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本編
6月 その1 試験直前
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あれからチェリーのための勉強会は、思わぬ発展を見せた。ティティは嫌々な様子のわりに、しっかり勉強を教えてくれているようだ。そしてなんと、灰色姫の会までも協力してくれて、部屋を貸してくれたり、会のメンバーが勉強を見てくれる事さえあった。
その中でも特に熱心だったのがユニさんだった。
「家の格だの血筋だのに胡座をかいて人間様を舐め腐ってる奴らの鼻っ柱をバッキバキに折ってやらないと……はあ……はあ……私は気が済まないんだよ副会長!」
「さては……また揉めましたね会長」
「その言い方は解せないぞ副会長。大体あっちからちょっかいかけてくるんだ私にはこれっぽっちも非はないと断言できる!!!黙ってりゃかわいいとか失礼極まりないと思わないかい!?」
「え……ええと……会長?それは……んん?」
「女は賢くなって仕事に就いても嫁の貰い手がなくなるだのなんなら俺が養ってやってもいいとかなんなんだ一体!!!魔族の夫なんて持ったらそっちの方が苦労するに決まってるだろう!?なあ!?」
「そ……それは……」
「いつも顔を真っ赤にしてくだらない事ばかり言ってくるんだ!!!いい加減にして欲しいよ全く!!!」
という会話が繰り広げられていたけど……僕にはよく分からないや。
――
試験まであと一週間というとこまできた。多少苦手な科目はあるものの、チェリーの成長はめざましく、上級学校に入学できる程度にまで学力がついていた。
まさかそこまで行けるとは関係者全員思ってなかったから、まだテストさえやってない段階なのに、みんなどこかワクワクしているように見える。
その日は、テスト前最後の仕上げという事で、放課後を使って、僕とティティでチェリーの勉強を見ていた。
少し休憩を、という事で雑談をしていた時だった。ティティの素っ頓狂な声が上がった。
「まさかお前、旅行した事ねえの!?」
「……そんなに驚く事?」
夏休みに何をするかという話題で、僕が旅行をした事がないと言った時のティティの反応に、僕も面食らってしまう。
信じられないといった様子のティティは僕に次々と質問を投げかける。
「夏に海に行くとか」
「ない」
「秋に山に登るとか」
「ない」
「冬にスキーするとか」
「ない」
「春に花畑でわー!って叫びながら駆け回るとか」
「なにそれ……だから、ないって言ってるでしょ!?」
いい加減うんざりして、少し怒鳴ってしまった。でもティティは気にするどころか、いい事を思いついたと言わんばかりに得意げな顔で言った。
「そうか……よし分かった!夏休みは5連休もあるんだ。俺が旅行に連れてってやる!」
「いやだ」
「なんでだよ!」
すぐに断った僕に、それでもティティはしつこく食い下がってくる。
「自然に親しむのはどうだ?昼は川で魚を釣って自分で捌いて焼いて食べる。夜は焚き火を眺めながら色んな事を語り合う。それとも温泉でのんびりするか?そこにしかない博物館やら美術館やらめぐるのも楽しいぞ。ほら聞くだけでワクワクしてくるだろ?」
「……しない」
ぶっきらぼうに、視線をそらして言った。もうこれ以上、この話題を聞きたくなかった。なのにティティは引かない。それどころか。
「嘘だね。お前の顔に書いてあるぞ。楽しそう、って」
図星だった。僕は、顔が赤くなる。悔しい。
「……書いてあるわけないでしょ」
「頑固だな」
「うるさいな!旅行に行くお金なんてないって、言わなくても分かってるくせに!そんなに行きたいなら、仲のいい友達と行ってくればいいでしょ!」
そう言った僕のほっぺが両手で挟み込まれ、無理矢理ティティの方を向かされる。
「馬鹿か!俺はお前と行きたいって言ってんの!金なんて腐るくらいあるんだ。いくらでも出してやる!」
色々と反論したいのに、頬ががっちり挟まれて喋れない。
「ううー!」
「……決めた。対価は俺の旅行に付き合う事。それ以外は認めない」
チェリーの勉強を見てもらう代わりに、願いを叶えてあげる……そう言ったのを思い出す。
緩まった手を引き剥がして、僕はティティを睨みつける。
「僕にできる事なら、って言ったでしょ?」
「できない理由なんてないだろうが」
「……夏休みは……勉強する」
もう一度、ほっぺを挟まれた。
「馬鹿か!夏休みは休め!もう決めた!お前が嫌がっても無理矢理引きずって連れて行くからな!いいな!?」
