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本編
第8話 広場にて
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広場は芝生があり、誰でも自由に出入りできる。芝生の上を子供達が楽しそうに駆け回っている。
ベンチで、スクルと並んで座る私は、子供達の姿を微笑ましく思いながら見つめていた。
「お姫様は、子供が好きなんですか?」
「ええ、大好きよ。最近、子供達と遊ぶ機会があって……それが本当に楽しかったの。子供達みんな私とお友達になってくれて、また今度、遊ぶ約束をしたわ」
「またそれは意外な……俺の知らない間に一体何が?」
私はスクルに、叔父の手伝いをしている事や、そこで子供達と出会った事なんかを簡単に説明した。
「そうだったんですね。しかし、休みの日にまで働くとは。くれぐれも、体を壊さないようにして下さいね」
「あら、心配してくれるの?ありがとう。でも、大丈夫よ?無理のない範囲でやるつもりだもの」
それなのに、スクルは疑いの眼差しを私に向けてくるではないか。
「そう言って、なんだかんだで無茶しそうなのがお姫様なんですが」
「……信用ないわね。私って、そんな、後先考えないように見えるの?」
自分では慎重に生きていると思っていたし、そうでありたいと思っていたけれど、周りから見たらそうではなかったのだろうか。
「いや……後先考えないというより、自己犠牲の精神が強いように思うんですよ。もし目の前に困っているひとがいたら、お姫様は放っておけないでしょう?」
「そんなの、当たり前だと思うけれど……」
当たり前、と言ったものの、誰かとそういう時にどうするかといった話をした事がない事に気づく。もしかしたら、そう思っているのは自分だけなのだろうかもしれない。
「じゃあお姫様。もし、休みを全部使わないといけないくらいに助けを求められたとしたら断りますか?」
「……断らないわ。だって、私より辛い思いをしているんでしょう?私にできる事があるなら、体力が続く限り助けたいと思う」
「そんなの、身が持ちませんよ?」
「そう……だけど」
その時だった。
「あら、アステさん!?」
急に名前を呼ばれ、驚く私。慌てて声の主を探すと、少し離れたところから、こちらに手を振る姿が。そこにいたのは、私が働く研究所の同僚だった。
「パイラさん……」
彼女はこちらに小走りで駆け寄ってくると、可愛らしい笑顔を見せながら、私とスクルを見る。
「アステさん、こんなところで会うなんて奇遇ね!パイラ、今日は珍しく予定がなくって、お散歩でもしようかなって思ってここに来てみたら、アステさんがいるのが見えて、お邪魔かな?と思ったけど声かけちゃった。ねえねえ、まさかこのひと彼氏?」
「あ……ええと……」
パイラさんの勢いに圧倒されて言葉が出ない私は、助けを求めるようにスクルを見る。彼は苦笑して、私に聞いてきた。
「お知り合いですか?」
「そ、そうなの。研究所の同僚の」
「パイラって言います!」
私がパイラさんの名前を言う前に、すかさず彼女自身が名乗り、私とスクルの間に座ってこようとする。私は慌てて横に移動して、彼女が座るためのスペースを開ける。戸惑う私をよそに、彼女はどんどんスクルに話しかけていく。
「ねえあなたお名前は?スクルって言うのね、素敵な名前!え?彼氏じゃない?やだ、アステさん右手に指輪してるから、もしかしたらって思ったのに、違うんですね。じゃあ、パイラが仲良くなっても大丈夫ですよね?ええー?自分にはもったいないなんて、そんな事ないですってば!」
私は、まるで置物にでもなったような気分で、ただひたすらふたりの会話を聞き続けている。パイラさんの会話のテンポはいつもこうで、仕事中にもよく色んなひとと楽しそうに会話している。
(私……頭で色々と考えすぎて、すぐに会話を返せないもの……きっと話していてつまらないと思われていそう……)
そうやっていつの間にか思考の海に沈んでいた私は、パイラさんに名前を呼ばれているのに気づき、慌てて顔を上げる。視線の先には、パイラさんの困ったような、呆れたような表情が見えた。
「アステさんってば!聞いてる?ああよかった、考え事でもしてたの?ねえねえ、スクルさんとあなたが恋人同士じゃないって事は、恋人に内緒で他の男性とデートしてたって事?やだ、アステさんってお堅いと思ってたのに。意外ー!」
「え……ええと……?」
