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第一章 憂鬱なる辞令
11.ディナー後の任務
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夕食にとクジマが連れてきたのは、目の前でショーを実演してくれるレストランだった。
「なにここ、すげえ」
何十人という着飾った踊り子が一斉に迫力のあるダンスを見せ、生演奏の音楽と光がきらびやかに演出している。普段スクリーンでこの世のものとは思えない異世界を体験していても、圧倒される見事なショーだ。
「引きこもっておられると、こういった体験も味わえないのですよ」
「……六感シアターは行ったことあるし……」
ロジオンがクジマにした反論はわからないでもないが、似ているようでここは別種の娯楽施設なのである。
六感シアターは全身を包むスーツを着用し、その場にいるかのような体験をできるもので、食事を取るなりして味覚や聴覚も楽しめるのだが、すべてバーチャルであるため腹を膨らませることはできない。その点ここはレストランであり、実演されるショー自体の迫力もバーチャルとは違った未完成の完璧さといえる生々しさがある。
いわば時代錯誤ともいえる古風な娯楽だが、キーンズでも根強い人気があり、皇族やアルファがデートに友人にとステイタスのように利用するため滅多なことでは席を取れない。辺境のここも例外ではないらしく、席をとれたのはクジマの力だったらしい。
「クジマ様の名前を出したら貸切にすると提案してくれたんだが、クジマ様は丁重にお断りしたあげくに寄付までなされたんだ。素晴らしいお方だろう?」
鼻高々に教えてくれたのは、エフレム・シェドリンという近衛騎士だった。近衛騎士の中でも輪をかけて体躯が大きく頑健な身体つきをしていて、側近のようにクジマのそばに侍っていた男だ。愛玩カフェでも、店外で待機していたと思いきや、実はこっそり店内の隅に張り付いていたらしい。
「いや、ほんとにすごいな。噂に聞いていた以上の迫力がある」
驚いたことにコンスタンティンの兄と幼なじみであるらしく、コンスタンティンとも親しい間柄のようだった。
「カツフクもキーンズのと負けず劣らずに評判が高いんだ」
「そうだろうな。いくら首都といってもこれ以上があるとは思えん」
「ああ。夜の街のほうも同じくらいレベルが高いぞ」
「……夜の街?」
「カツフクには皇族払い下げのオメガが何人もいるんだ。若い頃に美貌を保つ呪術をかけられていて、見た目には年を食った感じがしない。俺も見てびっくりした」
なにを、という顔で絶句したコンスタンティンに、エフレムは平気な顔で片目をつぶって見せた。
「ここはある意味リュミトロフの一部みたいな場所だから、無法地帯なんだよ」
コンスタンティンは唖然とした顔で俺へ窺うような目を向けてきた。キーンズでのことなら即刻取り締まらなければならない話だ。無法地帯と言われても、責任ある立場の俺としては、聞き逃せることではない。
しかし、クジマづきの近衛騎士が堂々としているということは、クジマが知らないはずがない。おそらくだが黙認しているわけである。俺ごときが下手に事を荒立てていいものか。
「エフレム、ちょっと」
ほらな、というタイミングでクジマの鋭い声が届けられた。エフレムはさっと立ち上がり、ロジオンと別席にいたクジマのほうに歩み寄って行く。
「本当だとしたら興味があるなあ」
エフレムは叱責されているのだろうかと眺めていたところ、コンスタンティンがにやついた顔で耳打ちをしてきた。
「……おまえは本当に好色なやつだな」
「俺だけ特別なわけじゃない。普通っつーか、おまえの性欲が薄いだけだろ。アルファのくせにフェロモンを感じ取れないなんて、どうかしてる」
「体質なんだから仕方がないだろ。それに、完全にわからないわけじゃない。抑制剤を飲んでるせいもあってだな」
「それがおかしいって言ってるんだ。感じにくいやつは別に珍しくもないが、そのうえで抑制剤を飲んでるやつなんてヒエスラ広しと言えどおまえくらいじゃないのか?」
そんなことはない。
反論したかったが、自分以外の実例が思い浮かばず口ごもった。