いつもの、冗談めいたティティはそこにいなくて、僕は、その真剣な眼差しから目が離せなくなってしまった。
そして結局僕は、ティティのその願いを叶えることにしたのだった。
その中でも特に熱心だったのがユニさんだった。
「家の格だの血筋だのに胡座をかいて人間様を舐め腐ってる奴らの鼻っ柱をバッキバキに折ってやらないと……はあ……はあ……私は気が済まないんだよ副会長!」
「さては……また揉めましたね会長」
「その言い方は解せないぞ副会長。大体あっちからちょっかいかけてくるんだ私にはこれっぽっちも非はないと断言できる!!!黙ってりゃかわいいとか失礼極まりないと思わないかい!?」
「え……ええと……会長?それは……んん?」
「女は賢くなって仕事に就いても嫁の貰い手がなくなるだのなんなら俺が養ってやってもいいとかなんなんだ一体!!!魔族の夫なんて持ったらそっちの方が苦労するに決まってるだろう!?なあ!?」
「そ……それは……」
「いつも顔を真っ赤にしてくだらない事ばかり言ってくるんだ!!!いい加減にして欲しいよ全く!!!」
という会話が繰り広げられていたけど……僕にはよく分からないや。
――
試験まであと一週間というとこまできた。多少苦手な科目はあるものの、チェリーの成長はめざましく、上級学校に入学できる程度にまで学力がついていた。
まさかそこまで行けるとは関係者全員思ってなかったから、まだテストさえやってない段階なのに、みんなどこかワクワクしているように見える。
その日は、テスト前最後の仕上げという事で、放課後を使って、僕とティティでチェリーの勉強を見ていた。
少し休憩を、という事で雑談をしていた時だった。ティティの素っ頓狂な声が上がった。
「まさかお前、旅行した事ねえの!?」
「……そんなに驚く事?」
夏休みに何をするかという話題で、僕が旅行をした事がないと言った時のティティの反応に、僕も面食らってしまう。
信じられないといった様子のティティは僕に次々と質問を投げかける。
「夏に海に行くとか」
「ない」
「秋に山に登るとか」
「ない」
「冬にスキーするとか」
「ない」
「春に花畑でわー!って叫びながら駆け回るとか」
「なにそれ……だから、ないって言ってるでしょ!?」
いい加減うんざりして、少し怒鳴ってしまった。でもティティは気にするどころか、いい事を思いついたと言わんばかりに得意げな顔で言った。
「そうか……よし分かった!夏休みは5連休もあるんだ。俺が旅行に連れてってやる!」
「いやだ」
「なんでだよ!」
すぐに断った僕に、それでもティティはしつこく食い下がってくる。
「自然に親しむのはどうだ?昼は川で魚を釣って自分で捌いて焼いて食べる。夜は焚き火を眺めながら色んな事を語り合う。それとも温泉でのんびりするか?そこにしかない博物館やら美術館やらめぐるのも楽しいぞ。ほら聞くだけでワクワクしてくるだろ?」
「……しない」
ぶっきらぼうに、視線をそらして言った。もうこれ以上、この話題を聞きたくなかった。なのにティティは引かない。それどころか。
「嘘だね。お前の顔に書いてあるぞ。楽しそう、って」
図星だった。僕は、顔が赤くなる。悔しい。
「……書いてあるわけないでしょ」
「頑固だな」
「うるさいな!旅行に行くお金なんてないって、言わなくても分かってるくせに!そんなに行きたいなら、仲のいい友達と行ってくればいいでしょ!」
そう言った僕のほっぺが両手で挟み込まれ、無理矢理ティティの方を向かされる。
「馬鹿か!俺はお前と行きたいって言ってんの!金なんて腐るくらいあるんだ。いくらでも出してやる!」
色々と反論したいのに、頬ががっちり挟まれて喋れない。
「ううー!」
「……決めた。対価は俺の旅行に付き合う事。それ以外は認めない」
チェリーの勉強を見てもらう代わりに、願いを叶えてあげる……そう言ったのを思い出す。
緩まった手を引き剥がして、僕はティティを睨みつける。
「僕にできる事なら、って言ったでしょ?」
「できない理由なんてないだろうが」
「……夏休みは……勉強する」
もう一度、ほっぺを挟まれた。
「馬鹿か!夏休みは休め!もう決めた!お前が嫌がっても無理矢理引きずって連れて行くからな!いいな!?」
いつもの、冗談めいたティティはそこにいなくて、僕は、その真剣な眼差しから目が離せなくなってしまった。
そして結局僕は、ティティのその願いを叶えることにしたのだった。
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