突然話しかけられた事と、思ってもみない指摘をされ、私は何と答えていいか分からない。そんな私を見て、パイラさんは楽しそうに笑う。
「おとなしそうに見えて、実は恋多き女って事?そっか、そっか、その色気のなさって実は男性を油断させるためだったのね」
「い……色気……ですか?」
「そう!まるで色気がないし、おしゃれもしないなんて、せっかく女に生まれたのにつまらなくないの?ま、ライバルが増えなくてパイラは助かるーって思ってたけど……わざとそうしてるんなら、パイラも気をつけなくっちゃ」
そう言うパイラさんは、笑顔に見えて、目が笑っていないように見える。私は少し怖くなって、手を握り締める。
「はは、心配しなくても大丈夫ですよパイラさん」
スクルが笑って言うので、私は驚いて彼を見る。ちらっと私を見るその目は、なぜかとても楽しそうに輝いている。
「ここだけの話、アステに指輪を渡した男は、それはそれはもう嫉妬深いんです。少しでも彼女が色気づきなんかしたら、何があったんだって怒って、他の男の目に入らないよう閉じ込めかねない。俺はあいつの親友だからこうしてアステの側にいれますが、他の男とふたりきりでいるところなんか見られた日には……ああ、考えただけで恐ろしい」
「ちょ……ちょっとスクル!?」
本人がいないからといって、なんて事を言うのだ。私は愕然としながらスクルを見る。
「……というわけで、アステに色気もなくおしゃれもしないのはそのせいなんです。同じ女として可哀想だと思いませんか?」
「アステさん……そうだったの」
パイラさんから同情の目を向けられて、私はそこでやっとスクルの真意に気付く。
「そ、そうなの。私みたいな女を好きって言ってくれるから、彼が望む事はできる限り叶えてあげたくて……だから、おしゃれとかそういうのは、極力控えるようにしているの」
スクルは、パイラにとって私が敵対するような存在ではないと、彼女に思わせてくれているのだ。
私は、心の中で必死にフォールスに謝罪しつつ、スクルの話に乗っかる。
「というわけで、パイラさん。職場で万が一悪い虫がよってこないように、アステを見守っていただけるとありがたい」
「分かったわ!パイラに任せて!アステさん、何か困った事があったらすぐに言ってね。パイラが助けてあげる」
「あ……ありがとう……ございます」
「はは、よかったよかった。職場でも心強い味方ができて安心ですね、アステ」
満面の笑顔でこちらを見るパイラさんとスクルに、私も彼らに合わせるよう、若干ひきつりながらも笑顔を浮かべた。
そこからは、再びパイラさんとスクルで会話が弾んでいて、私は完全にその輪から抜けていた。
少し寂しくはあったけれど、彼らの会話の邪魔をするつもりもなく、私はぼんやりと子供達が遊んでいるところを眺めていた。すると、私はそこに見覚えのある子供の顔を見つけた。あちらも私に気づいたのか、大きな声で私の名前を呼びながら、手を振って駆け寄ってくる。
「アステちゃーん!!!なんでここにいるの!?」
私は立ち上がって手を振り返す。そんな私に、パイラさんと会話をしていたスクルが聞いてきた。
「もしかして、さっき話してくれた、新しくできたお友達ですか?」
「ええそうよ。その中でも、特に仲良くしてくれた子なの」
そう言っている間に、その子は私の目の前まで来て、そのまま私の足に抱きつくと、キラキラとした目で私を見上げて、嬉しそうに笑いかけてくる。
「わあ、本物のアステちゃんだ!!!こんなすぐに会えるなんて思わなかった!!!うれしいなあ!!!」
「ふふ、私も嬉しい」
この子の名前はクイン。両親を亡くして孤児院で生活している男の子だ。
「あのね、今日はね、僕のお父さんお母さんになってくれるってひととここに遊びに来たんだ!」
私が、クインを見つけた辺りを見ると、男女がこちらを見て、頭を下げてきた。私も慌てて頭を下げる。
「何回も一緒に出かけたりして、本当に家族になれるかどうかを確認するんだよ」
「そう……クインは、一緒に過ごして楽しい?」
「うん!最初はすごく緊張したけど、今はもう、会えるのが楽しみになってるよ!」
「ふふ……それならよかった」
幼くして両親を亡くしたクインに、私は何となく自分を重ねてしまう。私も幼い頃に両親を事故で亡くし、産みの母の姉に引き取られて育った。ただ、その育ての母は厳しく、甘えるという事がほとんどできなかった。
でも、クインを見守る男女は、優しそうな眼差しでこちらを見ている。甘えられなかった私の分も、クインが幸せに過ごせると願うばかりだ。
