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本編
5月 閑話 優しさの理由
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チェリーとふたりきりの時だった。僕は彼女にこんな事を聞かれた。
「どうしてスターは、あたしにたくさん優しくしてくれるの?」
僕は、純粋な眼差しでこっちを見るチェリーに、思わず目を逸らしてしまう。手元のノートに、無意味な書き込みをしながら、僕はチェリーに答えた。
「……理由はいくつかあるけど、どれも僕の下心だから、話したくない」
「したごころ?」
「うん。純粋にチェリーのためっていうわけじゃなくて、僕のためになるからやってるっていう意味」
そうだ。最初はチェリーの魔法に興味があって。そしてチェリーに試験を受けさせたのも、結局僕自身があいつらをギャフンと言わせたいだけで。全部、自分都合の優しさなんだ。
でも、チェリーの反応は。
「え?でも、こうしてあたしのためにもなってるよ?あたしのためにもスターのためにもなるなら、それって……何も悪いことなくない?」
そんな風に言われるとは思ってもみなかった僕は、思わず手を止め、顔を上げてチェリーを見る。彼女はニコニコと笑っている。
「だけどさチェリー、もしかしたら僕は君に恩を売って、それ以上の見返りを求めるかもしれないよ?」
「……?それって、スターがあたしに何かをひとつくれて、あとから、親切にしたんだから別のものを二つよこせって言う……みたいなこと?」
「そう」
だから気をつけた方がいい、そう続けようとした僕の言葉は、チェリーの言葉によって遮られた。
「でもスターはそんなこと絶対にしない。そうでしょ?」
そう信じて疑わないというチェリーの目が、僕をまっすぐ見る。視線に熱なんてないのに、僕の頬がピリピリとする。
「……どうしてそう思うの」
「だって、ほんとにそうしようと思ったら、わざわざ話したりしないでしょ?」
確かに、と僕は思った。正直に手の内を明かす悪党なんていない。そんな馬鹿なことをするのは、お話の中の、わざわざ予告状を出してくる怪盗くらいだ。
僕は、肩の力が抜けてしまう。
「……そうだね。チェリーの言う通りだよ。あーあ、僕って悪党に向いてないんだろうな」
「うん、そんなのスターに似合わないもん!絶対にやめといたほうがいいよ!」
そう言って、楽しそうに笑うチェリー。僕も思わずつられて、笑顔になる。
「でも……あたしはスターに、ひとつ以上のものをもらってるんだよ?嫌なやつからかばってくれて、お友だちになってくれて、お勉強を教えてくれて……」
チェリーはそう言いながら数を数えるように、指を一本ずつ折りたたんでいく。
「ほら、もう三つもくれてるよ?」
そう言って、数えた手を突き出して、僕に見せるチェリー。
「だからあたしも同じ数、返してあげる。何がいい?でもあたし、なにもないなぁ……」
「じゃあさ」
「うん」
「魔法……見せて。僕、君が魔法を使うところ、大好きなんだ」
そう言うと、チェリーは満面の笑みで、うんと頷く。
「じゃあ、見せたげる!あたしのとっておき、パチパチきらきらふわふわの……ほら!」
チェリーがそう言いながら、空中に手を伸ばしくるくるとかき混ぜるように動かす。その瞬間、彼女の手の周りにぼわっと煙が上がり、赤や黄や白のキラキラしたものが弾け、なぜか甘くて美味しそうな香りが僕の鼻をくすぐる。
僕は、声も出ないまま、その光景に魅入られる。初めてチェリーの魔法を目にした時と同じ感情が、体の奥から溢れそうになり、それはいつしか涙となって流れていく。
「えへへー、どう?……ってスターなんで泣いてるの!?大丈夫!?お腹痛い!?」
心配して覗き込むチェリーに、僕は首を横に振る。
「だって……綺麗だったから……」
「そっかあ……ならよかった。えへへ、きれいでしょ?あたしのとっておきなんだよ?」
「うん……すごく綺麗」
「うれしいな……泣いちゃうくらい喜んでくれるなんて……へへ……ありがと、スター」
「僕も……ありがとう」
そして僕たちは顔を見合わせて、笑った。
