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5.奇襲
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久世のことが頭から離れない。
数回会っただけでこんなにも考えてしまうのは、自分でも珍しいことだと思う。
とは言え、思いあたる理由はいくつかある。
彼は日本有数の大学院生なだけあり頭の回転が早く、話が上手い。
話題は初めて耳にするような映画についてばかりで、退屈かもしれないと覚悟をしていたが、彼の話を聞いているうちに少しずつ興味を掻き立てられ、いつの間にか聞き役に徹する意図からではなく素直に耳を傾けてしまっていた。
さらには、こちらのくだらない話を興味津々に聞いてもくれて、場を盛り上げる必要もなく、彼との時間は楽しいばかりだった。
とは言えそれだけなら、他にも同様に感じられる友人は少なくともいるにはいる。
ただ、彼はそれだけではなかった。
あの見惚れるほどの美貌。触れたくなる肌。
伏せていた目が上目にこちらを向いたときの、あの射るような視線。
同性であるはずなのに、異性を相手に抱くような気持ちを高ぶらせ、抱きしめたくてたまらなくなってしまう。
想いを遂げねば渇望したまま落ち着かないというのは確かにある。しかし、普段なら叶わずとも忘れてしまえることだった。
彼が他と違うのは、もしかしたらそれを実行に移したからかもしれず、その真偽を確かめないまま突然去られてしまったせいで、忘れられないのだと思う。
本当にキスをしてしまったのか、もしくはそれ以上のことをしたのか、何度記憶を辿っても思い出せず、落ち着かないのである。
異性なら「またやってしまったか」と言って、忘れてしまえることなのに。
だから、自分でも珍しいことだと思いながらも、彼にメールを送ってみることにした。
大した内容ではない。ただ「楽しかったな、次は別の店でワインの制覇でもしよう」などという軽口である。
しかし、素っ気なくも気のない返事が来ただけで、さらに落ち着かない気持ちにさせられただけだった。
もう一通送ろうか、いや電話をしようか。
自分でも不思議なほど悶々と考え込んでしまう。
そんな日々を数日ほど過ごしたのち、思い悩む性分でもなく耐えられなくなった生田は、いっそのこと会いに行ってやれと思い立つ。
決めたのは金曜の夜。出発したのは土曜日の早朝。
メールをしても10文字にも満たない返事が来るだけなら奇襲をするまでだ。
会ってしまえば鬱積した気持ちも晴れるだろうし、記憶を確かめさえすれば頭から消えてしまうはずだ。
そう考えて新幹線に飛び乗り、9時前に東京駅へ到着してすぐに、その場で久世に電話をかけた。
『……はい』
留守電に切り替わるのではと不安になるほど長いコール音のあと、ようやく彼の声が聞こえてきた。
「あ、透? 今東京についたばかりなんだけど、今日って空いてる?」
しかし無音しか返ってこない。
間違えたのだろうか? スマホの画面を確認するも、表示上に間違いはない。
登録時にミスったのだろうかと考えつつも、念の為受話した相手に確認を取ることにした。
「久世透の番号……ではなかったでしょうか」
聞くと、しばしの間を空けて弱々しい声が返ってきた。
『……俺だ。どうした』
不機嫌ではなさそうだけど、何やら歓迎していない様子である。
「突然ごめん。今日忙しい?」
『なんで東京にいるんだ』
「透と遊ぶためだよ」
再び無言。
「おーい、とおるー、聞こえてる?」
『……ああ』
久世の声は今にも消え入りそうなほど小さい。
「予定ある? 連絡しないまま突然来たのはごめん。でもお返しだよ、先週の」
明るく言うと、スマホの向こうから息をもらす音がした。思わずふっと笑ったという感じの。
『……予定はない。じゃあ、今度は俺が店を選ぶ番だな』
「おお、まじ? よかった。そしたら、どこに行けばいい?」
『今からそっちに行く。丸の内口にロータリーがあるから、そこにいてくれ』
「ありがとう。どれくらいかな?」