「ねえアステちゃん、一緒にあそぼ?」
クインは私から離れると、手を握って行こうと誘ってくる。
「あ……クイン、ちょっと待っていて。今ね、お兄さんお姉さんと一緒にいるから、遊びに行ってもいいか聞かないとだめなの。だからちょっと待っていて?」
「うん、わかった!」
私は、スクルを見ると、私が尋ねる前に、スクルが口を開いた。
「行ってきて下さいアステ。僕はここで見てますから」
「ありがとう……でももし待ちくたびれてしまったら、帰ってしまって大丈夫だから」
「あら!そういう事なら、よかったらこれからパイラとお茶でもいかが?」
パイラさんが、ひとりになるスクルを誘ってくれた。私を待つよりはパイラさんと過ごす方が……と私は思ったけれど、スクルは首を横に振った。
「お誘いは嬉しいですが、今日はアステと過ごす約束をしているので申し訳ない。俺の唯一の取り柄は誠実さなのでね。約束を途中で放り出すような、そんなつまらない男にさせないでください。ぜひ、また別の機会に」
「そう……ざーんねん」
パイラさんはがっかりした表情で、それを見た私はとても申し訳ない気持ちになる。だが、彼女の表情はすぐに切り替わって、少し大人びた笑顔になる。その表情は笑顔なのに、どこか怖さを感じてしまう。彼女は口の端を上げて、それから口を開いた。
「じゃあ、次に会う時は、女の子のお誘いを断るようなつまらない男じゃないのを期待してるわ、スクルさん。さ、パイラはもう行くわ。またね、ふたりとも」
「ええ、また」
「は……はい、また……」
私達はそう挨拶を交わし、パイラさんは去っていく。彼女の背中を見送っていた私の耳にスクルのため息が聞こえ、私は何事かと彼を見る。
「どうしたのスクル、ため息なんて……」
「はは、大丈夫ですよ。さあ、アステは遊んで来てください。彼、痺れを切らしてますよ?」
そう言われて私は慌ててクインを見る。彼は、つまらなさそうに足元の草をブチブチと抜いている。私は彼のそばにしゃがみ、彼と視線の高さを合わせて話しかけた。
「ごめんねクイン……お話はもう終わったから、一緒に遊びましょう?」
「本当!?うん、行こう行こう!」
そうして私は、クインに手を引かれる。
「行ってくるわねスクル」
「はい、楽しんできて下さい」
そしてクインと私は、彼の新しい両親やスクルが見守る中、目一杯遊んだのだった。
ベンチで、スクルと並んで座る私は、子供達の姿を微笑ましく思いながら見つめていた。
「お姫様は、子供が好きなんですか?」
「ええ、大好きよ。最近、子供達と遊ぶ機会があって……それが本当に楽しかったの。子供達みんな私とお友達になってくれて、また今度、遊ぶ約束をしたわ」
「またそれは意外な……俺の知らない間に一体何が?」
私はスクルに、叔父の手伝いをしている事や、そこで子供達と出会った事なんかを簡単に説明した。
「そうだったんですね。しかし、休みの日にまで働くとは。くれぐれも、体を壊さないようにして下さいね」
「あら、心配してくれるの?ありがとう。でも、大丈夫よ?無理のない範囲でやるつもりだもの」
それなのに、スクルは疑いの眼差しを私に向けてくるではないか。
「そう言って、なんだかんだで無茶しそうなのがお姫様なんですが」
「……信用ないわね。私って、そんな、後先考えないように見えるの?」
自分では慎重に生きていると思っていたし、そうでありたいと思っていたけれど、周りから見たらそうではなかったのだろうか。
「いや……後先考えないというより、自己犠牲の精神が強いように思うんですよ。もし目の前に困っているひとがいたら、お姫様は放っておけないでしょう?」
「そんなの、当たり前だと思うけれど……」
当たり前、と言ったものの、誰かとそういう時にどうするかといった話をした事がない事に気づく。もしかしたら、そう思っているのは自分だけなのだろうかもしれない。
「じゃあお姫様。もし、休みを全部使わないといけないくらいに助けを求められたとしたら断りますか?」
「……断らないわ。だって、私より辛い思いをしているんでしょう?私にできる事があるなら、体力が続く限り助けたいと思う」
「そんなの、身が持ちませんよ?」
「そう……だけど」
その時だった。
「あら、アステさん!?」
急に名前を呼ばれ、驚く私。慌てて声の主を探すと、少し離れたところから、こちらに手を振る姿が。そこにいたのは、私が働く研究所の同僚だった。
「パイラさん……」
彼女はこちらに小走りで駆け寄ってくると、可愛らしい笑顔を見せながら、私とスクルを見る。
