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守ってくれる人

百合の花咲く夜

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 昨日の戦いはやはり多くの生徒が疲弊していたらしく、今日は朝からみんなとてつもなくテンションが低かった。

「はい…おはようございます……。それでは…授業を…。」
 先生までが眠そうだ。
「先生…もう今日はいいんじゃないですか?」
「いや、そうも言っていられません…。はいっ!気を取り直して!おはようございますっ!」
「はいっ!」
「えぇではね、とりあえず、昨晩はお疲れ様でした。大変でしたねぇ…キノコ駆除なんて…。そんな中でも大きな活躍をした子たちがいます!」
「まさか…!」
「チーム・エデンズカフェのみなさん!今回はMVPをいただきましたよ!」
「おーっ!」
「ま、そりゃあそうか。親玉を倒したようなもんだったもんね。」
「しかしすごいね!かなりの生徒たちがキノコに支配されていたようでしたがあなたたちの活躍でみんな元に戻りました。」
「えへへぇ。」
「今回の報酬は期待していいですよ!」
「おぉーっ!」
「さて、それではエトンを確認するのは程々に授業をはじめていくよ。」
 …エトンの確認をするタイミングを失ったみたいだ…。

 お昼休みに食堂で集まった。
「いやぁ~褒められちゃったね~!」
「今回は大きな功績だったと思う。しかしだな、今回の功績はまさしく情報を持っていたからこそだ。つまり、最優秀は紛れもなくリリィ、お前だ。」
「えっ、そんな。私一人だったら絶対だめだったよ。」
「謙遜するな。他のチームが為す術なくやられたのは触れたらアウトだという情報を知らずに戦ったからだ。」
「多分報酬もリリィがいちばんなんじゃない?」
「あ、そういえばみてなかったかも。」
「おーっ!見てみようよ!」
「なんか恥ずかしいな…。」
「別に見せる必要はないだろ…こういうのは揉め事の元だぞ。」
「ごめんなさい…。」
「まぁまぁ、別に悪気はないんでしょ?」
「うん…。」
「じゃあダイヤに見えないようにこっそり見ようね。」
「わーい!」
「私が見たくないとかそういう問題じゃないんだがな…まぁいいか。」
「えーっと…えっ!こんなに!?」
 なんと1500二ーディも入っていた。
「えっ…。」
「えっ!?」
「ご、ごめん…ただ、モカよりも少なくて…。」
「何っ!?」
「えっ!ダイヤ、見ないんじゃなかったの?」
「そう聞いたら気になるだろう。…これは…。」
 エトンを覗いた途端にダイヤが顰め面になる。
「アミィ、出てこい!」
「はいは~い。」
 ダイヤがアミィを呼ぶとぽんっとアミィが出てきた。…私の精霊なのに…。
「これはどういうことだ?」
「どうもこうもないでしょ?ボクだって善処したんだけどさぁ。アレがちょっと…費用かかっちゃって。」
「アレ…とは?」
「マイコタンの送還と手土産がね、悪い言い方で言えば敵に塩を送るようなものだしね…。」
「なるほど…しかし1番の功労者がこれではな…。」
「えっ、ちょっとちょっと。1500二ーディってすごい大金でしょ?」
「確かに大金だ。大金だがな、私たちはそれ以上にもらっているんだ。何せ学内MVPだからな。」
「うぅん…でもそんなに要らないかなぁ。」
「確かに日常生活で困ることはないだろうが、武器やエトンのメンテナンスにかかる費用はその比ではないぞ。戦闘用の道具なんかも割高だ。」
「あー、そうだった。来たばっかの時は逆に日常生活にかかる費用の安さに驚いたんだっけ…。」
「確かに装備にかかる値段しか知らなかったら驚くだろうな。」
 良く考えれば魔法を使えるこの世界では日常生活の様々なことは簡略化できる。しかし魔力を込めて作るものはその魔法の源である魔素を使うからこそ値段も上がるのだろう。
「それで、一体どのくらいの差があったの?」
「まぁ…その…なんだ…さっきも言ったが揉め事の元になる…。それでもきくか?」
「私は気にしないって言ったよ。」
「…4000二ーディだ。」
「倍以上…!?」
「まあなんだ…お前が少なすぎるかもしれないな。」
「そうだなリリィ。この前の戦闘の時、私は1200二ーディだったって言っただろ?300二ーディの差は大きいが迎撃に参加しただけの私が1200で今回学園を救ったお前の功績が1500だとすると割に合わなすぎる。」
「それは確かに…。でも前より3倍になってるしなぁ。」
「リリィあの時救護室に運ばれたから半額になってたんだよ?」
「じゃあ最初の私でも1000もらえてたのか…!」
「医務室送りはかなり痛いからなぁ。」
「ま、今回は大半の生徒が医務室送りだったからその分私たちに報酬を回せたんだろう。」
「私は一体いくらもらえてたんだろう…。」
「あ、リリィは6000二ーディだったよ。」
「6000!?」
「ボクが功績をしっかりお伝えしたからね。まさにMVP!って感じで!」
「そうか。精霊が報告して報酬を決めるんだったな。」
「あちゃー、じゃああのペンギンに媚びを売らなきゃならないのかー!」
「こらッ!」
「げっ、ロメオ!」
「失礼だぞっ!スパーダッ!」
「あーうるさいうるさい!」
「いいのかっ!?そんなこと言ってもっ!?」
「なっ!こいつ…聞いてたのか!」
「げひひッ!」
「こいつもう悪役だろ…。」
「ま…まぁまぁスパーダも失礼なこと言ったのは確かですし…。」
「それは謝るよロメオ…。」
「わかればいいッ!」
 ロメオは消えた。
「それで?アミィを使役している限りは今回みたいに二ーディがかなり減っていくのか?」
「いやいや、そんなことはないよ~。ただ今回みたいに裏技みたいなことするとやっぱりかかるよってこと。」
「こいつほんとになんなんだ…。」
「アミィちゃんだよ!」
「……はぁ。考えるだけムダか。」
「でも、かわいいです!」
「えへへ、ありがと!」
「ま、それでいいか。」