アルファはオメガのフェロモンを感じることができる。普通のことで、アルファなら誰もに備わっている感覚だ。
オメガのほうは発情期となるとフェロモンを発し、アルファはその匂いに惹かれて関係を持つ。好みの匂いだったり、強く感じるほど相性がよく、結ばれたときに子ができる可能性が高くなるという。
その昔、婚姻というものが盛んだった時代は、書面上での契約よりも強力な関係を結ぶために、オメガのうなじをアルファが噛むという番契約なるものがあった。
目的はオメガのフェロモンを特定のアルファにしか効かなくするためらしく、一度結ばれると解消できなくなるため婚姻より強力な結びつきとなる。
しかし、現代でする者はほとんどいない。
フリーセックスが推奨され、アルファは何人ものオメガに子種を植え付けるし、オメガのほうも一人と定めず男女様々な相手の子を妊娠する。
そうして生まれた子は手元で育てず、乳児施設に届けるのが義務づけられている。乳飲み子の時代から第二の性に合わせた教育を受けさせるためだ。すべての子どもがそれぞれの性質にあった施設で学び、自分にあった職業を決める。成人したあとは職場に近いマンションがあてがわれ、娯楽に必要な賃金を得るために働く。
血筋関係なんてものは意味を成さず、家族という言葉も失われて久しい。パートナーとして一定期間付き合うのは一般的なことであるものの、婚姻を結ぶ者は稀だ。するのは皇族くらいなもので、物好きがするといっても、結局は離婚という結果になったり、実態は形骸化しているという。
ユートピアを実現するべくすべての国民が衣食住を保証された結果、国家は今のような形となったのである。
「あのさ、まさかとは思うんだけど……」
「なんだよ?」
「おまえって童……今までに誰ともやったことがないなんてことは、ないよな?」
おずおずとコンスタンティンから聞かれ、酒を噴き出しそうになった。
「いきなり変なこと聞くな。そんなアルファいないだろ?」
──皇族ではいたけれど。
とてもではないが口に出せない言葉を飲み込みつつ、まさか親友から童貞と思われていたとは思わず、なんとも複雑な気持ちになる。
「……いや、まあ、だよな。まさかと思ったんだが、長年付き合ってきて、一度も相手を紹介してくれたことがなかったから」
「そ……珍しいことでもないだろ? 俺は長く関係を持つタイプじゃないし」
「そこが不思議なんだ。おまえは番いの契約を結ぶくらい惚れ込む男のように思えて、違和感があるなあ、と」
さすがは親友というか、舌を巻くほどに鋭い男だ。
まさしく正しい見解であり、俺は今だからこそ苦しんでいる。
ただ、童貞ではないことは事実だ。同性にしか惹かれないことを自覚した時期は早く、アルファなのだからとオメガの男を誘ったことがある。結果はお粗末なもので、経験をしたと言えるかギリギリ、つまり射精に至ることができなかった。ならばと次は女を誘ってみたものの、似たような結果にしかならず、考えたくなかった欲望を自覚しなければならなくなったのだ。
泣き言混じりに頭を下げなければ解消できないような性癖に。
「ベネフィン卿、クジマ様がお呼びです」
いつの間にやら戻ってきたエフレムから肩を叩かれた。
この後の予定についてだろうか。
考えつつ向かうと、クジマは微笑をたたえて迎えてくれたのだが、なぜか向かいの席にいるロジオンは顔を真っ赤にしてうろたえている。
「お呼びということで参りました」
「ええ、今夜の予定についてです。食事のあと部下たちには休暇を与えておあげください」
「……昼もでしたが、夜もでありますか?」
「おっしゃるとおり。日中と同様、朝までお好きに過ごさせておあげになってください。アルファの種を全国にばらまくのも重要な国家事業でありますから」
かしこばった言い方をしているが、つまりは相手を見つけてやってこいという命令だ。エフレムを黙認しているどころか、クジマはお墨付きを与えていたらしい。生真面目なタイプかと思いきや懐深いというか軽薄というか、意外な面を知って驚いた。
「承知いたしました」
「ええ。ですが貴殿は別です。ロジオン様の護衛として、一晩お付き合いいただけますでしょうか?」
「無論であります。ですが、護衛とおっしゃるのであれば、わたし一人でよろしいのでしょうか」
「構いません。単にロジオン様を見張っていただきたいだけですから」
