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第一章 抱かれたいアルファの憂鬱なる辞令
22.嫌悪の涙
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「……おまえがなぜ選んだのかの理由もなんとなくわかった」
コンスタンティンはやおら俺をベッドのうえへ押し倒し、強引に乗りかかってきた。両手を羽交い締めにされ、太もものうえへ腰を下ろされては抵抗できない。
「やめろ!」
しかも飲むのに邪魔だとして剣は壁に立てかけてある。
「まるで正反対に見えるが、どちらの内面も知っている俺からすればお似合いだ……だから離さなきゃならなかった」
俺をやすやすと押さえつけたコンスタンティンは、歯で俺のシャツのボタンを噛みちぎり、さらけ出た胸元に舌を這わせてきた。
「……やめろって」
「あいつがおまえをどう表したか……おまえの笑顔はこの世の至宝だとよ」
コンスタンティンは喋りながらも舌で肌をなぞり、乳首へと至ったあと甘く噛んできた。
「……っ」
「至宝とはよく言ったものだ。俺もおまえより美しい人間を見たことがない。うまく表現するものだと感心したよ」
官能を引き出され、身をよじって抵抗するも、愛撫は激しくなるばかりだ。
「……も、本当にやめてくれ」
「物心つく前から至宝がそばにいたらどうなるか、おまえはわかるか?」
舐められ、吸われ、歯を立てられて身体が熱くなってしまう。嫌なのに、押さえつけられていることにも興奮してしまっている。
抱かれたいという欲望は、圧倒されたいという願望と表裏らしい。
誰にも負けたくないという強い思いで剣技に励んできたのに、強い男に組み敷かれ、蹂躙されることに甘い疼きを覚えてしまう。
コンスタンティンは息を荒げる俺を見て、ふふと嬉しげな笑い声を漏らした。
「……どんな人間もクズ石にしか見えなくなるんだ。俺が今まで抱いてきた女は、すべておまえの代替品でしかなかった。おまえが受け入れてくれる日までの代わりだったんだよ」
情欲のたぎった目で見下ろされ、ぞくりと怖気が走った。
「俺じゃなくても、おまえならいくらでも相手がいるだろ?」
コンスタンティンは答える代わりに不敵な笑みを浮かべると、俺の手をひとまとめにして片手で押さえ、口づけながら空いた手を下半身のほうへと伸ばした。
「んっ……やめ……んんっ」
怖い。
圧倒されることに快感を覚えたとしても、望んでいないという思いが嫌悪感を募らせる。
しかも相手は親友だ。最も気の置ける友で、誰よりも信頼していた同僚だった。そのコンスタンティンが、俺の意思なく無理に犯そうとしている。
その事実が虚しさを呼び起こす。
嫌でたまらず、まさかという失望が絶望感へと変わっていく。
コンスタンティンの手が器用にもベルトを外してくつろげられた性器は、下着の上からでもわかるくらい硬く張り詰めている。
胸が押しつぶされたみたいに痛いのに、身体のほうは裏腹にも快楽を拾っている。
その事実をまざまざと見せつけられ、自分に対する嫌悪感に耐えきれず目尻からこぼれ出た。
「後ろの準備をしたいな。手を離しても暴れてくれるなよ?」
ふと目が合い、コンスタンティンの瞳が困惑に揺れた。
「楽しいかよ?」
滑稽だろうと構わず、俺はぼろぼろと涙を流しながらコンスタンティンを睨みつけた。
コンスタンティンは信じられないといったような顔で目を見開き、俺を拘束していた手を緩めた。
信じられないのはこっちだ。
自由になった俺は、思いっきりコンスタンティンを殴りつけた。一度ならず二度三度と殴りつけ、足で蹴り上げ、むちゃくちゃに暴れて、怒りをぶつけまくった。
「……おまえの望みだったんじゃないのか?」
「望んでたまるか! 強姦だぞこれは!」
「男に抱かれたかったんだろ? だからロージャに身体を許したんじゃないのか?」
あいつ、酔った勢いで漏らしやがったのか? かっとしてさらに拳に力が入る。
「なにを訊いたか知らないが、俺にそんな望みはない! あったとしても、無理やりされて喜ぶような趣味はない!」
怒鳴りつけると、コンスタンティンは俺の言葉にショックを受けたように静止した。
