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守ってくれる人

真夜中光る

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 より一層の気合いを込めて訓練をする日々が続いた。自分にも自信がつき、戦えるくらいの戦力はついたと思う。そして、ついにその日は来た。
「第3天使アカデミー周辺に複数の敵対反応を確認!魔法生物が迫っています!生徒のみなさんは至急迎撃の準備に入りこれを撃退、撃破してください!」
「あっ!アナウンスだ!」
 それは深夜の2時のことだった。けたたましいサイレンの音とアナウンスの音をきいて眠っていられるわけがない。
「むにゃ…すぅ…」
「モカちゃぁあん!」
「ふえっ!なになに!うわっ!うるさ!…もしかして!敵襲!?」
「気づくのが遅すぎる!準備していかなきゃ!」
「そうだね!しっかり倒して二度寝しよ!」
「よーし!気合い入れる!」
 頬を叩いて眠気を飛ばしつつ自身に活を入れた。

 間もなくエデンズカフェが集まった。
「おう!おはよう!よく寝れた?」
「最悪の目覚めだよ…。だってまだ2時だよ?」
「真っ暗だね…深夜の学校ってちょっとブキミ…」
「学校にまつわる怖い話って多いよね」
「や…やめてよ…」
「例えばほら、廊下を青白い光が横切るとか…」
 クローバーがふざけてそんなことを言っていると、校舎のガラス窓に謎の発光体が見えた。
「あっ…!」
「ん?どしたのリリィ?もしかして~リリィも怖い話は苦手な感じ~?」
「いや、違くて!」
「ん~?」
 クローバーが振り返って校舎を見た。
「いやぁぁあぁ!お化けだぁぁあ!」
 その叫び声を上げたのは他でもないクローバー自身だった。
「あんたが1番怖がりなのみんな知ってるんだからね…」
「今回の襲撃はお化けじゃないよ!」
「ふぇ?じゃあ…あれは今回の襲撃とは関係ない…本物のお化けってこと…?」
「いやぁぁぁあ!」
「いや違くて!!あの光はお化けの光じゃないってこと!」
「え~?じゃあ今回の敵は校舎内にいるの?」
「そうだよ!早く行かなきゃ!」
 私たちは急いで校舎内に向かった。

「うわ、何これ!」
 スパーダが驚いた声をあげた。
「えっ…きのこ?」
「なんで光ってるの!?」
「光るだけならまだいいけど…あそこ!」
 私が示した先できのこが蠢いていた。
「えっ!動いてる!」
「油断するな。あれから敵意を感じる」
「なんかちょっと…キレイです…」
 ハートがふらふらときのこに近づいていく。
「ちょっとハート!なにやってんの!」
「まずい!ハートが魅了されちゃう!」
「魅了だと!?ヒーラーのハートがやられるのはまずい…リリィ!どうすればいい?」
「こいつらはマイコタン!きのこがたくさんあるけど本体は動くやつ!隙を見つけると姿を現して攻撃してくるよ!」
「助かる!じゃあ隙を見せなきゃいいんだな?」
「それもそうだけど…ハートみたいになっちゃうとまずい。可能な限り光を見続けてはだめ!特に光がピンク色に見え始めたら危ないよ!」
「わかった!」
「すごいリリィねぇね!」
「知ってること言っただけだよ!」
「いやでも実際助かる。お前が知っている未来の情報がある限りはかなり有利だな」
「それが尽きる前に強くなってみせるよ!」
「おいおい、そうこう言ってるうちにハートがマイコタンに近づいてくぞ!」
「あ、まずい!止めなきゃ!」
「私に任せて!」
 クローバーがすごい速さでハートの前に出た。
「ハート!こっちみて!止まって!」
「キレイな…光ですぅ…」
「うそ!きこえてないの?」
「押してでも止めるんだ!」
「もうやってる…でも止まんない!」
 クローバーは足を踏ん張らせながらハートを押しているがそれでもハートは止まらない。
「えへへ…くすぐったいですぅ…」
「感覚はあるっぽいね…」
「仕方ない!本体を叩くぞ!」
 ダイヤが杖をマイコタンに向ける。
「グリンデ!」
 床から植物が生えてマイコタンを突き破った!
