユタカは靴を脱いで上がるところまで見届けるようだ。
サキは苦笑しながら靴を脱いだとき、ヒートで身体が鈍くなっており、足がもつれた。
「わ!」
つんのめるように廊下に両膝をついた。レジ袋の中身が滑り出て、散乱した。
「大丈夫!?」
ユタカは開けていた玄関ドアから手を放して、中に入ってきた。
「いて……」
半分こけたように四つん這いになったサキが起き上がると、狭い玄関に男二人がいたため、サキの背中がユタカにぶつかった。
ユタカはとっさに支えるように、サキの身体に手を回した。
「んっ!」
サキは思わず色のある声を上げた。敏感になっている身体を触られ、びくりと反応してしまった。サキは羞恥で赤くなった。
そのとき、玄関ドアが突然開いた。
ユタカの身体越しに振り返ると、レイが目を丸くして立っていた。
「レイ!」
サキが名を呼ぶと、レイは顔色を変えた。いきなりユタカの腕を取り、外に引きずり出した。
「ちょ、なんだよ!」
ユタカが文句を言った。
「サキに何してんですか!」
レイは怒りの声を上げた。目を吊り上げたレイにユタカは焦ったようだ。
「いや、なにもしてないから!」
レイに睨みつけれたユタカは、助けを求めるようにサキを見た。
経緯を知らないレイはユタカがサキを後ろから抱き締めているように見えたのだろう。
穏和なレイが怒ったことに、サキは内心驚きながら、ユタカを弁護した。
「ほんとだよ。なにもされてない」
サキが玄関でつまずいたことを二人が代わる代わる話すと、レイも落ち着きを取り戻し、ユタカに謝った。
「わかってくれてよかったけど」
ユタカは頭を掻きながら言った。レイもばつが悪そうにしている。
サキはとにかく喧嘩にならなくてよかったと胸を撫でおろした。
「ところで、なんでレイがここに?」
ユタカは素朴な疑問を口にした。サキはぎくっとした。ここはそもそもレイの家だ。
どう答えよう、とサキが頭をフル回転させようとしたとき、レイはユタカに向かって笑いかけた。
「おれはサキの相手をしようと思って」
マンションの廊下でユタカは目を大きく開いた。笑顔を残しながらレイは玄関に入ってきた。
立ち尽くしているユタカを見ながら、サキはドアが閉まる音を聞いた。
マンションに帰り着くのはレイが早いかサキが早いか微妙なところだ。
サキは火照る身体を抱きしめるようにして、無心になろうと目をつぶった。
湧き出る性欲についてあまり考えないようにするのは、ヒートを穏便に過ごすための手段のひとつだった。
淫らな想像はヒートを悪化させるという経験談を読んだことがある。
ゆっくり呼吸をしながら待っていると、ユタカが戻ってきた。
後部座席のドアが開き、サキの横にレジ袋が置かれた。
「これ、食料」
袋の中を覗くと栄養補給剤やヨーグルト飲料が入っていた。
「ダイチがよく買ってるやつ。籠るときにいいって言ってたから」
「あ、すみません、ありがとうございます」
サキは慌てて礼を言った。食料の買い溜めのことなど頭になかった。
今回もレイが鎮めてくれる、そう思っていたからだ。
ユタカに同居のことは言っていない。知らないのならあえて言うつもりもなかった。
レイもユタカには言っていないと思われた。もし知っていたら、この車に乗るように言ったはずだ。
恋人でもないのにアルファとオメガが同居していると知られたら、何を言われるかわからない。
面倒なことは避けたかった。
「このまま家に向かうよ」
サキがうなずくと、ユタカは車を発進させた。五分もかからないうちにマンションに着く。
サキが礼を言って車を降りると、ユタカはレジ袋を持って部屋の前までついてきた。
「家に入るまで心配だから。油断するのはよくない」
というのがユタカの言い分だった。ダイチというオメガが幼馴染でいるからか、ユタカは慎重だった。
部屋の鍵を開け、玄関に入ると、ユタカがレジ袋を渡してくれた。
「ありがとうございます。お金はあとで送りますね」
送金は携帯にする。それが現金のないこの世界の常識だった。
サキが言うと、ユタカは首を振った。
「いいって。おれが勝手に買ったものだから」
「いや、そんなわけには」
「ほんと、いいから。早く上がって」
ユタカは靴を脱いで上がるところまで見届けるようだ。
サキは苦笑しながら靴を脱いだとき、ヒートで身体が鈍くなっており、足がもつれた。
「わ!」
つんのめるように廊下に両膝をついた。レジ袋の中身が滑り出て、散乱した。
「大丈夫!?」
ユタカは開けていた玄関ドアから手を放して、中に入ってきた。
「いて……」
半分こけたように四つん這いになったサキが起き上がると、狭い玄関に男二人がいたため、サキの背中がユタカにぶつかった。
ユタカはとっさに支えるように、サキの身体に手を回した。
「んっ!」
サキは思わず色のある声を上げた。敏感になっている身体を触られ、びくりと反応してしまった。サキは羞恥で赤くなった。
そのとき、玄関ドアが突然開いた。
ユタカの身体越しに振り返ると、レイが目を丸くして立っていた。
「レイ!」
サキが名を呼ぶと、レイは顔色を変えた。いきなりユタカの腕を取り、外に引きずり出した。
「ちょ、なんだよ!」
ユタカが文句を言った。
「サキに何してんですか!」
レイは怒りの声を上げた。目を吊り上げたレイにユタカは焦ったようだ。
「いや、なにもしてないから!」
レイに睨みつけれたユタカは、助けを求めるようにサキを見た。
経緯を知らないレイはユタカがサキを後ろから抱き締めているように見えたのだろう。
穏和なレイが怒ったことに、サキは内心驚きながら、ユタカを弁護した。
「ほんとだよ。なにもされてない」
サキが玄関でつまずいたことを二人が代わる代わる話すと、レイも落ち着きを取り戻し、ユタカに謝った。
「わかってくれてよかったけど」
ユタカは頭を掻きながら言った。レイもばつが悪そうにしている。
サキはとにかく喧嘩にならなくてよかったと胸を撫でおろした。
「ところで、なんでレイがここに?」
ユタカは素朴な疑問を口にした。サキはぎくっとした。ここはそもそもレイの家だ。
どう答えよう、とサキが頭をフル回転させようとしたとき、レイはユタカに向かって笑いかけた。
「おれはサキの相手をしようと思って」
マンションの廊下でユタカは目を大きく開いた。笑顔を残しながらレイは玄関に入ってきた。
立ち尽くしているユタカを見ながら、サキはドアが閉まる音を聞いた。
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