 結局今日の授業は午後に入る頃にはみんな眠気でどうにかなってしまいそうだったようでクラスの大半が机に沈んでいた。
 レイン先生はそれを見ながら恨めしそうに目を細めていた。
「おい起きろ…!怒られるぞ…!」
「うーっ…。」
 スパーダがクローバーを起こそうとしている。
 しかしレイン先生は寝ているみんなを起こそうとはしなかった。
「…もしかして、今日は許してくれるのかな?」
「…そうかも…もう起きてられない…。おやすみ…。」
 目覚めたかのように見えたクローバーは再び眠ってしまった。
「んじゃ、私も!おやすみー!」
 スパーダが机に伏せた時レイン先生がスパーダの頭をはたいた。
「宣言するな、ばか。」

 そんな眠たい午後も乗越えようやく今日の授業は終わった。
「ん~…眠い…ねぇ、今日も訓練やるのぉ?」
「…今日はやめておくか。みんなもその方がいいだろう?」
「賛成!賛成!大賛成!」
「うん!仕方ないよね!昨日大変だったもんね!」
「…やけに嬉しそうじゃないか。」
「あっ…いやぁ…。」
「…走るか?」
「いや~!今日はもういいよ~!」
「ふっ…私も今日はできそうにない。帰ろうか。」
「はい!」
 今日は訓練もしないことになった。