「やったか…!?」
 が、すぐにその植物から光るきのこが生え始めた。
「相性が悪い!どうやら菌類に植物をぶつけても効果は今ひとつのようだぞ…」
「ほんとだったら私の火の矢がいいんだろうけど…」
 私はちらりと校舎をみる。
「そうか…この校舎は木造…。火をつけたら私たちまで丸焼きだ…」
「おまけにきのこが繁殖しやすい。…厄介ね」
「でもでもっ!リリィねぇねならなんとかできるよね!」
「う…ん…」
「ちょっと…プレッシャーかけてどうすんのよ…」
「いや!できる!」
 私は弩のシリンダーに魔力をこめた。
「ちょっと!火をつけたら校舎が!」
「おりゃあっ!」
 私は矢を放った。
 ドスっ!
「効いて…!」
「何も起こらないよ…?」
「まずい!ハートがもうマイコタンに触れてしまう!」
「触れるとどうなる?」
「……どうなる?」
「菌糸を植え付けられちゃう!」
「大変じゃないか!」
「ちょっとみんな!もう押さえられないよ~!」
 ハートがマイコタンに触れる最後の一歩を踏み出した。
「……あれ?私…なんでこんなところにいるんでしょう?」
 だが、触れる直前にハートは歩みを止めぼんやりとした顔で呟いた。
「わっ!急に抵抗がなくなった!」
「えっ?きゃあ!」
「うわ~!」
クローバーがハートともつれあって倒れた。
「いてて…あっ!ハート!正気にもどった?」
「何を言ってるんです?」
「あんた今まであのきのこにずっと夢中だったんだからね!」
「えぇえ!?」
「とりあえずハート!こっちに戻って!」
「はいぃ!」
 どうやら全く記憶の無い様子のハートが慌てながら戻ってきた。
「しかしどうやったんだ?」
「矢に氷の魔力を付与したの!内側から凍らせたから時間かかっちゃったけど…」
「氷か!ならば校舎にも被害はないな」
「んでもさぁ…こんだけきのこまみれにされちゃったら校舎もうやばいんじゃないの?」
「う…それは確かに…」
「校舎内に発生されるとほんと困るね…」
「みんな油断しちゃだめだよ!まだ一体倒しただけなんだから!」
 もう既にやる気を失いつつあるみんなを一喝する。
「これで終わりじゃないの?」
「隠れて襲う機会をうかがってるはず!」
「背中を合わせろ!背後に隙を作るな!」
 ダイヤの指示でみんなで円のように背中を合わせあった。
「状況は?」
「周囲にはいないみたい」
「なんかいいね、この構え。名前つけてよ」
「アラウンド・ザ・コーヒーカップと名付けた!」
 スパーダが叫ぶ。
「エデンズカフェっぽいね!」
「いや長いだろ…」
 構えの提案者であるダイヤがあからさまに呆れてみせる。
「アラウンドだけ残ってればいいね」
「呼ぶ時はそれでもいいよ。正式名称は譲らない」
 スパーダはこんな時にガンコを発動させてしまった。
「はいはい」
「よし、じゃあとりあえず陣形をといて進もう!」
 私たちは警戒しながら校舎を進んだ。

「あ、おつかれ」
「あ…こんばんは」
 校舎内で他の生徒とすれ違った。
「どう?そっちは?」
「なんなのあのきのこは?」
「戦った?」
「戦う?だってきのこだよ?」
「あれ、この子たちはマイコタンに襲われなかったのかな?」
「マイコタン?」
「あのきのこのこと」
「へぇ。あ、そうだ!あっちにみんなで集まってるの!固まって戦った方がいいでしょ?」
「あ、そうなんだ。行こうか?」
「ね、ね!いこ!」
 その子は踵を返し私たちを導くように来た道を戻ろうとした。
「……待ちなよ」
「どしたのリリィ?」
「残念だけど…この子はもうやられてる」
「は?何言ってるの?」
「マイコタンは菌糸を植え付けた人間を操るの」
「えっ!」
「でもなんでわかるの?」
「菌糸は身体の中に張り巡らされていて普通見えないんだけど、粘膜部分からは少しみえてしまうの。この子の目…少しだけ光ってるの」
 それを聞いたクローバーが既に歩き始めている生徒に駆け寄りその顔を覗き込む。
「うわ!ほんとだ!まわりのきのこの光で気づかなかった!」
「ちょ、ちょちょっとみ、みみみんななななにを言っているの、ののののの」
 彼女はぐりんと首を動かしクローバーの顔の方を向く。顔は向いているがその視線は虚ろで呂律の回らなくなった口でかたかたと歯を鳴らしている。
「あ!へんになった!」
