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卒業式
伝えなきゃいけないこと
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退場後教室に集められた生徒たちは皆、鼻を赤く染めてはいるがしんみりしたムードもなくわいわいとアルバムに寄せ書きをし合ったり卒業証書入れを鳴らしたりして遊んでいる。
もちろん私も別れを惜しみながら親しかった友人たちとの交流に勤しんでいた。
「また連絡してね。大学入ったら遊ぼうね」
「うん。絶対ね」
そしてまた別の子とも同じように約束してまわる。連絡先も知ってるしみんなそんなに遠くに行くわけでもないからきっとまた会える。……あいつ以外は。
「……真人」
意を決して私は真人の許へ行く。
案の定男女問わず友人に囲まれていたからひとりになる瞬間を狙うのは大変だった。
「恵美…か」
一瞬沈黙が訪れる。アルバムを抱きしめる両手に力を込めて話を切り出す。
「……どのくらいあっちにいるの?」
「……もうずっと。多分、帰ってこない」
「他のみんなには言ったの?」
「言ってない。しばらくすれば忙しくなって俺のことなんて忘れるだろうから」
「忘れないよ」
「いや、忘れるよ。同じ職場とか大学とかで一緒じゃなきゃさ」
「忘れないよっ!」
私の叫び声は教室を埋め尽くす賑やかな音に吸い込まれていく。しかし目の前でそれを受けた真人にはしっかり伝わったに違いない。
「……恵美。俺さ、嬉しかったんだ。毎日お前と一緒に話したり帰ったりできて。でもそんな毎日があるのって、やっぱ今だけなんだよ。みんなそれぞれ大人になる。そしたらいつの間にかすれ違う。数年くらいは会って遊んだりするかもしれないけどさ、結局みんながみんな繋がってるわけにいかないんだ。最後はひとりふたりの一番気の合うやつとの付き合いになる。心当たり、あるだろ?」
……恵子のことだ。
「そんなの…わかんないじゃん。特に真人は友達も多いし……」
「だからだよ。俺のことをまともに理解しているやつなんていなかった。あの人数で一緒に行動したところで結局は全員が全員のことを理解できるわけない。だから、俺は欠けたっていいんだよ」
「でも…」
「それとも俺のことそんなに気にしてるヤツが…いるっていうのかなぁ?」
そう言って真人はいじわるな顔で私にはにかむ。
……つい、また反抗しそうになった。
そうしたらまたこいつは、悲しそうな顔で笑うんだろうな。
「……いるよっ!」
「え…」
「私はっ!真人がいなくなるのなんてやだっ!」
「恵美……」
多分真人も私がいつも通り頬を膨らませるとでも思ったのだろう。動揺した顔を見せている。
実際私も、自分から溢れ出す言葉を止められずにいた。
「離れたっていいじゃん!会えなくったっていいじゃん!でも私は、忘れたくない!私のことも忘れて欲しくない!だって私は……」
抑えきれないほど昂った感情が、ついに私にその言葉を言わせた。
「真人のことが、好きだからっ!」
拳と瞼にぎゅっと力を入れたまま動けなくなった。
真人はどんな顔してるんだろう。気になるけど、目を開けられない。身体が震えて心臓が破裂しそうなくらい脈打っている。
「ふ……うぅ……っ」
永遠に感じられるほどの沈黙の10秒。どうして何も聞こえてこないの?