「…さて、訓練もなくなったことだし、遊びに行こうよリリィねぇね!」
「いや寝ようよ!どんな体力してんの!?」
「モカ眠くないよ?睡眠時間は十分あったもん!」
 そうかこの子…授業中しっかり寝てたな…。
「…あのね、私はしっかり授業受けてたの。眠くて仕方ないわよ…。」
「ごめんなさい…。」
「じゃあ私はお風呂はいって寝るから。モカちゃんは存分に休暇を堪能してください。」
「…なんか、怒ってる?」
「え?怒ってなんかないない!」
「そりゃそうだよね…二ーディもモカたちの方が多くもらっちゃってるし…モカはキノコの包み焼きを作ったくらいしか戦えてないし…。」
「ちょ…ちょっとモカちゃん?」
「モカなんて…どうせ使えない子…。なのに図々しくて…。」
 まずい…目が虚ろだ…!
「あー!モカちゃん!私なんだかすごく遊びたくなってきた!ねぇ!遊ばない?」
「えっ!ほんと!?」
「うんうんっ!」
「うわぁい!やったぁ!」
 くっ…この子をネガティヴにしてしまうと後で大変なことになる…。ここは無理をしてでも…。
「じゃあじゃあ!どうするどうする!?」
「あぁー…モカちゃんの行きたいところに行けばいいよ…。」
「むっ!何その投げやりなかんじ!もっとちゃんと考えてよぉ!」
 ……このうえなくめんどくさい……っ!!
「わ…わかった…じゃあ映画観よ。ね?」
 …あわよくば劇場で仮眠を…。
「でも今ってなんかいいのやってたっけ?」
「あー…なんかあるでしょ。」
「ちょっと待ってて…マシュゥきて。」
「はいは~い。映画の情報だね?」
「うんそう。話が早くて助かるよ。」
「えっと今は…映画館が恐怖に包まれる戦慄のホラー巨作!『オクタゴン』か、甘酸っぱい恋はいつしか濃密な愛の味へと変わる…切なさと愛しさの絡み合う学園ラブロマンス『放課後、あなたのいるばしょ』のどちらかだね!」
「うーん!どっちも面白そう…!」
「ホラーはちょっと今は…。」
「どうして?」
「眠れなくなっちゃいそう…。」
「あはは、リリィねぇねかわいい!」
 まぁ『映画館で』ということなのだけど…。
「じゃあ放課後の方を観に行こー!」
「そうしましょ。」
「おっけ~。じゃあチケット取っておくからね。」
「そんなことまでできるんだ。」
「エトンは二ーディの自動決済までしてくれるからね!精霊に頼めば大抵の事はやってくれるよ!」
「頼もしいでしょ?」
「そうね。ほんと便利。」
「でもでも~?このボクには適わないんじゃな~い?」
「わっアミィ!」
「ふっふっふ~。ボクはそこらのエトンと一緒にされると困っちゃうくらい色んなことができるもんね~。」
「自慢しないの。ごめんねマシュゥ。」
「ううん、いいんだ。でもぼくももっと役に立ちたいなぁ。」
「……そんなキミにいい話があるんだけど…。」
「ちょっと!なんか怪しいこと言わないの!」
「えっ!なに!?」
「食いついちゃだめでしょ…。」
「大丈夫!全然怪しい話じゃないから!それでね、話っていうのはね。キミにチカラを授けようかなっていうことなんだけど。」
「えぇっ!」
「もしキミがチカラを得てモカちゃんのピンチを助けられたら…どうかな?それってすごく嬉しいよね?」
「うん…うんっ!」
「ボクならキミを強くできる。なに、方法は簡単で、キミが得る二ーディの少しをボクに流すだけでいいんだ。ね?簡単でしょ?」
「ちょーっと待った!やっぱり怪しい話じゃないの!」
「やだなぁ。対価をもらわずしてチカラを得ようだなんて話の方が胡散臭いよ。得るために払うことは当たり前のことでしょ?」
「う…それは確かだけど…。」
「ねぇねぇモカ…ぼく強くなりたい。だから…その…。」
「二ーディが…いるのね?」
「…うん。」
「いいよっ!マシュゥが活躍してくれるようになるんだったらそれくらい全然お安いもんだよ!」
「…わぁ!ありがとうモカ!」
「決まったみたいだね?」
「うん!おねがいします!」
「…アミィ。もしこれで友だちから二ーディを騙し取るようなことしたら、このエトンは燃やすからね。」
「わ…わかってるよ。信用ないなぁもう。」
「それで…おいくらなの?」
「安心してよモカちゃん。そんなにいただく気はないからさ。ただ使った分だけ、という安心な契約にしておこう。いいね?」
「んーと、どれくらいでいくらになるの?」
「まあ、こんな感じかな。エトンを確認してみて。」
「んー?うわ…びっしり…。」
「よく読んで!違約金で儲ける気だよ!」
「だからそんなことしないって…。」
「大丈夫そうだよ!魔法に対していくら発生する、って感じのことしか書いてない!」
「それならよさそう…。」
「ボクの言うこと信じてよ…。」
「だってまだあなた不思議なことばっかりなんだもん。」
「そこは否定できないね。」
「じゃあ詳しく話してくれる?」
「それもできないかな。」
「なんでよ!」
「というか何を話したら…?って感じなんだよね。」
「そう言われてみると…なんだろう…あ…あなたはなんで人の形なの?」
「生まれつき?」
「えっと…じゃあ…どうして魔法が使えるの?」
「生まれつき?」
「じゃあじゃあ…えぇっと…ううん…。」
「ほらね、結局はボクにも初めからあった、としか言いようがないんだよ。他の精霊よりチカラが強いだけ。別に邪な目的なんてないしかといって特別成すべき使命があるなんてのもわからないよ。」
「そっか…。ごめんね。アミィもわかんないのに辛く当たられたら嫌だったよね…。」
「ううん、わかってくれたらいいのさ!」
「それで!ぼくは魔法を使えるの?」
「うん、もう使えるよ。ただ、二ーディの決済ももう発生するから使いすぎないでね。」
「それは…モカからもお願いするよ。」
「わかった…!任せてよモカ!今度はぼくが護る番だ!」
「頼もしい~!今度の戦いが楽しみだね!」
「ねっ!」
「じゃあそろそろ…出かけよ?」
「あ…はい。」
「なんかテンション低くない?」
「ううん!そんなことないない!」
「しゅっぱーつ!」
 私たちは映画館へ向かった。

