君に春を届けたい。

ノウミ

文字の大きさ
上 下
16 / 20

episode 16

しおりを挟む
僕は、袋から桜の苗を取り出す。


「なに?それは」

「桜の鉢です」

「えっ…」

「これなら、病室でも見ていただけるかと」


突然、流川さんの頬を涙が伝う。

僕は予想していなかった、突然の事に大慌てする。


「ご、ごめんなさい!何かしたくて、何もないなって思っていて……そんな時に、これしか思いつかなくて」

「ふふっごめんねは無しだよ」


涙を拭きながら、笑っていた。

この笑顔は心から出ている笑顔だと、そう思う。


「でもずるいな、だって春まで生きれないんだよ?」

「で、ですのでこれを」


僕は、続けて鞄の中から一枚の紙を取り出す。

それは、桜の形に折られたメッセージカード。


「これを、これから毎日持ってきます」

「……なに…これ…」

「中に一言だけですけどメッセージを書いてあります」

「…開けても?」

「もちろん」


中を開けて、さらに涙が溢れ出る。

”僕を救ってくれた言葉をありがとう”


「なんなの…救った言葉って……私そんなこと言ったかな?」

「はい、この短い時間ですが、確かにいただきました」


流川さんは笑いながら、泣いていた。


僕は、傍にいた。

何もせずに、ただただ傍に。

あの日の流川さんが、そうしてくれたように。
しおりを挟む

処理中です...