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本編
閑話 春売る女 *
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散々した後、アタシはぐったりしたまま、煙草を吸う彼の横顔を眺めている。
魔王城で働く前。売春宿で働いていたアタシの、一番の客が彼だった。
ひょんなきっかけから、私が学費を稼ぐ為に体を売っている事、成績上位である事を知った彼は、魔王城で働かないかと誘ってきたのだ。
ただ、それは誘われただけで、何か裏から手を回してもらったとかいう事ではない。アタシは新卒として採用試験を受けて、真っ当なルートで採用された。
しばらくは彼と別の部署にいたが、彼が所長をつとめる研究所の事務として異動となった。彼が何かした訳ではなく、単なる偶然だったけれど。
同僚となれば彼との肉体関係が切れるかと思いきや、結局その関係は続いたまま。いらないと言っているが、いつも小遣いだと金を押し付けてくる。まるで、アタシの体だけが目的だと言わんばかりに。
心など永遠に結ばれない、体だけの関係。それでもいいのだ。何も繋がりがないより、何倍もマシだ。
体を売って金を稼ぐと決めた時から、恋や愛に夢を見るのはやめたのだから。
アタシは、だるい体を何とか起こし、彼の腕に体を寄せる。そして、気になっていた事を彼に聞いた。
「ねえ……あのひと、どうして採用したの?」
「アステの事か?」
「そう」
「実力に問題がないと判断したからだが」
予想通りの答えが返ってきた。アタシは食い下がる。
「でも……古くからの友人の紹介なんでしょう?頼まれて断りきれなかったとかじゃないの?」
「俺がそんなくだらない事をすると思うのか?」
彼は、冷たい目でアタシを見る。容赦なくひとを切り捨てる男のする目だ。アタシは恐怖をおぼえる。
「いいえ……でも、パイラがコネだってうるさく言うわ」
同僚のパイラが、コネだと決めつけて、アタシに散々愚痴をこぼしてきたのを思い出す。パイラは、新しい女が入るたび、そうやって何かと難癖をつける子だ。
だが、彼はくだらないと言ったように笑い飛ばす。
「ははっ、むしろこちらがコネを使って手に入れたようなもんなんだが」
「……?」
意味が分からない。入れてくれと頼まれるなら分かるが、彼が欲しがるなんて。
「あいつが手塩にかけて育てた研究者だ。それを知る奴なら、誰もが欲しがるだろう。俺が古くからの友人だったおかげで最初に声がかかったと考えれば、コネみたいなもんだろ」
「そんなにすごいひとなのね」
物分かりのいい返事をしても、心の中では嫉妬が渦巻く。そんな私の気持ちを見透かしたのか、そうではないのか、彼は続けた。
「ああ、何せ上級学校で一度も首位を譲らなかったという逸話があるからな」
「嘘でしょ……」
年齢的にも、私が卒業した後の事だろう。そんな生徒がいたら知らないわけがない。
才能がある学生が多いとはいえ、誰にも得意不得意はある。首位など、どれかひとつ科目の成績が芳しくなければすぐに奪われる。それを卒業まで一度も譲らなかったなど……あり得ない。
「あいつが教鞭を取っていた時の生徒だからな、本当だ」
「そう……」
アタシみたいな女とは、住む世界が違うのだ。聞いた話によると、親が実業家で大層金持ちらしい。恵まれたお嬢さん。反吐が出そうだ。
「あーあ、あなたにもとうとう新しいお気に入りができちゃったってワケ?アタシ、捨てられちゃうのね……」
「はっ……あんな色気のない女、俺のが立つわけないだろう」
彼は煙草を灰皿に押し付けると、私にキスをする。口の中を満たす煙草のきつい香り。アタシの体は、それにさえ発情してしまう。
「まだやり足りない。いいか?」
「あんなにしたのに?……ふふ、いいわ。早く突っ込んで、めちゃくちゃにして」
「言われなくてもそのつもりだ」
そう答えた私の、ぐちゃぐちゃになったままの場所は、再び彼に蹂躙されていく。