「みんな離れて!擬態がバレたマイコタンは周囲に菌糸を飛ばし始めるよ!」
「待ってマイコタンさっきから可愛い名前の割にえげつなさすぎない!?」
「正直かなり手に余るな…」
「無茶はしない方がいいかも…菌糸に犯されたらまず助からない…。神経を菌糸にされちゃうから…」
「こわっ!ちょっとほんとにこいつお化けよりホラーなんだけど!」
「じゃあハートもあーなるところだったってこと…?」
「そんなおそろしいことになってたのにきづいてなかったなんて…怖すぎます…」
「おい、あーなったらもう助からないのか?」
「本体を倒すかもしくは…奇跡の力を持つヒーラーならとってくれるんだけど…」
「ごめんなさい…私はまだ毒すらとれないので…」
「いや仕方ないよ。なかなかいないでしょあんなのをなおせるのは…」
「この子はじゃあどうする?」
「リタイアってことで拘束しておきましょう」
「なななにするるの?」
「お願い、じっとしててね」
 ダイヤに植物のツルを出してもらってそれでその子を縛った。
「………」
 ほとんど抵抗もなく縛られた少女は、時折ピクリと動くものの口からは唾液を垂れ流しそれ以上喋ることもなかった。
「うわ、この子ほとんど力入ってなかった…」
「とりあえずここに置いておこう。これ以上の危険はないはず…」
「どうする?討伐、続ける?」
「うーん…確かに怖いからやだけど…繁殖を許したらこの学校がマイコタンの巣窟になっちゃう。やるしかないよ」
「わ…私たちがやらなくても…」
「甘いことを言うな!それをみなが言えば戦うものはいなくなる!」
「はいぃ!」
「頑張ろうよクローバー。リリィねぇねがいればきっと大丈夫だよ」
「う…うん…」
「よし!では進むぞ!」
 光るきのこが徐々に増えていく廊下を進んでいった。

「む…待て」
 先頭を行くダイヤが手でみんなを制した。
「あれを見ろ」
 廊下の曲がり角を覗き込むと、強い光を放つ教室があった。
「あ、あれ…外から見えてた光かも」
「そうか。ではあそこが巣窟の可能性が高いんじゃないか」
「さっきの子に案内してもらった方が良かったんじゃない?」 
「バカを言うな。そんなことをすれば移動中に菌糸を植え付けられて着く頃にはすっかり木偶人形だ」
「ひえぇ…危なかった…」
「しかしどうする…?この光だ。相当な規模だろう。一体であれほど苦戦したものだから…」
「妙案があります!」
「おぉっ!なんだハート?」
「どうやらマイコタンは教室の四隅に集中して群生しているようなので、教室の中央でアラウンドを組むんです。私が魔法で幻惑を防ぐので四隅にいるマイコタンをそれぞれ倒していけば成功するはずです!」
「…だめだ、危険すぎる。敵のど真ん中に突っ込んでいくということだぞ…?」
「いえ!これをやるしかないんです!」
「ハートはこう言い出したら止まらないよ」
「だよなぁ…仕方ない。やるか」
「フォーメーションCだね!」
「知るか」
 ハートの指示通りにみんなは動き出した。

「いくぞ!」
 スパーダがかけ声を上げ教室の扉を開く。
「うわっ…でっか…」
 教室内には大小様々な光るきのこがあった。中には教室の高さに収まりきらずに曲がっているような巨大なものまでもある。
「スパーダ!光を見続けてはだめ!」
「おっと、そうだな」
「よし、スパーダに続け!」
 私たちはなるべく目を伏せながら教室の中央まで入った。
「フェアリーステージ!」
 ハートが声を上げると桃色のオーラが辺りに広がる。
「アラウンド!」
 ダイヤの一声でみんなが隊列を組む。
「フェアリーステージがある限りはあの光は効果を削がれるはず!」
「よし、攻撃だ!」
「近づきすぎるな!リーチの短いクローバーは特にな!」
「わかった!」
 教室の四隅に集中したマイコタンたちのもとにそれぞれが行き攻撃していく。
「おい…なんか増えてないか?」
「確かに…みんな!一旦隊列に戻れ!」
 離散していたメンバーが再びアラウンドの隊列になる。
「あっ!地面から生えてる…!」
 どうやら減らしたと思っていたマイコタンは壁を侵食して教室内で更に繁殖しているようだ。
「埒が明かないな…」
「というか逆にピンチかも…」
「何っ!?」
「なんであいつらが復活するか…わかる?」
「それは…胞子だからか?」