もしダメでも笑い飛ばして欲しかった。せめてバカにして欲しかった。
そっか、私、振られたんだ。
衝動的に言い放ってしまった後悔と、せめて言い切ったという達成感とがせめぎ合う。
ただただ続く沈黙の中で、私は消えてしまいたくなる。
やがて私はその沈黙に耐えきれずに目を開けた。
真っ先に瞳に飛び込んできた真人は、泣いていた。
「え……」
「だからさぁ……」
その顔を隠すように片手で目頭を抑える彼は、少し上擦った声を上げる。
「ききたく…なかったんだって……」
「な…なんでっ!私は……私は本当に……」
情緒の揺らいでいた私も、もう涙を抑えることはできなかった。
「嫌なら嫌ってはっきり言ってよ…!そうすれば私だって諦めがつくのに……」
「嫌なわけないだろ!俺だってお前のことが好きなんだから!」
私の喚きに対して真人が返した言葉には、はっきりとその答えが含まれていた。
「いっそ何も無く終われば、辛くなんてなかった」
「それは違うよっ!」
真人の弱音をかき消すように私は叫ぶ。
「何も無かったら、その気持ちは全部嘘になるの?」
「それは……」
「私だってそう思ってた。でも、恵子に言われたんだ。……想いさえ繋がっていれば、忘れられないんだって。本当に、本当にもう永遠に会えないの?そうじゃないと思うんだ。落ち着けば絶対会いに行けるし私だってそっちで何か出来ることを探せるかもしれない。……最初っから諦めてたら、ダメなんだよ」
思い切って全部を伝えた。恵子の受け売りだけど、恵子からもらった全部なんだ。
「……確かに」
真人の顔がぱっと明るくなる。
「確かにそうだ!……俺、俺もう会えなくなるってことしか考えてなくて……それで……!」
「そうだよ!絶対なんてことないんだから!」
「うん!遠くにいたって、真人は真人なんだから!」
そう言って感極まって3人で抱き合った。
「……ん?」
「あぁ~良かったぁ!ちゃんと伝えられたんだねぇ~!」
いつの間にか1人増えている!
「ちょ!ちょっと恵子!?いつからそこに!?」
「あんたの動向をあたしが見逃すはずないでしょ? でもほんと良かった。ね、真人?」
真人も顔を赤くしているが、嬉しそうだ。
「恵子、お前だったのか。恵美を励ましていたのは」
「あたしは背中を押しただけよ? 恵美が想いを伝えられたからこそじゃない」
そう言って笑う。
実際この子には感謝してもしきれないくらいに励ましてもらった。
「……ありがとう。恵子」
「あたしも嬉しいんだって。親友たちがこうして結ばれるんだからさ」
鼻をすすりながら恵子は微笑んだ。
「ほら、恵美。真人」
そう言って私たちの手を繋がせる。
「なっ、なに?」
恵子は指で枠を作って私たちを見据える。
「ん、ベストアベック!」
「……ありがと」
今度こそ、それは冗談じゃなくなった。
もちろん私も別れを惜しみながら親しかった友人たちとの交流に勤しんでいた。
「また連絡してね。大学入ったら遊ぼうね」
「うん。絶対ね」
そしてまた別の子とも同じように約束してまわる。連絡先も知ってるしみんなそんなに遠くに行くわけでもないからきっとまた会える。……あいつ以外は。
「……真人」
意を決して私は真人の許へ行く。
案の定男女問わず友人に囲まれていたからひとりになる瞬間を狙うのは大変だった。
「恵美…か」
一瞬沈黙が訪れる。アルバムを抱きしめる両手に力を込めて話を切り出す。
「……どのくらいあっちにいるの?」
「……もうずっと。多分、帰ってこない」
「他のみんなには言ったの?」
「言ってない。しばらくすれば忙しくなって俺のことなんて忘れるだろうから」
「忘れないよ」
「いや、忘れるよ。同じ職場とか大学とかで一緒じゃなきゃさ」
「忘れないよっ!」
私の叫び声は教室を埋め尽くす賑やかな音に吸い込まれていく。しかし目の前でそれを受けた真人にはしっかり伝わったに違いない。
「……恵美。俺さ、嬉しかったんだ。毎日お前と一緒に話したり帰ったりできて。でもそんな毎日があるのって、やっぱ今だけなんだよ。みんなそれぞれ大人になる。そしたらいつの間にかすれ違う。数年くらいは会って遊んだりするかもしれないけどさ、結局みんながみんな繋がってるわけにいかないんだ。最後はひとりふたりの一番気の合うやつとの付き合いになる。心当たり、あるだろ?」
……恵子のことだ。
「そんなの…わかんないじゃん。特に真人は友達も多いし……」
「だからだよ。俺のことをまともに理解しているやつなんていなかった。あの人数で一緒に行動したところで結局は全員が全員のことを理解できるわけない。だから、俺は欠けたっていいんだよ」
「でも…」
「それとも俺のことそんなに気にしてるヤツが…いるっていうのかなぁ?」
そう言って真人はいじわるな顔で私にはにかむ。
……つい、また反抗しそうになった。
そうしたらまたこいつは、悲しそうな顔で笑うんだろうな。
「……いるよっ!」
「え…」
「私はっ!真人がいなくなるのなんてやだっ!」
「恵美……」
多分真人も私がいつも通り頬を膨らませるとでも思ったのだろう。動揺した顔を見せている。
実際私も、自分から溢れ出す言葉を止められずにいた。
「離れたっていいじゃん!会えなくったっていいじゃん!でも私は、忘れたくない!私のことも忘れて欲しくない!だって私は……」
抑えきれないほど昂った感情が、ついに私にその言葉を言わせた。
「真人のことが、好きだからっ!」
拳と瞼にぎゅっと力を入れたまま動けなくなった。
真人はどんな顔してるんだろう。気になるけど、目を開けられない。身体が震えて心臓が破裂しそうなくらい脈打っている。
「ふ……うぅ……っ」
永遠に感じられるほどの沈黙の10秒。どうして何も聞こえてこないの?