「アステさん、こんなところで会うなんて奇遇ね!パイラ、今日は珍しく予定がなくって、お散歩でもしようかなって思ってここに来てみたら、アステさんがいるのが見えて、お邪魔かな?と思ったけど声かけちゃった。ねえねえ、まさかこのひと彼氏?」
「あ……ええと……」
パイラさんの勢いに圧倒されて言葉が出ない私は、助けを求めるようにスクルを見る。彼は苦笑して、私に聞いてきた。
「お知り合いですか?」
「そ、そうなの。研究所の同僚の」
「パイラって言います!」
私がパイラさんの名前を言う前に、すかさず彼女自身が名乗り、私とスクルの間に座ってこようとする。私は慌てて横に移動して、彼女が座るためのスペースを開ける。戸惑う私をよそに、彼女はどんどんスクルに話しかけていく。
「ねえあなたお名前は?スクルって言うのね、素敵な名前!え?彼氏じゃない?やだ、アステさん右手に指輪してるから、もしかしたらって思ったのに、違うんですね。じゃあ、パイラが仲良くなっても大丈夫ですよね?ええー?自分にはもったいないなんて、そんな事ないですってば!」
私は、まるで置物にでもなったような気分で、ただひたすらふたりの会話を聞き続けている。パイラさんの会話のテンポはいつもこうで、仕事中にもよく色んなひとと楽しそうに会話している。
(私……頭で色々と考えすぎて、すぐに会話を返せないもの……きっと話していてつまらないと思われていそう……)
そうやっていつの間にか思考の海に沈んでいた私は、パイラさんに名前を呼ばれているのに気づき、慌てて顔を上げる。視線の先には、パイラさんの困ったような、呆れたような表情が見えた。
「アステさんってば!聞いてる?ああよかった、考え事でもしてたの?ねえねえ、スクルさんとあなたが恋人同士じゃないって事は、恋人に内緒で他の男性とデートしてたって事?やだ、アステさんってお堅いと思ってたのに。意外ー!」
「え……ええと……?」
突然話しかけられた事と、思ってもみない指摘をされ、私は何と答えていいか分からない。そんな私を見て、パイラさんは楽しそうに笑う。
「おとなしそうに見えて、実は恋多き女って事?そっか、そっか、その色気のなさって実は男性を油断させるためだったのね」
「い……色気……ですか?」
「そう!まるで色気がないし、おしゃれもしないなんて、せっかく女に生まれたのにつまらなくないの?ま、ライバルが増えなくてパイラは助かるーって思ってたけど……わざとそうしてるんなら、パイラも気をつけなくっちゃ」
そう言うパイラさんは、笑顔に見えて、目が笑っていないように見える。私は少し怖くなって、手を握り締める。
「はは、心配しなくても大丈夫ですよパイラさん」
スクルが笑って言うので、私は驚いて彼を見る。ちらっと私を見るその目は、なぜかとても楽しそうに輝いている。
「ここだけの話、アステに指輪を渡した男は、それはそれはもう嫉妬深いんです。少しでも彼女が色気づきなんかしたら、何があったんだって怒って、他の男の目に入らないよう閉じ込めかねない。俺はあいつの親友だからこうしてアステの側にいれますが、他の男とふたりきりでいるところなんか見られた日には……ああ、考えただけで恐ろしい」
「ちょ……ちょっとスクル!?」
本人がいないからといって、なんて事を言うのだ。私は愕然としながらスクルを見る。
「……というわけで、アステに色気もなくおしゃれもしないのはそのせいなんです。同じ女として可哀想だと思いませんか?」
「アステさん……そうだったの」
パイラさんから同情の目を向けられて、私はそこでやっとスクルの真意に気付く。
「そ、そうなの。私みたいな女を好きって言ってくれるから、彼が望む事はできる限り叶えてあげたくて……だから、おしゃれとかそういうのは、極力控えるようにしているの」
スクルは、パイラにとって私が敵対するような存在ではないと、彼女に思わせてくれているのだ。
私は、心の中で必死にフォールスに謝罪しつつ、スクルの話に乗っかる。
「というわけで、パイラさん。職場で万が一悪い虫がよってこないように、アステを見守っていただけるとありがたい」
「分かったわ!パイラに任せて!アステさん、何か困った事があったらすぐに言ってね。パイラが助けてあげる」
「あ……ありがとう……ございます」
「はは、よかったよかった。職場でも心強い味方ができて安心ですね、アステ」
満面の笑顔でこちらを見るパイラさんとスクルに、私も彼らに合わせるよう、若干ひきつりながらも笑顔を浮かべた。