「よし、第4劇場だって。」
「はーい。」
「あ、食べ物や飲み物は買ってく?」
「モカねぇ…キャラメルポップコーンとチョコレートドリンク!」
「甘々ね…喉乾かない?」
「チョコレートドリンクがあるでしょー?」
「ううん…そうね。」
「うん!」
「私はシナモンチュロスとメロンソーダの王道コンビでいくわ。」
「わー!チュロスちょっと分けてー?」
「……いいわよ。」
「やったー!」
「ねぇモカ…さっきからリリィに迷惑かけすぎじゃない?」
「え?そうなの?リリィねぇね?」
「…そんなこと…。」
「正直に言っていいんだよ?モカはちゃんと言ってあげなきゃなんだから。」
「マシュゥ~変なこと言わないのー!」
「いてて…だってぇ…リリィだって困るよねぇ?」
「いいの!モカちゃんはね、私の妹なのよ?わがまま言って丁度いいくらいじゃない!」
「リリィねぇね~!」
「さ、行きましょ!」
「うんっ!」

 映画は青春の学園生活編から部内恋愛へと発展していく濃厚な"百合"モノだった…。
「あの…っ!先輩…あたし…っ!」
 クライマックスが近づきつつある中で、唐突にモカちゃんが私の手を握ってきた!
 強く早いその鼓動を押し付けるかのように私の手をぎゅっと握っている。
 私はモカちゃんの方を見るのは恥ずかしかったからスクリーンを注視していた。でもやっぱりモカちゃんはその手を離さない。
「私たち、あの時から両想いだったのね。」
 そう言いながらスクリーンの中のヒロインたちが唇を重ねる。それを見るのもなんだか恥ずかしかったから、私はすっと目を逸らした。
 その目線の先には、モカちゃんの目があった。どこか潤んだような瞳がスクリーンの光に反射してキラキラと光って見える。ずっと私の方を見ていたのかな?
「あ…。」
 つい声が出てしまう。
 モカちゃんは私がようやく自分の方を見たことが嬉しかったのか、表情が柔らかに揺らいだ。
 私は恥ずかしくなってまた視線を逸らした。
 モカちゃんはまた私の手をぎゅっと握ってきたけど、もうモカちゃんを見ることが出来なかった。
 スクリーンの暗転と共に目を閉じて、寝たフリをする事にした。
「ちゅっ!」
「…っ!」
 するとモカちゃんは私の頬にキスしてきた。
 なに考えてんのっ!?
 平静を装って知らんぷりしていたけど、多分私のドキドキは、その手を伝って全部バレてたんだと思う。