「そう…つまり、あの胞子がそこら中に舞ってるんだよね」
「はっ!」
 気づいた時には少し遅かったようだ。
「ねぇダイヤ!身体が…動かなくなってきたよぉ!」
「クローバー!耐えろ!」
「いやっ!身体が…!勝手に……!」
「待てっ!」
「あ…あぁあ…ああぁああっ!」
「クローバーッ!」
 クローバーは身体を侵食され始めマイコタンの群生する教室の隅に歩いていってしまった。
「まずい!クローバーがやられる!」
「助けて!助けてぇ!」
「仕方ない…!えいっ!」
 私は火属性の魔力を込めてクローバーの前方のマイコタンに矢を放った。
「あっ!よかった…身体が動く!」
「でも校舎が!」
「デグリンデ!」
 ダイヤが杖を掲げると燃える床から大きな植物が出てきた。
「消えろ…っ!」
 植物がその大きな葉で炎を包み込んだ。見事に火は消えたようだ。
「すごい!これならあと3方のマイコタンも!」
「いやだめだ!これはもう使えない!」
「じゃあ…どうしよう!」
「時間があまりない!胞子にやられる前に何とかしないと!」
「そうだ!モカちゃん!合わせられる?」
「えっ、えっ?どうすれば?」
「そのスプーンで私の出した火をマイコタンごと包み込める?」
「きのこの蒸し焼き!おしゃれな倒し方だね!」
「まぁそんな感じ!いくよっ!」
 私は再び火の矢を放った。
 一角のマイコタンを巻き込み教室が燃えた。
「今だよ!」
「はいっ!」
 それをモカちゃんがスプーンハンマーの窪みの方で包み込む。辺りに芳ばしい香りが広がった。
「これ…食べられるかなぁ?」
「……やめた方がいいよ」
「あっ!スプーンで密封したから火も消えたね!」
「よし、あと2組!」
「さっきはよくもやってくれたね~!今度は私の番だよ!」
 体勢を立て直したクローバーが怒りを露にする。
「クローバー、策はあるのか?」
「バーニアの…出力を上げるッ!」
 クローバーは翼を広げた。
「エンジェルミキサーッ!」
 クローバーは魔力をバーニアのように噴出し、広げた翼を駆使して急旋回しながら何度も斬りつけた!
「バラバラになっちゃえぇえっ!」
 一角のマイコタンは細切れになって光を失った。
 「でたっ!エンジェルミキサー!間近でみるとすごい迫力だね!」
「室内で使うやつがあるか…。教室がキズだらけだぞ…」
「悔しかったんだも~ん!」
「じゃあ残りは…!
 私たちは教室の一角ににじり寄った。
 残ったマイコタンが飛び上がるように身体を震わせてみせた。
「もしかして私たちを恐れてる?」
「もう勝ち目はないと悟ったんだろう」
 マイコタンはぶるぶると震え出した。
「……なんか、かわいそうになってきた」
「やられかけてたくせに何を言うか」
「うーん、でも確かに…戦う意思がないのならとどめを刺すのは…」
「おい!隙を見せたら襲いかかって来るようなやつだぞ!これも演技に決まっている!」
「どうする?リリィ」
「確かに相手に戦う意思がないのならやめておきたいところだけど…戦う意思が、ないのなら…ね」
「じゃあやめるってことか?」
「いや、マイコタンをみて」
「え?……うわっ!なんだこれ!」
 一角にいたマイコタンたちは一体の光る人型の姿になっていた。
「おいおい…人の形…だぜ?」
「これがマイコタンの真の姿…」
「……ア…アァ…」
「喋った!?」
「ミン…ナ…ヤラ…レ…タ…」
 マイコタンはその場で座り込むと顔を手で覆い隠すような仕草をして震えていた。
「この子…泣いてるの…?」
「……逆を想像してみろ。私たち6人のうち1人だけが生き残って、更に全員を殺した敵たちに囲まれているんだぞ…」
「……どうすんだよ…そんなやつ…私、やれねぇぞ…」
「酷なようだが…復讐されても困る。ここで息の根を止める…」
「ダイヤ…」
 苦い顔をしたダイヤがマイコタンににじり寄る。
「ユル…シ…テ…。コロサ…ナイ…デ…」
「ほらみろ!死にたくないんだよ!」
「ではッ!!お前は責任を取れるのだな!スパーダ!」
 振り返らずにダイヤが叫ぶ。
「それは…」
「私だって…なぁ…引導を渡すことに躊躇がないわけないだろ…」
 表情は見えないが、それを察するには十分な声色だった。
「ごめんダイヤ…」
「いや…いいんだ。さぁ、幕を引こう」
「イヤ…イヤァ…」
「ちょ~~っと待ったァ!」