もしダメでも笑い飛ばして欲しかった。せめてバカにして欲しかった。
そっか、私、振られたんだ。
衝動的に言い放ってしまった後悔と、せめて言い切ったという達成感とがせめぎ合う。
ただただ続く沈黙の中で、私は消えてしまいたくなる。
やがて私はその沈黙に耐えきれずに目を開けた。
真っ先に瞳に飛び込んできた真人は、泣いていた。
「え……」
「だからさぁ……」
その顔を隠すように片手で目頭を抑える彼は、少し上擦った声を上げる。
「ききたく…なかったんだって……」
「な…なんでっ!私は……私は本当に……」
情緒の揺らいでいた私も、もう涙を抑えることはできなかった。
「嫌なら嫌ってはっきり言ってよ…!そうすれば私だって諦めがつくのに……」
「嫌なわけないだろ!俺だってお前のことが好きなんだから!」
私の喚きに対して真人が返した言葉には、はっきりとその答えが含まれていた。
「いっそ何も無く終われば、辛くなんてなかった」
「それは違うよっ!」
真人の弱音をかき消すように私は叫ぶ。
「何も無かったら、その気持ちは全部嘘になるの?」
「それは……」
「私だってそう思ってた。でも、恵子に言われたんだ。……想いさえ繋がっていれば、忘れられないんだって。本当に、本当にもう永遠に会えないの?そうじゃないと思うんだ。落ち着けば絶対会いに行けるし私だってそっちで何か出来ることを探せるかもしれない。……最初っから諦めてたら、ダメなんだよ」
思い切って全部を伝えた。恵子の受け売りだけど、恵子からもらった全部なんだ。
「……確かに」
真人の顔がぱっと明るくなる。
「確かにそうだ!……俺、俺もう会えなくなるってことしか考えてなくて……それで……!」
「そうだよ!絶対なんてことないんだから!」
「うん!遠くにいたって、真人は真人なんだから!」
そう言って感極まって3人で抱き合った。
「……ん?」
「あぁ~良かったぁ!ちゃんと伝えられたんだねぇ~!」
いつの間にか1人増えている!
「ちょ!ちょっと恵子!?いつからそこに!?」
「あんたの動向をあたしが見逃すはずないでしょ? でもほんと良かった。ね、真人?」
真人も顔を赤くしているが、嬉しそうだ。
「恵子、お前だったのか。恵美を励ましていたのは」
「あたしは背中を押しただけよ? 恵美が想いを伝えられたからこそじゃない」
そう言って笑う。
実際この子には感謝してもしきれないくらいに励ましてもらった。
「……ありがとう。恵子」
「あたしも嬉しいんだって。親友たちがこうして結ばれるんだからさ」
鼻をすすりながら恵子は微笑んだ。
「ほら、恵美。真人」
そう言って私たちの手を繋がせる。
「なっ、なに?」
恵子は指で枠を作って私たちを見据える。
「ん、ベストアベック!」
「……ありがと」
今度こそ、それは冗談じゃなくなった。
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