ほしくずのつもるばしょ

瀬戸森羅

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おはなし

この雪が融けたら

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 この惑星には、もう陽が差さない。
 惑星の表層には常に分厚い雲が覆い被さり、汚染物質に塗れた雨や雪が振り続けている。
 人間が太陽に頼らなくなった時から、太陽はまるでそれを憎むかのように姿を消した。
 正確には、文明の発達により変化した環境が太陽と惑星を隔てたことになるのだが。
 とにかくこの惑星はもう終わりに向かっていることは誰の目にも明らかだった。
 産まれて間もない赤子でさえ自らの運命を呪う。
 ここはそんな死の蔓延る街。
 誰が名付けたか、エデンなんて呼ばれるこの街は、その名に似合わぬ不法と暴力に支配されていた。
 セキュリティさえ留意しておけばこの街では生きていける。
 あらゆるものが全自動化されており、生きることには困ることは無い。そのため価値のあるものを欲しがりさえしなければ俺たちは寿命が尽きるくらいまでは細々と生きていくことができるだろう。
 だがやはり過去の遺物を狙う悪党が多いのは、どこまでも欲深い人間の本質を思い知らされる。
 そんな中でもギラギラの格好で外に出る阿呆。
 それをつけ狙う阿呆。
 そのどちらかが死にどちらかが生きる。
 はたまたどちらも死ぬかやっぱり無事でないにしろどちらも生き残るか。
 常にここには何かしらの諍いが溢れている。

 このエデンの街には女はいない。
 もしいれば即刻攫われとんてもない値段で売り飛ばされ、その先は想像に難くないことになるだろう。
 そうならないため先を見越した女性指導者が特級階層を設け、各自にシェルターを分配したのだ。
 同居生活を強いられるがあらゆる安全面が工面された女性だけの街が各地に誕生した。
 そして隔離された女性とは、政府の立ち会いの許にしか会合は許されない。
 つまりは俺たちみたいな低級層は成り上がり政府の一員にでもならなければ一生女を見ることは叶わないってことだ。
 そうして数十年もすればエデンの街のような無法地帯で生きた教育のなっていないような荒くれどもは死に絶え、隔離地域で暮らしたお坊ちゃんだけが新たなる世代を残していくというわけだ。
 …そんなことをしても必ず汚い心を持った人間は生まれるのだが、あいつらは政府の血だけが特別だと思っていやがる。

 そんな破滅に向かうだけの日々の中でのこと。
 俺は女を見た。
 女を見たことの無い俺でも本能的にわかった。
 俺たちとは全く違う存在だ…。
 こいつを捕らえればこの先数十年は困らないほどの金を得ることもできるだろう。
 だが、そいつはそんなことを考えている俺の悪意になど全く気づかないような呑気な顔をしながらこちらに向かってきた。
「こんにちは」
 少し緊張しながらも遠慮がちに微笑むその顔を見ると、この先の生活だとか、この星の終わりだとか、そんなこと全部どうでもよくなってしまった。
 俺はこいつを護らなければならない。
 そう思った。
「なあ、お前。俺と一緒にならないか?」
 気づいた時にはそう口走っていた。
「うーん、そうですね」
 女は少し考えるような仕草をした後言った。
「この雪が融けたら、結婚しましょう!」
 どだい無理な話だ。
 だがこの女のためなら何でも出来そうな気がした。
「わかった。わかったよ。でもとりあえずうちで暮らさないか?」
 何故か女はついてきた。
 もし俺が危険なやつだったらすぐにでも酷い目にあっているんだぞ…?
 俺は呆れてしまった。
「おい、あんまり警戒心がないようだとこの街ではすぐに死ぬぞ?」
「あら、心配してくれるんですね!」
 女はにんまりと笑った。
「当たり前だ。俺は生まれて初めて女というものを見たが…この街ではそれほどまでに女が貴重だってことだ。俺がその気にさえなればお前は売り飛ばされ死ぬまで嬲られることになる」
「あなたは、私を売り飛ばすんですか?」
「…いや、そのつもりはない」
「ならいいじゃありませんか」
「そうじゃなくてだな…」
「ほら、行きますよ!」
「…まいったな」
 こんな奔放な生き物に出会ったことはなかった。
 …やれやれ。どうしたものか…。
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