『少しかかるな……30分くらいだと思う』
「十分早いよ。了解」
『以前と同じ黒のプレジデントで行く。もしわからなかったら電話してくれ』
一転してキビキビとした調子で言われたあと、通話は切れた。
24分後、丸の内口のロータリーで待っていた生田の目の前にプレジデントが停車した。
ドアウィンドウが下がり、一週間ぶりの彼が顔を覗かせる。
「遅くなった」
「え、早いくらいだよ」
生田は彼の隣に乗り込み、車は発進した。
「何か予定あった?」
今日の久世も身体にピッタリと合った黒のスーツを見事に着こなしている
なんとも惚れ惚れとするが、会いたくてわざわざ来たというのに、妙に気恥ずかしくなってしまって目を合わせられない。
「別に。課題も終わったばかりだし、映画を見るくらいしかやることなんてないから。朝が早すぎて驚いたくらいだ」
嬉しげな声を聞いたことでようやく久世の方へ目を向けてみると、彼は声と同様にこぼれんばかりの笑みを浮かべていた。
本心からっぽい。
しかし、そうだと断じることができないのは、乗った直後から耳につく、途切れても再び鳴り始めるバイブ音のせいだった。
「出れば?」
しかし、久世は視線を前方に逸らしただけで、出るつもりどころか、答える気もなさそうな様子だ。
「ごめん、彼女に謝っておいて。急に来て本当に悪かった」
もしかしたらいきなり来てしまったせいで、約束などない振りをしているのかもしれない。
「彼女なんていない」
久世は答えながらスマホを取り出し、操作をしてから元の場所にしまった。
しかし、すぐにまた振動音が鳴る。
「出なよ」
着信拒否だけで効くなら、これほどしつこく鳴らさないだろう。
呆れを含ませつつ語気を強めると、久世は大きなため息をついて、ポケットに手を突っ込んだ。
そして、ようやく出る気になったのか、スマホを操作したあと耳に当てた。
二人きりの場で片方が通話をしているのというのは、確かに気が引ける行為ではある。
彼が出ようとしなかったのは、場の空気を白けさせないための配慮だろう。
ありがたいことではあるが、約束を反故にさせたのであれば、むしろ邪魔者はこちらなのだから、出てくれたほうが気が楽だ。
久世は「ああ」とか「わるい」などの相槌を打つばかりで、ろくに言葉をかけないため、相手と約束をしていたのかどうかは察することはできない。
当然ながら相手の声も聞こえないため、彼女なのか友人なのか、性別すらもわからない。
「悪かった。……違う、悠輔じゃない。……そう、帰国してるのは知ってる。けど会ってはいない……」
その言葉を最後に通話が切れたらしく、久世はスマホを操作してポケットに戻した。
垂れ込める沈黙。
「えーっと、どこに向かってるんだ?」
わざとらしいかもと案じつつ、素知らぬ調子で問いかけると、赤坂に行きつけの料亭があるからと口重く答えてくれた。
昼食にしては時間がまだ早いがどうするのかとさらに問うと、食事の前に寛げる部屋があるらしく、午前の早い時間から上がれるのだと言う。
「それって、お得意様用の部屋かなんか?」
「いや、わからないが、祖父がよく利用しているから」
「祖父って久世議員? じゃあ絶対そうじゃん! さすが富豪」
「いや、富豪というのはヴィスコンティのような貴族を指す言葉で……」
「なに? 誰?」
「『山猫』とか『ヴェニスに死す』っていう映画の監督で……」
隙あらば映画の話題にすり替える久世の話を聞きながら到着し、コーヒーをお供に再び火の着いた会話を楽しみつつ、昼食を済ませて午後はドライブ、夜はこれまた久世の行きつけだという六本木のバーへと向かった。
会話は途切れることなく盛り上がり、前回会ったときと同様に楽しいばかりで、いつの間にやら生田の抱えていた不安はきれいさっぱり吹き飛んでいた。
「次の店はクラブみたいなところのほうがいいだろうか?」
宴もたけなわ、ではないものの、場を移そうかという話になったとき、それまでのテンションが嘘のようにボソボソとした声で久世が聞いてきた。
「え、なに、クラブ? 透って踊るの?」
そんなふうには見えないが、御曹司ならばダンスを華麗に舞うなりしそうではある。