なんのことやらと眉根を寄せながらロジオンを見ると、目を合わせた途端にはっと慌てた様子で逸らされてしまった。
「観光ついでと言いますか、ロジオン様に夜もお楽しみいただきたいのです。……先程から何人もの方から声をかけられているのですが、どうもしっくりこないご様子で」
なるほど、真っ赤な顔でうろたえていたのは夜のお誘いをかけられていたせいらしい。確かにレストランやバーなどは出会いの場だ。そのつもりで来ている人は大勢いる。
「……昼間のカフェにいらした店員、ジーナという名の娘なんですが、彼女ならどうかと考えつきまして、先程連絡を取ってみたのです」
クジマが言うには、積極性が皆無のロジオンを無理やり宿に閉じ込めて、ジーナと一晩過ごすよう、見張っていて欲しいというものだった。
ちょっとした頼み事と言った様子だが、これもまた命令に違いない。
リュミトロフに寝返らないよう人間との絆をつくる計画の一貫なのだろう。
護衛以外の任務を帯びていることは、俺以外の誰にも知らせてはならない現状である。部下たちに休暇を与えた目的は二重にあったようだ。
「承知いたしました」
嫌で仕方がないが、命令に背くことはできない。
騎士として要人の密会を護衛する機会は少なからずあり初めてのことではないが、相手が一度関係を持った男ともなれば話は別だ。騎士と要人という関係が成立しないのは、身分差もさることながら、こういった機会があるせいでもあるのかもしれない。
席へ戻った俺は、どうやらエフレムから先に聞いていたらしい喜色満面のコンスタンティンに迎えられつつ、一応はと命じられた内容を伝えた。
「え、おまえだけロジオン様の護衛?」
「まあ、責任者だからな。俺のことは気にせず楽しんできてくれ。どの道俺は街ではなく部屋に閉じこもるくらいしかやることはないからな。性欲が薄いもので」
「……わるかったって」
「事実だからいい」
本当は薄いわけじゃなく、抑圧しているだけなんだけどなあ。
盛大にため息を漏らしたいのを堪えつつ、これからの時間を憂鬱に思いながら食事を再開させた。
ロジオンは挙動不審に黙りこくっていただけで、内心は喜んでいるのか、逃げ出したいのかはわからなかった。
そんなどちらとも読めない態度も憂鬱さの一因だったことは、不快なことに俺自身はっきりと自覚していた。
「なにここ、すげえ」
何十人という着飾った踊り子が一斉に迫力のあるダンスを見せ、生演奏の音楽と光がきらびやかに演出している。普段スクリーンでこの世のものとは思えない異世界を体験していても、圧倒される見事なショーだ。
「引きこもっておられると、こういった体験も味わえないのですよ」
「……六感シアターは行ったことあるし……」
ロジオンがクジマにした反論はわからないでもないが、似ているようでここは別種の娯楽施設なのである。
六感シアターは全身を包むスーツを着用し、その場にいるかのような体験をできるもので、食事を取るなりして味覚や聴覚も楽しめるのだが、すべてバーチャルであるため腹を膨らませることはできない。その点ここはレストランであり、実演されるショー自体の迫力もバーチャルとは違った未完成の完璧さといえる生々しさがある。
いわば時代錯誤ともいえる古風な娯楽だが、キーンズでも根強い人気があり、皇族やアルファがデートに友人にとステイタスのように利用するため滅多なことでは席を取れない。辺境のここも例外ではないらしく、席をとれたのはクジマの力だったらしい。
「クジマ様の名前を出したら貸切にすると提案してくれたんだが、クジマ様は丁重にお断りしたあげくに寄付までなされたんだ。素晴らしいお方だろう?」
鼻高々に教えてくれたのは、エフレム・シェドリンという近衛騎士だった。近衛騎士の中でも輪をかけて体躯が大きく頑健な身体つきをしていて、側近のようにクジマのそばに侍っていた男だ。愛玩カフェでも、店外で待機していたと思いきや、実はこっそり店内の隅に張り付いていたらしい。
「いや、ほんとにすごいな。噂に聞いていた以上の迫力がある」
驚いたことにコンスタンティンの兄と幼なじみであるらしく、コンスタンティンとも親しい間柄のようだった。
「カツフクもキーンズのと負けず劣らずに評判が高いんだ」
「そうだろうな。いくら首都といってもこれ以上があるとは思えん」
