オメガになってみたんだが

琉希

文字の大きさ
65 / 79

第65話

しおりを挟む
真剣そのものの顔でサキは話した。

だが、その内容というのがまた突拍子もない話で、聞き終わったレイは頭を押さえていた。

その話はこうだ。
 
サキと別の世界で生きていたもう一人のサキ(今のサキ)の魂が同時に抜けて、しかしそれは神様(?)が間違ってしまったからで、二人はお互いの身体を交換して再び人生を始めることにした、ということだった。

しばらく言葉が出なかった。

目が点になるとは、こういうことかもしれない。

その間、サキは一言もしゃべらず、じっとレイを見ていた。

「えーと……。その話が本当だとしたら、ここにいるサキは別の星の宇宙人ってことになるんだけど?」
 
肘をついて頭を押さえたまま目を向けると、サキは真顔で大きくうなずいた。

レイは頭に浮かんだ言葉を躊躇せずに言った。

「だったら、おれがサキを殺してしまったことになる」
 
レイは思いつきで口にしただけだったが、サキはギュッと眉を寄せて、真剣そのものの顔で言った。

「そうじゃない! おれたちはお互いの願いを叶えたくて、身体を交換したんだ。同意しなかったら、ちゃんと元の身体に戻れてた。だから、死んでなんかないんだ」
 
サキは訴えるように身を乗り出した。

その顔を見ていたレイは、不意に言葉が口をついた。

「叶えたい願いってなに? その身体で何がしたいの?」
 
すると、サキはぐっと詰まり、乗り出していた体をひいた。

「それは……言えない」
 
口をつぐんだサキに、レイはいらっとした。

「それなら、そんな話、信じられないよ。二重人格だって言ってくれた方が、まだわかる」
 
レイがいらついた感情のままに言うと、サキは頬を強張らせた。

そして寂し気に笑って目を伏せた。

その悲しげな表情に、レイは、あ、と思った。

(傷つけた)
 
謝らなければ、そう思ったとき、サキが顔を上げた。

「うん。信じられないよな」

 サキは眉根を寄せたまま、笑っていた。

「でも、本当のことだから、隠しておきたくなかったんだ」

「……」

「おれが言いたかったのは」
 
サキの瞳が揺れた。

「レイはもう、おれを記憶喪失にしたって責任を感じなくていいってことなんだ」
 
レイの心臓が嫌な鳴り方をした。

「記憶が戻るまでいていいって言ってくれて、うれしかったよ」
 
サキはやわらかく笑った。

「でも、いつまでもレイを縛るわけにはいかないから」

「! そんなこと!」
 
レイは勢いよく立ちあがった。

ガリ、と椅子によって床が鳴り響いた。

口の中が急速に乾いていく。

サキはレイから顔を逸らし、リビングの窓を見た。

「サキ……」
 
レイは何か言わなければと思ったが、言葉が出てこなかった。

部屋を暖めているエアコンの音が不意に消えた。

サキは窓を見つめたまま言った。

「年末でちょうどいいから、泉サキの実家に行こうと思う」
 
その口ぶりは、まるで知らない人の家を訪ねるかのようだった。

今の彼の横顔は奔放で甘えたがりのサキの面影はない。

レイは成熟した大人のような横顔を見つめていると、サキは立ちあがった。

「ちょっと散歩してくる」
 
レイの横を通り、リビングを出ようとしたサキに、レイは声を上げた。

「サキ!」
 
ドアの前でサキが振り返る。

レイは乾いた唇で言った。

「サキの……おれと話してるサキの、名前はあるの」
 
するとサキは少し驚いたような顔をして、かすかに微笑んだ。

「おれの名前は、吉野春之」
 
そう言って、サキはリビングを出ていった。

温風を出すエアコンが再び音を立て始めていた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...