照れながら笑うチェリーと、泣きながら笑う僕と。パチパチと煌めく魔法が、そんな僕たちを照らし続けた。
「どうしてスターは、あたしにたくさん優しくしてくれるの?」
僕は、純粋な眼差しでこっちを見るチェリーに、思わず目を逸らしてしまう。手元のノートに、無意味な書き込みをしながら、僕はチェリーに答えた。
「……理由はいくつかあるけど、どれも僕の下心だから、話したくない」
「したごころ?」
「うん。純粋にチェリーのためっていうわけじゃなくて、僕のためになるからやってるっていう意味」
そうだ。最初はチェリーの魔法に興味があって。そしてチェリーに試験を受けさせたのも、結局僕自身があいつらをギャフンと言わせたいだけで。全部、自分都合の優しさなんだ。
でも、チェリーの反応は。
「え?でも、こうしてあたしのためにもなってるよ?あたしのためにもスターのためにもなるなら、それって……何も悪いことなくない?」
そんな風に言われるとは思ってもみなかった僕は、思わず手を止め、顔を上げてチェリーを見る。彼女はニコニコと笑っている。
「だけどさチェリー、もしかしたら僕は君に恩を売って、それ以上の見返りを求めるかもしれないよ?」
「……?それって、スターがあたしに何かをひとつくれて、あとから、親切にしたんだから別のものを二つよこせって言う……みたいなこと?」
「そう」
だから気をつけた方がいい、そう続けようとした僕の言葉は、チェリーの言葉によって遮られた。
「でもスターはそんなこと絶対にしない。そうでしょ?」
そう信じて疑わないというチェリーの目が、僕をまっすぐ見る。視線に熱なんてないのに、僕の頬がピリピリとする。
「……どうしてそう思うの」
「だって、ほんとにそうしようと思ったら、わざわざ話したりしないでしょ?」
確かに、と僕は思った。正直に手の内を明かす悪党なんていない。そんな馬鹿なことをするのは、お話の中の、わざわざ予告状を出してくる怪盗くらいだ。
僕は、肩の力が抜けてしまう。
「……そうだね。チェリーの言う通りだよ。あーあ、僕って悪党に向いてないんだろうな」
「うん、そんなのスターに似合わないもん!絶対にやめといたほうがいいよ!」
そう言って、楽しそうに笑うチェリー。僕も思わずつられて、笑顔になる。
「でも……あたしはスターに、ひとつ以上のものをもらってるんだよ?嫌なやつからかばってくれて、お友だちになってくれて、お勉強を教えてくれて……」
チェリーはそう言いながら数を数えるように、指を一本ずつ折りたたんでいく。
「ほら、もう三つもくれてるよ?」
そう言って、数えた手を突き出して、僕に見せるチェリー。
「だからあたしも同じ数、返してあげる。何がいい?でもあたし、なにもないなぁ……」
「じゃあさ」
「うん」
「魔法……見せて。僕、君が魔法を使うところ、大好きなんだ」
そう言うと、チェリーは満面の笑みで、うんと頷く。
「じゃあ、見せたげる!あたしのとっておき、パチパチきらきらふわふわの……ほら!」
チェリーがそう言いながら、空中に手を伸ばしくるくるとかき混ぜるように動かす。その瞬間、彼女の手の周りにぼわっと煙が上がり、赤や黄や白のキラキラしたものが弾け、なぜか甘くて美味しそうな香りが僕の鼻をくすぐる。
僕は、声も出ないまま、その光景に魅入られる。初めてチェリーの魔法を目にした時と同じ感情が、体の奥から溢れそうになり、それはいつしか涙となって流れていく。
「えへへー、どう?……ってスターなんで泣いてるの!?大丈夫!?お腹痛い!?」
心配して覗き込むチェリーに、僕は首を横に振る。
「だって……綺麗だったから……」
「そっかあ……ならよかった。えへへ、きれいでしょ?あたしのとっておきなんだよ?」
「うん……すごく綺麗」
「うれしいな……泣いちゃうくらい喜んでくれるなんて……へへ……ありがと、スター」
「僕も……ありがとう」
そして僕たちは顔を見合わせて、笑った。
照れながら笑うチェリーと、泣きながら笑う僕と。パチパチと煌めく魔法が、そんな僕たちを照らし続けた。
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