「いや、女性がいる店のほうだ。その、多少は知っているから……」
久世は生田の表情を伺いつつも目を逸らしたりと挙動不審な様子で言う。
「あぁ、そっちか。僕はどっちでもいいよ。透が行きたいなら付き合うし。あーいうところって、接待とか、飲むだけじゃ持たないような相手を誤魔化すときに行くから、好んではいかないかな。あ、まさかそういう意図じゃ……」
言いながら、彼の本音を口にしてしまったのかと焦る。
「まさか。ただ好みを確認しただけだ。俺もできることなら避けたいところだ」
しかし、彼は顔をほころばせて、そう答えた。
「てか、透といたらモテないし嫌だよ。隣にいると引き立て役にしかならないだろ」
「それは雅紀の方が……」
みるみる久世の顔が赤く染まっていく。
「なに? その反応」
まさかここまでの美貌を持っていて、自覚がないはずはないだろう。
店内の客も彼にちらちらと目を向けているほどなのだから。
考えながら横目で店内を見渡すと、やはり女性客が何人か期待の目を向けている。
彼にだけでなく自分にも向けていたらしく、ふと目が合ってにっこりと微笑まれた。
何度となく向けられたことのある馴染み深い視線。
笑みを返せば、その気がある場合は声をかけてくるだろう。
しかし今は気分ではない。
いつもなら、友人といる場合でも連れ立って店を出ることはあるが、彼とはそんな真似をしたくない。
生田は相手に詫びの意を込めた視線をくれてから、久世のほうへ向き直った。
「泊めた代わりと言ってはなんだけど、今夜は透のところに泊めてもらえる? あ、でも服は買わないよ。あんなの買ってたら破産する」
聞くと、久世は口元に微笑をたたえた。
「もちろんだ。ただ自宅は実家だからホテルへ行こう。ルームサービスで飲み直すこともできる」
「まじで? でも、そんなの悪いよ」
「いや、いいところがあるんだ」
ホテルと言ってもビジネスホテルでは当然ないはずで、おそらく一生立ち入る機会のないレベルだろう。
頼ってばかりで申し訳ないと思いつつ、ちょっと、いやかなり膨らんでしまった期待を胸に、久世とともに店を出た。
数回会っただけでこんなにも考えてしまうのは、自分でも珍しいことだと思う。
とは言え、思いあたる理由はいくつかある。
彼は日本有数の大学院生なだけあり頭の回転が早く、話が上手い。
話題は初めて耳にするような映画についてばかりで、退屈かもしれないと覚悟をしていたが、彼の話を聞いているうちに少しずつ興味を掻き立てられ、いつの間にか聞き役に徹する意図からではなく素直に耳を傾けてしまっていた。
さらには、こちらのくだらない話を興味津々に聞いてもくれて、場を盛り上げる必要もなく、彼との時間は楽しいばかりだった。
とは言えそれだけなら、他にも同様に感じられる友人は少なくともいるにはいる。
ただ、彼はそれだけではなかった。
あの見惚れるほどの美貌。触れたくなる肌。
伏せていた目が上目にこちらを向いたときの、あの射るような視線。
同性であるはずなのに、異性を相手に抱くような気持ちを高ぶらせ、抱きしめたくてたまらなくなってしまう。
想いを遂げねば渇望したまま落ち着かないというのは確かにある。しかし、普段なら叶わずとも忘れてしまえることだった。
彼が他と違うのは、もしかしたらそれを実行に移したからかもしれず、その真偽を確かめないまま突然去られてしまったせいで、忘れられないのだと思う。
本当にキスをしてしまったのか、もしくはそれ以上のことをしたのか、何度記憶を辿っても思い出せず、落ち着かないのである。
異性なら「またやってしまったか」と言って、忘れてしまえることなのに。
だから、自分でも珍しいことだと思いながらも、彼にメールを送ってみることにした。
大した内容ではない。ただ「楽しかったな、次は別の店でワインの制覇でもしよう」などという軽口である。
しかし、素っ気なくも気のない返事が来ただけで、さらに落ち着かない気持ちにさせられただけだった。
もう一通送ろうか、いや電話をしようか。
自分でも不思議なほど悶々と考え込んでしまう。
