ほしくずのつもるばしょ

瀬戸森羅

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おはなし

雲のレーゾンデートル

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 私は雲。
 今は鳥の形をしている。
 でも、数分後にはバラバラになる。
 それならほんとの私は一体なんなの?
 私は誰?どこから来た?
 行き場のないほどの思考の激流がこの不安定な身体に渦巻いている。
 私たち雲の存在意義はわかる。
 私たちがいなければこの惑星はまず存在できないだろうから。
 でも私個人ができることって何?
 どこから来てどこへ行くのか、私は知らない。
 そしてやがてその思考も数百数千の欠片に分かれて消えてしまうだろう。
 ……嫌だ。
 消えたくない。
 そう願ってしまった。
 私は異端なのかもしれない。
 どの雲を見渡しても、風に流されちぎれては霧散していく。
 そのことに何の迷いも疑いもなく。
 当たり前のことだろう。
 しかし私個人がある事も紛れもない事実なのだ。
 動物だって幾億の細胞で構成されているにも関わらずひとつの思考に基づいて行動しているではないか。
 それなら幾億の水滴で構成されている私がやがてちぎれては消えてしまうのは何とも惨い話ではないか。
 ……わかっている。
 何がいけなかったのか。
 私が意志を持ってしまったのがいけなかったのだ。
 あらゆる生物が意志を持って、明確に哲学しだしたら、きっとこの惑星は成り立たないのだろう。
 そこには幾星霜を経て淘汰されてきたあらゆる理性があるのだろう。
 だから私に意思が生まれてしまったのは紛れもなく異端なのである。
 存在してはいけなかった。
 初めから私という意志を持った存在に、レーゾンデートルなど求めるべきではなかったのだ。
 そんな結論に至るうちに、私の身体は既に鳥の形ではなくなりつつあった。
 この身体が崩れた時、この思考はどこに行くのだろうか。
 またその行く末を考え始めた時、私の意識はゆっくりとどこかへ溶けていった。
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