 ダイヤが杖を振りかざした時、唐突に大きな声が響いた。
「誰だッ!」
「本当に?本当にやっちゃうの?」
 その声を上げたのはいつの間にか顕現していたアミィだった。
「アミィ!どうしてここに?」
「お前が召喚したのか?」
「いや…何もしてない」
「出しゃばりなやつめ…それでなんだ?」
「この子にはもう戦う意思はないみたいだよ?」
「それはわかっている…。だが、復讐されるおそれがある。仲間を殺されては私も黙ってはいられない」
「その気がなくて、ただ家族の許に帰りたかっただけならどう?」
「…それもそうだろうが…しかし…」
「ボクはね、そういう子には命を落として欲しくないんだ」
「綺麗事を言うな。ではこいつが復讐しないと言いきれるのか?」
「絶対に大丈夫な方法があるよ」
「何?」
「この子の記憶を消して強制送還しちゃえばいいんだよ。そうしたらキミたちのことも仲間が死んだこともわからない」
「それは……ありだな…」
「ほら、解決法、もう見つかったじゃん?」
「しかしそれをできる者がいなかったんだ。致し方ない…」
「アミィちゃんをなめてもらったら困るよ!ボクにかかれば大抵の事はなんとかなる!」
「じゃああんた戦いなさいよ…」
「ぐぅ…すぅ…」
「露骨に寝たフリをするな!」
「とまぁ…そんな感じでどうかな?マイコタンちゃん?」
「カエ…レルノ…?」
「もっちろん!あ、そうだ。向こうで怒られないようにこれもあげちゃうね」
 アミィは懐から淡く光る石を取り出した。
「なにそれ?」
「この子たちのお望みのものさ!この国はそれが豊潤だから魔法生物が攻めてくるってワケ。…でも本当はお互いに譲り合って暮らせたらいいと思うんだけどね…」
「ワタシ…キオク…ケサナイデ…」
「な、なんだ急に!」
「コノカンジョウ…ウレシイ…ワスレタクナイ…イツカ…オレイ…シタイ」
「本当か?」
「この子の言葉に嘘はないよ!ボクには嘘をついていればわかるからね!保証するよ!」
「それじゃあ…まぁ…いいか」
「よかったねマイコタン!」
「アリ…ガトウ…」
「それじゃあまた会おうね!ばいばい!」
 マイコタンにアミィが手をかざすとマイコタンは光に包まれて消えていった。
「転移魔法をいとも容易く…ほんとにこいつは何者なんだ…」
「アミィちゃんで~す!」
 アミィは場違いなほど明るいポーズをする。
「はぁ…まぁいいか」
「生徒各員に通達します。ただ今最後の魔法生物の反応の消失を確認。警戒態勢を解き任務を終了とします。お疲れ様でした」
 校内に状況終了のアナウンスが鳴り響いた。
「よし…終わったか」
「私たちが倒したのが最後だったみたいね」
「というか今回の功績ほぼ私たちじゃない?」
「いや、教室以外にも発生してたと思うから驕るのは良くないな」
「かたいなぁダイヤは!」
「まぁまぁ、みんながんばったし、良かったってことで!」
「確かに報酬は期待しても良さそうだが…」
「新作いっぱい買っちゃうぞ~!」
「おい、もう帰って寝るぞ。明日も早いんだから」
「はぁ…こんな日くらい明日は休みにしてくれればいいのに…」
「常に戦いは近くにあるのだと心得よ」
「もう!ほんとかったい!」
「お前がやわらかすぎるんじゃないか?」
「むき~!」
「落ち着きなって…さっきまでやられそうになって叫んでた子とは思えないよ」
「そ…それは言わないでよぉ…」
「でもみんな無事でよかったです!あ…さっきの生徒さんは…」
「きっと保護されてるよ。でもしばらくは菌糸の入り込んでいた神経がまともに動かせないだろうね…」
「本当に危ないところだったんですね…」
「ま、なんだ。みんな無事だった!それが今回のご褒美だろ」
「スパーダにしては珍しく良いこと言うじゃん」
「ははっ。珍しくは余計だな!」
「…ありがとね。リリィ。あんたが火をつけてくれなかったら私…」
「それを言ったら火を消してもらったし…」
「なんやかんやでみんな助け合って勝った!私たち、良いチームだな!」
「ですね!」
「じゃあ今度こそ帰ろっか」
「うん!」
 私たちは疲れた身体を引きずりながらうっすらと明るくなりつつある空の下を歩いていった。
 …もう朝じゃん……。
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