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第一章 イカダ一つと王子一人の国家

悠々自適なイカダライフ

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 ノアクルは、アスピを乗せて再びイカダで大海原へと出発した。
 亀と植木鉢を乗せて少し手狭になったので、流れてくる木片をリサイクルしてイカダを拡張した。
 寝転がって両手両脚を大きく伸ばしても余裕があるサイズだ。

「……こうなるとベッドが欲しくなってくるな」

 ふかふかの羽毛布団……は素材的に無理なので、流れてくる材料を使ってハンモックを作ってみた。
 イカダの上だと揺れすぎてしまうかと思ったが、どうやら大地の加護で揺れが抑えられているらしい。
 丁度良い寝心地だ。
 そうしてリラックスして時を過ごしていると、腹の虫がグゥ~と鳴った。

「メシにするか」

 ノアクルは流れてくる材料を使い、今度は釣り竿を作った。

「あまり釣りはやったことないけど、大丈夫かなぁ……」
「おい、冗談でもワシの前に針を垂らすのはよすのじゃ」
「さすがに亀は釣れないか! では、気を取り直して大海へフィーッシュ!」

 チャポンと釣り針が海に沈み、浮きがプカプカと揺れている。

「どうかな~……。釣れるかな~……まだかな~……」
「お主、釣りに向かない性格じゃな……」

 ノアクルがそわそわしていると、すぐに浮きが沈み込み、竿がクッと軽く引っ張られる感覚があった。
 急いで引っ張り上げると、そこまで大きくないが十分に可食箇所がありそうな魚が釣れた。

「よし、一匹目ゲット! 次だ、次!」

 この辺りの魚は人間をまったく警戒していないので、餌なしの素人でも入れ食い状態だった。
 調子に乗って食べきれないくらい釣ってしまったので、次の段階に移ることにした。

「さすがに内臓は食べたくないから、ある程度は捌かないとな」

 特殊な水流で浮かんできていた鉄くずを使ってナイフを作る。
 釣った魚をそれで下処理して、これまた作った簡易火起こし機で焼き魚にした。

「うひゃ~……うまそ~……。海の上で釣った魚はいつもより輝いて見えるな」

 一応、イカダで直に焼くと焦げそうなので、専用の台を作っている。
 本格的なグリルには敵わないが、即興で作ったにしては上出来だ。

「いただき~ます。アスピも食うか?」
「本来なら身体を維持するために食べなくてもよいが、折角だからご相伴にあずかるとするのじゃ」

 二人仲良くモグモグと焼き魚を食べる。
 亀と人間が並んでの食卓はシュールだが、イカダの上という非日常だとなかなか絵になる。
 食べ終わり、お腹いっぱいになったのでイカダの上で寝っ転がった。

「ふ~……余った魚は保存食として干しておくかな……。塩も作ってあるし……」
「ワシがいうのもなんじゃが、お主は適応力が高すぎるのぉ……」
「そうか?」
「追放されてイカダの上で生活とか、普通だったらパニックになるか、頭がおかしくなっても仕方がないのじゃ。それをお主はこうも平然と……」
「そりゃ最初はどうしようと思ったけど、スキル【リサイクル】があれば意外とどうにかいけちゃったからな。それに話し相手のアスピができたし。お前には感謝だ」
「ふ、ふん! いつか話し相手から、神として崇めさせてやるわい」
「うへぇ~……♂亀のツンデレは気持ち悪い……」
「なんじゃと!? きさまぁ!」

 アスピが亀頭でゴスゴスと頭突きをしてくるので、ノアクルはハンモックへと退避した。
 ここならばアスピの背丈では登ってこられない。

「いや~……本当に悠々自適だなぁ……」

 ノアクルは、鉢植えからオレンジらしき果物をもぎ取り、それを皮ごと囓った。
 大地の加護のおかげか甘みが強くてデザートとして最適だ。

「余裕ができたし、これからのことでも考えるかぁ~……」
「そうじゃのぉ。お主はこれからどうしたいんじゃ?」

 イカダで自給自足できそうな環境は整えた。
 流れてくるゴミを有効利用できるし、基本的にここで暮らしていくことになるだろう。
 そこでふと思い出した。

「そういえば、このイカダと海域を〝国〟として与えられたんだよな。それがたとえ詭弁でもさ」
「となれば、ここら一帯はお主の国かのぉ」
「バカバカしいけど、そういうことになるな。海上国家ノアクル……いや、海上国家ノアの最初の国民はアスピ、お前だな」
「亀なんじゃが」
「ただの亀ではない。ゴミ扱いされた亀だ。……よし、これからもゴミ扱いされた奴らを国民として受け入れてやるか! まだ使えるゴミたちよ、我が海上国家ノアに集まれ!」
「この王、とんでもないことを言っておるのぉ……。けど、それも面白いかもしれん。長生きはしてみるもんじゃ」

 今、ノアクルによる海上国家ノアが始まったのであった。
 ――というところで、ノアクルは気が付いた。
 大きな影がイカダを横切ったのだ。
 海鳥というレベルではない。

「……え?」

 人間サイズの鳥のようなものがイカダに降り立ち、眼を爛々と輝かせていた。
 それは人間よりはるかに恐ろしい力を持つといわれるハーピーであった。
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