いつ終わるか分からないこの関係に怯えながら、アタシは目の前の快感だけを拾って、怯えから必死に目を逸らすしかなかった。
魔王城で働く前。売春宿で働いていたアタシの、一番の客が彼だった。
ひょんなきっかけから、私が学費を稼ぐ為に体を売っている事、成績上位である事を知った彼は、魔王城で働かないかと誘ってきたのだ。
ただ、それは誘われただけで、何か裏から手を回してもらったとかいう事ではない。アタシは新卒として採用試験を受けて、真っ当なルートで採用された。
しばらくは彼と別の部署にいたが、彼が所長をつとめる研究所の事務として異動となった。彼が何かした訳ではなく、単なる偶然だったけれど。
同僚となれば彼との肉体関係が切れるかと思いきや、結局その関係は続いたまま。いらないと言っているが、いつも小遣いだと金を押し付けてくる。まるで、アタシの体だけが目的だと言わんばかりに。
心など永遠に結ばれない、体だけの関係。それでもいいのだ。何も繋がりがないより、何倍もマシだ。
体を売って金を稼ぐと決めた時から、恋や愛に夢を見るのはやめたのだから。
アタシは、だるい体を何とか起こし、彼の腕に体を寄せる。そして、気になっていた事を彼に聞いた。
「ねえ……あのひと、どうして採用したの?」
「アステの事か?」
「そう」
「実力に問題がないと判断したからだが」
予想通りの答えが返ってきた。アタシは食い下がる。
「でも……古くからの友人の紹介なんでしょう?頼まれて断りきれなかったとかじゃないの?」
「俺がそんなくだらない事をすると思うのか?」
彼は、冷たい目でアタシを見る。容赦なくひとを切り捨てる男のする目だ。アタシは恐怖をおぼえる。
「いいえ……でも、パイラがコネだってうるさく言うわ」
同僚のパイラが、コネだと決めつけて、アタシに散々愚痴をこぼしてきたのを思い出す。パイラは、新しい女が入るたび、そうやって何かと難癖をつける子だ。
だが、彼はくだらないと言ったように笑い飛ばす。
「ははっ、むしろこちらがコネを使って手に入れたようなもんなんだが」
「……?」
意味が分からない。入れてくれと頼まれるなら分かるが、彼が欲しがるなんて。
「あいつが手塩にかけて育てた研究者だ。それを知る奴なら、誰もが欲しがるだろう。俺が古くからの友人だったおかげで最初に声がかかったと考えれば、コネみたいなもんだろ」
「そんなにすごいひとなのね」
物分かりのいい返事をしても、心の中では嫉妬が渦巻く。そんな私の気持ちを見透かしたのか、そうではないのか、彼は続けた。
「ああ、何せ上級学校で一度も首位を譲らなかったという逸話があるからな」
「嘘でしょ……」
年齢的にも、私が卒業した後の事だろう。そんな生徒がいたら知らないわけがない。
才能がある学生が多いとはいえ、誰にも得意不得意はある。首位など、どれかひとつ科目の成績が芳しくなければすぐに奪われる。それを卒業まで一度も譲らなかったなど……あり得ない。
「あいつが教鞭を取っていた時の生徒だからな、本当だ」
「そう……」
アタシみたいな女とは、住む世界が違うのだ。聞いた話によると、親が実業家で大層金持ちらしい。恵まれたお嬢さん。反吐が出そうだ。
「あーあ、あなたにもとうとう新しいお気に入りができちゃったってワケ?アタシ、捨てられちゃうのね……」
「はっ……あんな色気のない女、俺のが立つわけないだろう」
彼は煙草を灰皿に押し付けると、私にキスをする。口の中を満たす煙草のきつい香り。アタシの体は、それにさえ発情してしまう。
「まだやり足りない。いいか?」
「あんなにしたのに?……ふふ、いいわ。早く突っ込んで、めちゃくちゃにして」
「言われなくてもそのつもりだ」
そう答えた私の、ぐちゃぐちゃになったままの場所は、再び彼に蹂躙されていく。
いつ終わるか分からないこの関係に怯えながら、アタシは目の前の快感だけを拾って、怯えから必死に目を逸らすしかなかった。
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