 そして、映画は終わった。
「はぁ~!面白かったね!」
「…うん。」
「ん?どうしたの?」
「いや!なんでもない!」
「ふふっ!へんなの!」
 モカちゃんは何もなかったかのようだ。
「付き合わせちゃってごめんね。でもすごく楽しかった!また一緒におでかけしてくれる?」
「もちろん!」
「よかった!じゃあ明日からもまた頑張ろうね!」
「ね!」
 映画館で寝ることは出来なかったけど、なんだかすごく癒された気がした。

「うぅ…でももう眠い…。」
 部屋についてすぐに私は眠気に襲われてしまった。
「お風呂入ってから寝ようね。」
「んー…先に入っていいよ。」
「リリィねぇね寝ちゃいそうだから先入ろ?」
「ん~…。」
「……じゃあ、一緒に入ろ?」
「えっ……うん…。」
 モカちゃんと一緒にお風呂に入った。
「…布団、いこっか。」
「…うん。」
 私は眠い身体をモカちゃんに支えてもらいながらベッドに向かった。
「よいしょ…。ありがとモカちゃん…もう限界…おやすみ…。」
「ん…私ももう眠いなぁ…あ、もう動けない。ここで寝ちゃいそう。」
「え?ちょ…。」
 モカちゃんは私のベッドに倒れ込んできた。
「モカちゃんのベッドはすぐ隣でしょ~?」
「だめ…?」
「…いいよ。」
「やったっ!」
 途端にベッドが狭く感じる。暖かくて、心地よい狭さだ。
「大丈夫?狭くない?」
「ん…なんか、安心する圧迫感…って感じかも。」
「あはは。私もそう思った。」
「ね…リリィねぇね…もうちょっと圧迫しても…いい?」
「……うん。」
 モカちゃんは私の身体に両腕を回して脚を絡めた。
「なんだか私抱き枕みたい。」
「今日はモカのものね。」
「ふふっ。」
 吐息のかかる距離で話していると、なんだか顔が熱くなってくる。それを悟られないようになるべくそっぽを向きたかった。
「だめ。もっとモカを見て…?」
 モカちゃんが首の後ろに両腕を回してくる。
 おでこがくっつきそうな程迫った距離に、鼓動も吐息も抑えることはできない。
「ちょ…ちょっと…。」
「リリィ…ねぇね…っ!」
 まずい…!さっきの映画と同じことが起ころうとしている…!そしてそれに流されてしまいそうな私もいる…!
「ま…待って…!」
「待たない…っ!」
 私に跨ったモカちゃんに両手を握られて脚も抑えられてしまった…。
「あ…モカちゃん…?どうするつもり…?」
「……。」
 モカちゃんは黙ったまま私の首筋にキスした。
「あっ!?ちょっ…と…!」
「ふっ……ふぅ…。」
「モカ…ちゃ…。」
「……いい?」
「あ……え…なにが…?」
「…言わせるの?」
「う……いやでも…。」
「黙って。」
 モカちゃんはそっと私の唇を塞いだ。
「ん…っ…。」
 一瞬のようでもあって、永遠のようでもあった。
「……はぁ…っ。しちゃったね…。」
 モカちゃんは頬を紅潮させたまま私を見つめる。
「私…はじめてだった…。」
「モカもだよ。えへ…。」
 まさか自分よりも歳下の子にリードされるなんて思いもしなかった…。しかもはじめての相手が天使だなんて…。
「なんか…改めて考えると…恥ずかしくなってきた…。」
「じゃあそんなの全部なくしちゃおうよ。」
「えっ…ちょっ…ちょっと…!」
 モカちゃんはまた私の唇を何度かついばむように吸いつく。絡み合う唾液と舌がやがて思考までも溶かしていく…。
「は…はじめてって…言ったよね…?」
「わかんない…わかんないのに…止まんないの…っ!」
 モカちゃんはその先を知らない。だから、どうしても貪欲になってしまっていた。
「ね…もっときもちいいこと…知りたい?」
「えっ…?」
 あんなに眠かったはずの私は、気がつけばもう戻れない朝を迎えていた…。
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