「ああ。夜の街のほうも同じくらいレベルが高いぞ」
「……夜の街?」
「カツフクには皇族払い下げのオメガが何人もいるんだ。若い頃に美貌を保つ呪術をかけられていて、見た目には年を食った感じがしない。俺も見てびっくりした」
なにを、という顔で絶句したコンスタンティンに、エフレムは平気な顔で片目をつぶって見せた。
「ここはある意味リュミトロフの一部みたいな場所だから、無法地帯なんだよ」
コンスタンティンは唖然とした顔で俺へ窺うような目を向けてきた。キーンズでのことなら即刻取り締まらなければならない話だ。無法地帯と言われても、責任ある立場の俺としては、聞き逃せることではない。
しかし、クジマづきの近衛騎士が堂々としているということは、クジマが知らないはずがない。おそらくだが黙認しているわけである。俺ごときが下手に事を荒立てていいものか。
「エフレム、ちょっと」
ほらな、というタイミングでクジマの鋭い声が届けられた。エフレムはさっと立ち上がり、ロジオンと別席にいたクジマのほうに歩み寄って行く。
「本当だとしたら興味があるなあ」
エフレムは叱責されているのだろうかと眺めていたところ、コンスタンティンがにやついた顔で耳打ちをしてきた。
「……おまえは本当に好色なやつだな」
「俺だけ特別なわけじゃない。普通っつーか、おまえの性欲が薄いだけだろ。アルファのくせにフェロモンを感じ取れないなんて、どうかしてる」
「体質なんだから仕方がないだろ。それに、完全にわからないわけじゃない。抑制剤を飲んでるせいもあってだな」
「それがおかしいって言ってるんだ。感じにくいやつは別に珍しくもないが、そのうえで抑制剤を飲んでるやつなんてヒエスラ広しと言えどおまえくらいじゃないのか?」
そんなことはない。
反論したかったが、自分以外の実例が思い浮かばず口ごもった。
アルファはオメガのフェロモンを感じることができる。普通のことで、アルファなら誰もに備わっている感覚だ。
オメガのほうは発情期となるとフェロモンを発し、アルファはその匂いに惹かれて関係を持つ。好みの匂いだったり、強く感じるほど相性がよく、結ばれたときに子ができる可能性が高くなるという。
その昔、婚姻というものが盛んだった時代は、書面上での契約よりも強力な関係を結ぶために、オメガのうなじをアルファが噛むという番契約なるものがあった。
目的はオメガのフェロモンを特定のアルファにしか効かなくするためらしく、一度結ばれると解消できなくなるため婚姻より強力な結びつきとなる。
しかし、現代でする者はほとんどいない。
フリーセックスが推奨され、アルファは何人ものオメガに子種を植え付けるし、オメガのほうも一人と定めず男女様々な相手の子を妊娠する。
そうして生まれた子は手元で育てず、乳児施設に届けるのが義務づけられている。乳飲み子の時代から第二の性に合わせた教育を受けさせるためだ。すべての子どもがそれぞれの性質にあった施設で学び、自分にあった職業を決める。成人したあとは職場に近いマンションがあてがわれ、娯楽に必要な賃金を得るために働く。
血筋関係なんてものは意味を成さず、家族という言葉も失われて久しい。パートナーとして一定期間付き合うのは一般的なことであるものの、婚姻を結ぶ者は稀だ。するのは皇族くらいなもので、物好きがするといっても、結局は離婚という結果になったり、実態は形骸化しているという。
ユートピアを実現するべくすべての国民が衣食住を保証された結果、国家は今のような形となったのである。
「あのさ、まさかとは思うんだけど……」
「なんだよ?」
「おまえって童……今までに誰ともやったことがないなんてことは、ないよな?」
おずおずとコンスタンティンから聞かれ、酒を噴き出しそうになった。
「いきなり変なこと聞くな。そんなアルファいないだろ?」
──皇族ではいたけれど。
とてもではないが口に出せない言葉を飲み込みつつ、まさか親友から童貞と思われていたとは思わず、なんとも複雑な気持ちになる。
「……いや、まあ、だよな。まさかと思ったんだが、長年付き合ってきて、一度も相手を紹介してくれたことがなかったから」
「そ……珍しいことでもないだろ? 俺は長く関係を持つタイプじゃないし」