そんな日々を数日ほど過ごしたのち、思い悩む性分でもなく耐えられなくなった生田は、いっそのこと会いに行ってやれと思い立つ。
決めたのは金曜の夜。出発したのは土曜日の早朝。
メールをしても10文字にも満たない返事が来るだけなら奇襲をするまでだ。
会ってしまえば鬱積した気持ちも晴れるだろうし、記憶を確かめさえすれば頭から消えてしまうはずだ。
そう考えて新幹線に飛び乗り、9時前に東京駅へ到着してすぐに、その場で久世に電話をかけた。
『……はい』
留守電に切り替わるのではと不安になるほど長いコール音のあと、ようやく彼の声が聞こえてきた。
「あ、透? 今東京についたばかりなんだけど、今日って空いてる?」
しかし無音しか返ってこない。
間違えたのだろうか? スマホの画面を確認するも、表示上に間違いはない。
登録時にミスったのだろうかと考えつつも、念の為受話した相手に確認を取ることにした。
「久世透の番号……ではなかったでしょうか」
聞くと、しばしの間を空けて弱々しい声が返ってきた。
『……俺だ。どうした』
不機嫌ではなさそうだけど、何やら歓迎していない様子である。
「突然ごめん。今日忙しい?」
『なんで東京にいるんだ』
「透と遊ぶためだよ」
再び無言。
「おーい、とおるー、聞こえてる?」
『……ああ』
久世の声は今にも消え入りそうなほど小さい。
「予定ある? 連絡しないまま突然来たのはごめん。でもお返しだよ、先週の」
明るく言うと、スマホの向こうから息をもらす音がした。思わずふっと笑ったという感じの。
『……予定はない。じゃあ、今度は俺が店を選ぶ番だな』
「おお、まじ? よかった。そしたら、どこに行けばいい?」
『今からそっちに行く。丸の内口にロータリーがあるから、そこにいてくれ』
「ありがとう。どれくらいかな?」
『少しかかるな……30分くらいだと思う』
「十分早いよ。了解」
『以前と同じ黒のプレジデントで行く。もしわからなかったら電話してくれ』
一転してキビキビとした調子で言われたあと、通話は切れた。
24分後、丸の内口のロータリーで待っていた生田の目の前にプレジデントが停車した。
ドアウィンドウが下がり、一週間ぶりの彼が顔を覗かせる。
「遅くなった」
「え、早いくらいだよ」
生田は彼の隣に乗り込み、車は発進した。
「何か予定あった?」
今日の久世も身体にピッタリと合った黒のスーツを見事に着こなしている
なんとも惚れ惚れとするが、会いたくてわざわざ来たというのに、妙に気恥ずかしくなってしまって目を合わせられない。
「別に。課題も終わったばかりだし、映画を見るくらいしかやることなんてないから。朝が早すぎて驚いたくらいだ」
嬉しげな声を聞いたことでようやく久世の方へ目を向けてみると、彼は声と同様にこぼれんばかりの笑みを浮かべていた。
本心からっぽい。
しかし、そうだと断じることができないのは、乗った直後から耳につく、途切れても再び鳴り始めるバイブ音のせいだった。
「出れば?」
しかし、久世は視線を前方に逸らしただけで、出るつもりどころか、答える気もなさそうな様子だ。
「ごめん、彼女に謝っておいて。急に来て本当に悪かった」
もしかしたらいきなり来てしまったせいで、約束などない振りをしているのかもしれない。
「彼女なんていない」
久世は答えながらスマホを取り出し、操作をしてから元の場所にしまった。
しかし、すぐにまた振動音が鳴る。
「出なよ」
着信拒否だけで効くなら、これほどしつこく鳴らさないだろう。
呆れを含ませつつ語気を強めると、久世は大きなため息をついて、ポケットに手を突っ込んだ。
そして、ようやく出る気になったのか、スマホを操作したあと耳に当てた。
二人きりの場で片方が通話をしているのというのは、確かに気が引ける行為ではある。
彼が出ようとしなかったのは、場の空気を白けさせないための配慮だろう。
ありがたいことではあるが、約束を反故にさせたのであれば、むしろ邪魔者はこちらなのだから、出てくれたほうが気が楽だ。
久世は「ああ」とか「わるい」などの相槌を打つばかりで、ろくに言葉をかけないため、相手と約束をしていたのかどうかは察することはできない。
