ゲームの犯人に転生したらサイコパス化した王子に溺愛された

七天八狂

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15.致命的なミス

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 毒針の効力は時間とともに薄れる。だから、もし必要だったら自分に言うように。と、カトリーナは言っていた。手元にあるこれは、どれくらい持つのだろう。
 わからないままに、三ヶ月が経過していた。
 今日は王都の端にある、カルガヤの森へと差し掛かる吊り橋へとやってきていた。
 目的は、イリスのスリルのためだ。

「はあ、すっとしたあ」

 イリスは楽しんだあと、屈強な騎士たちによって橋から吊り上げられ、俺に満面の笑みを向けてきた。

「……お疲れ様です」
「とっても楽しかった。これ、なんて言うんだっけ?」
「バンジージャンプです」
「そう、それ。スリルあったよ」
「ご満足できたようで嬉しいです」
「クリステルもやってみる?」
「いえ……わたしは特に必要としておりませんので」

 いくらなんでも勘弁願いたい。穀物を詰めた麻袋で試したあと、では生物でとなったときにイリスは自ら率先して第一号を名乗り出た。さすがはスリルを求めるだけある。
 そして成功したわけだが、だとして、高度百メートルはあろうかという橋から飛び降りる勇気は俺にない。
 ゴムの開発を第一に進めていたのは、俺が熱弁したからだ。殺人衝動を起こさぬよう、とかくスリルを味わってもらいたい。生活を快適にする整備や開発より、まずはこちらのほうをとの訴えを聞いてくれた結果だ。
 もともとあったこの世界のゴムは貧弱で、前世にあった輪ゴムのような用途にすら使えない有り様だった。しかし、日夜積み重ねた研究によって、成人男性が落下する衝撃にも耐えられるほどの強度を得ることに成功した。こんな短期間で成し遂げるとは驚くが、どうやらイリスは本物の天才だったらしい。

「じゃあ、あんなに熱心だったのは、クリステルがやりたかったからじゃないんだ?」
「申し上げたことのすべては、イリス様のお力になるためです」
「それは、死にたくないから?」

 イエスだが、イリスは別の解答を望んでいる。最近そのことに気がつき始めていた。

「……イリス様をお慕いしているからです」

 ふうんとイリスはそっけなく答えながらも、口元は嬉しげに緩んでいる。上気した頬はバンジージャンプによる興奮からだ。しかし、俺の腰に回っていた手には力が入った。

「イリス様……」

 抱き寄せられ、額や頬にキスの雨が降る。周りには騎士や従者が何人もいるというのに、まるで背景であるかのごとくお構いなしだ。

「ねえ、クリステル……橋のうえでやろうか」
「はあっ?」

 真っ昼間の橋の上で、部下たちに見られながら? 無理無理。スリルはありそうだけど、そんなの絶対に無理。

「興奮しそうじゃない?」

 イリスの手が俺の尻を撫で回し、ちゅうちゅうと首元を吸われて、耳の中に指が入ってくる。 
 ぞわぞわとして気持ちがよく、このままではスイッチが入ってしまいかねないと焦る。
 なんとか止めなければならない。
 呼吸の荒くなるイリスの愛撫を受けながら、どうやったら逆鱗に触れず拒否できるかを必死に考えた。

「……イリス様の乱れたお姿を、他の人に見られて欲しくはありません」
「えっ?」

 ひねり出した解答を言うと、イリスはびっくりした様子で俺から離れた。
 
「お、おこがましいことですが、お美しいイリス様のお姿を見て、他の方が興奮するのは──」
「嫌なの?」
 
 イリスはすっと目を細めた。表情からは温度がなくなり、睨みつけるように俺を見下ろしている。まさか失敗した? 怒らせてしまったのだろうか。

「いつからそんなこと考えるようになったの?」

 怒ったっぽい。どうしよう。やばい。
 焦る俺に対して、イリスの睨みはますます鋭くなっていく。
 
「……申し訳ございません」 
「独占欲とか、そういうの嫌いなんだよね……だから一人に絞ったりなんてしなかったし、結婚もまだ考えてない。調子に乗られると、殺したくなる」

 はい、詰んだ。終わった。
 いつかはこんなことになるとわかっていたのに、ぐずぐずとそばにいたせいだ。逃げ出す勇気がなく、流されるままだった。
 アウレリウスが斬られたあたりからは無理というか、逃げたら追われると思って諦めていたけど、どの道同じ結果だとわかっていたのだから、試してみればよかったのだ。
 いまさらすぎる後悔が、怒涛のように押し寄せてくる。

「申し訳ございません」
 
 殊勝に頭を下げた。しかし効くはずがない。
 イリスは鼻を鳴らしただけで俺の手を引き、馬車へと戻り始めた。
 ご機嫌な様子が一転、不機嫌オーラが出まくりで、帰路の馬車は重々しい空気が立ち込めていた。
 夜の予定は王城の中で開かれる舞踏会だ。帰宅したらすぐに着替えて、イリスは会場となる広間へ向かわなければならない。何時まであるかはわからないけど、俺の命は舞踏会の終演とともに終わりを告げるだろう。
 逃げ出すか、もしくはイリスを殺すかをしなければ、日付が変わるまで生きてはいられまい。
 頭を抱えたくなるのを堪えながら、俺は馬車の隅で身体を震わせていた。
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