「そこが不思議なんだ。おまえは番いの契約を結ぶくらい惚れ込む男のように思えて、違和感があるなあ、と」
さすがは親友というか、舌を巻くほどに鋭い男だ。
まさしく正しい見解であり、俺は今だからこそ苦しんでいる。
ただ、童貞ではないことは事実だ。同性にしか惹かれないことを自覚した時期は早く、アルファなのだからとオメガの男を誘ったことがある。結果はお粗末なもので、経験をしたと言えるかギリギリ、つまり射精に至ることができなかった。ならばと次は女を誘ってみたものの、似たような結果にしかならず、考えたくなかった欲望を自覚しなければならなくなったのだ。
泣き言混じりに頭を下げなければ解消できないような性癖に。
「ベネフィン卿、クジマ様がお呼びです」
いつの間にやら戻ってきたエフレムから肩を叩かれた。
この後の予定についてだろうか。
考えつつ向かうと、クジマは微笑をたたえて迎えてくれたのだが、なぜか向かいの席にいるロジオンは顔を真っ赤にしてうろたえている。
「お呼びということで参りました」
「ええ、今夜の予定についてです。食事のあと部下たちには休暇を与えておあげください」
「……昼もでしたが、夜もでありますか?」
「おっしゃるとおり。日中と同様、朝までお好きに過ごさせておあげになってください。アルファの種を全国にばらまくのも重要な国家事業でありますから」
かしこばった言い方をしているが、つまりは相手を見つけてやってこいという命令だ。エフレムを黙認しているどころか、クジマはお墨付きを与えていたらしい。生真面目なタイプかと思いきや懐深いというか軽薄というか、意外な面を知って驚いた。
「承知いたしました」
「ええ。ですが貴殿は別です。ロジオン様の護衛として、一晩お付き合いいただけますでしょうか?」
「無論であります。ですが、護衛とおっしゃるのであれば、わたし一人でよろしいのでしょうか」
「構いません。単にロジオン様を見張っていただきたいだけですから」
なんのことやらと眉根を寄せながらロジオンを見ると、目を合わせた途端にはっと慌てた様子で逸らされてしまった。
「観光ついでと言いますか、ロジオン様に夜もお楽しみいただきたいのです。……先程から何人もの方から声をかけられているのですが、どうもしっくりこないご様子で」
なるほど、真っ赤な顔でうろたえていたのは夜のお誘いをかけられていたせいらしい。確かにレストランやバーなどは出会いの場だ。そのつもりで来ている人は大勢いる。
「……昼間のカフェにいらした店員、ジーナという名の娘なんですが、彼女ならどうかと考えつきまして、先程連絡を取ってみたのです」
クジマが言うには、積極性が皆無のロジオンを無理やり宿に閉じ込めて、ジーナと一晩過ごすよう、見張っていて欲しいというものだった。
ちょっとした頼み事と言った様子だが、これもまた命令に違いない。
リュミトロフに寝返らないよう人間との絆をつくる計画の一貫なのだろう。
護衛以外の任務を帯びていることは、俺以外の誰にも知らせてはならない現状である。部下たちに休暇を与えた目的は二重にあったようだ。
「承知いたしました」
嫌で仕方がないが、命令に背くことはできない。
騎士として要人の密会を護衛する機会は少なからずあり初めてのことではないが、相手が一度関係を持った男ともなれば話は別だ。騎士と要人という関係が成立しないのは、身分差もさることながら、こういった機会があるせいでもあるのかもしれない。
席へ戻った俺は、どうやらエフレムから先に聞いていたらしい喜色満面のコンスタンティンに迎えられつつ、一応はと命じられた内容を伝えた。
「え、おまえだけロジオン様の護衛?」
「まあ、責任者だからな。俺のことは気にせず楽しんできてくれ。どの道俺は街ではなく部屋に閉じこもるくらいしかやることはないからな。性欲が薄いもので」
「……わるかったって」
「事実だからいい」
本当は薄いわけじゃなく、抑圧しているだけなんだけどなあ。
盛大にため息を漏らしたいのを堪えつつ、これからの時間を憂鬱に思いながら食事を再開させた。
ロジオンは挙動不審に黙りこくっていただけで、内心は喜んでいるのか、逃げ出したいのかはわからなかった。
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