当然ながら相手の声も聞こえないため、彼女なのか友人なのか、性別すらもわからない。
「悪かった。……違う、悠輔じゃない。……そう、帰国してるのは知ってる。けど会ってはいない……」
その言葉を最後に通話が切れたらしく、久世はスマホを操作してポケットに戻した。
垂れ込める沈黙。
「えーっと、どこに向かってるんだ?」
わざとらしいかもと案じつつ、素知らぬ調子で問いかけると、赤坂に行きつけの料亭があるからと口重く答えてくれた。
昼食にしては時間がまだ早いがどうするのかとさらに問うと、食事の前に寛げる部屋があるらしく、午前の早い時間から上がれるのだと言う。
「それって、お得意様用の部屋かなんか?」
「いや、わからないが、祖父がよく利用しているから」
「祖父って久世議員? じゃあ絶対そうじゃん! さすが富豪」
「いや、富豪というのはヴィスコンティのような貴族を指す言葉で……」
「なに? 誰?」
「『山猫』とか『ヴェニスに死す』っていう映画の監督で……」
隙あらば映画の話題にすり替える久世の話を聞きながら到着し、コーヒーをお供に再び火の着いた会話を楽しみつつ、昼食を済ませて午後はドライブ、夜はこれまた久世の行きつけだという六本木のバーへと向かった。
会話は途切れることなく盛り上がり、前回会ったときと同様に楽しいばかりで、いつの間にやら生田の抱えていた不安はきれいさっぱり吹き飛んでいた。
「次の店はクラブみたいなところのほうがいいだろうか?」
宴もたけなわ、ではないものの、場を移そうかという話になったとき、それまでのテンションが嘘のようにボソボソとした声で久世が聞いてきた。
「え、なに、クラブ? 透って踊るの?」
そんなふうには見えないが、御曹司ならばダンスを華麗に舞うなりしそうではある。
「いや、女性がいる店のほうだ。その、多少は知っているから……」
久世は生田の表情を伺いつつも目を逸らしたりと挙動不審な様子で言う。
「あぁ、そっちか。僕はどっちでもいいよ。透が行きたいなら付き合うし。あーいうところって、接待とか、飲むだけじゃ持たないような相手を誤魔化すときに行くから、好んではいかないかな。あ、まさかそういう意図じゃ……」
言いながら、彼の本音を口にしてしまったのかと焦る。
「まさか。ただ好みを確認しただけだ。俺もできることなら避けたいところだ」
しかし、彼は顔をほころばせて、そう答えた。
「てか、透といたらモテないし嫌だよ。隣にいると引き立て役にしかならないだろ」
「それは雅紀の方が……」
みるみる久世の顔が赤く染まっていく。
「なに? その反応」
まさかここまでの美貌を持っていて、自覚がないはずはないだろう。
店内の客も彼にちらちらと目を向けているほどなのだから。
考えながら横目で店内を見渡すと、やはり女性客が何人か期待の目を向けている。
彼にだけでなく自分にも向けていたらしく、ふと目が合ってにっこりと微笑まれた。
何度となく向けられたことのある馴染み深い視線。
笑みを返せば、その気がある場合は声をかけてくるだろう。
しかし今は気分ではない。
いつもなら、友人といる場合でも連れ立って店を出ることはあるが、彼とはそんな真似をしたくない。
生田は相手に詫びの意を込めた視線をくれてから、久世のほうへ向き直った。
「泊めた代わりと言ってはなんだけど、今夜は透のところに泊めてもらえる? あ、でも服は買わないよ。あんなの買ってたら破産する」
聞くと、久世は口元に微笑をたたえた。
「もちろんだ。ただ自宅は実家だからホテルへ行こう。ルームサービスで飲み直すこともできる」
「まじで? でも、そんなの悪いよ」
「いや、いいところがあるんだ」
ホテルと言ってもビジネスホテルでは当然ないはずで、おそらく一生立ち入る機会のないレベルだろう。
頼ってばかりで申し訳ないと思いつつ、ちょっと、いやかなり膨らんでしまった期待を胸に、久世とともに店を出た。
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