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本編

プロローグ

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 その時の事は、今でも鮮明に覚えている。

 杖を媒介にすることもせず、呪文も唱えず、まるで踊るように魔法を使う彼女の姿。

 どんな言葉でも言い表せない、キラキラと輝くような光景は、どうやったって消えない影のように、僕の心に、頭に、目に、焼き付いた。

 神童だとか、秀才だとか、そう言われてきた僕が、決して手に入れられないもの。それを持つ彼女が、眩しく見えてたまらなかった。
 でもそれは、その力が欲しいとか、彼女みたいになりたいとかいう憧れや妬み……そういうものじゃなく、ただ、彼女の生み出すものを見続けられたら……そういう気持ちだった。

 でも、僕は知る。彼女の、あまりにも特異な力が、彼女にとって決して幸福なものではないという事を。そして、彼女が望まない未来を生み出す事を。

 だから、僕は決意する。

 彼女が、心から笑い続けられる未来のために、神様だって騙してやると。



 これは、彼女と僕の、春から次の春へと巡る、長いような短いような、一年間のお話。
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