そこからは、再びパイラさんとスクルで会話が弾んでいて、私は完全にその輪から抜けていた。
少し寂しくはあったけれど、彼らの会話の邪魔をするつもりもなく、私はぼんやりと子供達が遊んでいるところを眺めていた。すると、私はそこに見覚えのある子供の顔を見つけた。あちらも私に気づいたのか、大きな声で私の名前を呼びながら、手を振って駆け寄ってくる。
「アステちゃーん!!!なんでここにいるの!?」
私は立ち上がって手を振り返す。そんな私に、パイラさんと会話をしていたスクルが聞いてきた。
「もしかして、さっき話してくれた、新しくできたお友達ですか?」
「ええそうよ。その中でも、特に仲良くしてくれた子なの」
そう言っている間に、その子は私の目の前まで来て、そのまま私の足に抱きつくと、キラキラとした目で私を見上げて、嬉しそうに笑いかけてくる。
「わあ、本物のアステちゃんだ!!!こんなすぐに会えるなんて思わなかった!!!うれしいなあ!!!」
「ふふ、私も嬉しい」
この子の名前はクイン。両親を亡くして孤児院で生活している男の子だ。
「あのね、今日はね、僕のお父さんお母さんになってくれるってひととここに遊びに来たんだ!」
私が、クインを見つけた辺りを見ると、男女がこちらを見て、頭を下げてきた。私も慌てて頭を下げる。
「何回も一緒に出かけたりして、本当に家族になれるかどうかを確認するんだよ」
「そう……クインは、一緒に過ごして楽しい?」
「うん!最初はすごく緊張したけど、今はもう、会えるのが楽しみになってるよ!」
「ふふ……それならよかった」
幼くして両親を亡くしたクインに、私は何となく自分を重ねてしまう。私も幼い頃に両親を事故で亡くし、産みの母の姉に引き取られて育った。ただ、その育ての母は厳しく、甘えるという事がほとんどできなかった。
でも、クインを見守る男女は、優しそうな眼差しでこちらを見ている。甘えられなかった私の分も、クインが幸せに過ごせると願うばかりだ。
「ねえアステちゃん、一緒にあそぼ?」
クインは私から離れると、手を握って行こうと誘ってくる。
「あ……クイン、ちょっと待っていて。今ね、お兄さんお姉さんと一緒にいるから、遊びに行ってもいいか聞かないとだめなの。だからちょっと待っていて?」
「うん、わかった!」
私は、スクルを見ると、私が尋ねる前に、スクルが口を開いた。
「行ってきて下さいアステ。僕はここで見てますから」
「ありがとう……でももし待ちくたびれてしまったら、帰ってしまって大丈夫だから」
「あら!そういう事なら、よかったらこれからパイラとお茶でもいかが?」
パイラさんが、ひとりになるスクルを誘ってくれた。私を待つよりはパイラさんと過ごす方が……と私は思ったけれど、スクルは首を横に振った。
「お誘いは嬉しいですが、今日はアステと過ごす約束をしているので申し訳ない。俺の唯一の取り柄は誠実さなのでね。約束を途中で放り出すような、そんなつまらない男にさせないでください。ぜひ、また別の機会に」
「そう……ざーんねん」
パイラさんはがっかりした表情で、それを見た私はとても申し訳ない気持ちになる。だが、彼女の表情はすぐに切り替わって、少し大人びた笑顔になる。その表情は笑顔なのに、どこか怖さを感じてしまう。彼女は口の端を上げて、それから口を開いた。
「じゃあ、次に会う時は、女の子のお誘いを断るようなつまらない男じゃないのを期待してるわ、スクルさん。さ、パイラはもう行くわ。またね、ふたりとも」
「ええ、また」
「は……はい、また……」
私達はそう挨拶を交わし、パイラさんは去っていく。彼女の背中を見送っていた私の耳にスクルのため息が聞こえ、私は何事かと彼を見る。
「どうしたのスクル、ため息なんて……」
「はは、大丈夫ですよ。さあ、アステは遊んで来てください。彼、痺れを切らしてますよ?」
そう言われて私は慌ててクインを見る。彼は、つまらなさそうに足元の草をブチブチと抜いている。私は彼のそばにしゃがみ、彼と視線の高さを合わせて話しかけた。
「ごめんねクイン……お話はもう終わったから、一緒に遊びましょう?」
「本当!?うん、行こう行こう!」
そうして私は、クインに手を引かれる。
「行ってくるわねスクル」
「はい、楽しんできて下さい」
そしてクインと私は、彼の新しい両親やスクルが見守る中、目一杯遊んだのだった。
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