殴られるまま俺の拳を身体中で受け止め、それが罪滅ぼしとでも言うように、血が出ても、当たった拍子にうめき声をあげても、いっさいの抵抗をしなかった。
だからか無抵抗の相手を殴る後ろめたさが勝り始め、猛った怒りが少しずつ落ち着いてきた。
「……わるかった」
攻撃をやめると、コンスタンティンは降参とばかりに両手を広げた。あちこちから流れ出る血を厭わず、顔面はぼこぼこだ。
「許せると思うか?」
やめたからと言って、怒りが収まったわけじゃない。しかしコンスタンティンは「まだ未遂だろ?」とでも言うように上目で見据えてきて、どっと疲れを感じた俺はベッドに寝そべった。
「ふざけんな、一度ならず二度目だぞ?」
「……わるかったよ」
あのとき、もっとはっきり拒否の姿勢を示すべきだった。おまえとは嫌だと言ったはずだが、コンスタンティンは曲解して受け止め、だったらロジオンと距離を取らせればいいと考えたようだ。
誤解させたのは、いっさい俺が話を蒸し返さなかったせいだろう。
コンスタンティンの態度が普段どおりに戻ったからと、なにごともなかったように俺も振る舞った。想いを知りながら中途半端なことをした。
だとして、なんにせよこいつもわるい。行動を起こすより先に話をすべきだろう。
だからというわけでもなく、俺はコンスタンティンを受け入れたくはないし、こいつとは友人のままでいたい。
「許すのは二度までだ」
友人のままでいたいから、今回も両成敗にするしかない。
涙を拭いながら睨みつけると、コンスタンティンは殊勝にも頭を下げ、二度としないと堅く約束をしてくれた。
コンスタンティンはやおら俺をベッドのうえへ押し倒し、強引に乗りかかってきた。両手を羽交い締めにされ、太もものうえへ腰を下ろされては抵抗できない。
「やめろ!」
しかも飲むのに邪魔だとして剣は壁に立てかけてある。
「まるで正反対に見えるが、どちらの内面も知っている俺からすればお似合いだ……だから離さなきゃならなかった」
俺をやすやすと押さえつけたコンスタンティンは、歯で俺のシャツのボタンを噛みちぎり、さらけ出た胸元に舌を這わせてきた。
「……やめろって」
「あいつがおまえをどう表したか……おまえの笑顔はこの世の至宝だとよ」
コンスタンティンは喋りながらも舌で肌をなぞり、乳首へと至ったあと甘く噛んできた。
「……っ」
「至宝とはよく言ったものだ。俺もおまえより美しい人間を見たことがない。うまく表現するものだと感心したよ」
官能を引き出され、身をよじって抵抗するも、愛撫は激しくなるばかりだ。
「……も、本当にやめてくれ」
「物心つく前から至宝がそばにいたらどうなるか、おまえはわかるか?」
舐められ、吸われ、歯を立てられて身体が熱くなってしまう。嫌なのに、押さえつけられていることにも興奮してしまっている。
抱かれたいという欲望は、圧倒されたいという願望と表裏らしい。
誰にも負けたくないという強い思いで剣技に励んできたのに、強い男に組み敷かれ、蹂躙されることに甘い疼きを覚えてしまう。
コンスタンティンは息を荒げる俺を見て、ふふと嬉しげな笑い声を漏らした。
「……どんな人間もクズ石にしか見えなくなるんだ。俺が今まで抱いてきた女は、すべておまえの代替品でしかなかった。おまえが受け入れてくれる日までの代わりだったんだよ」
情欲のたぎった目で見下ろされ、ぞくりと怖気が走った。
「俺じゃなくても、おまえならいくらでも相手がいるだろ?」
コンスタンティンは答える代わりに不敵な笑みを浮かべると、俺の手をひとまとめにして片手で押さえ、口づけながら空いた手を下半身のほうへと伸ばした。
「んっ……やめ……んんっ」
怖い。
圧倒されることに快感を覚えたとしても、望んでいないという思いが嫌悪感を募らせる。
しかも相手は親友だ。最も気の置ける友で、誰よりも信頼していた同僚だった。そのコンスタンティンが、俺の意思なく無理に犯そうとしている。
その事実が虚しさを呼び起こす。
嫌でたまらず、まさかという失望が絶望感へと変わっていく。
コンスタンティンの手が器用にもベルトを外してくつろげられた性器は、下着の上からでもわかるくらい硬く張り詰めている。
胸が押しつぶされたみたいに痛いのに、身体のほうは裏腹にも快楽を拾っている。
その事実をまざまざと見せつけられ、自分に対する嫌悪感に耐えきれず目尻からこぼれ出た。
「後ろの準備をしたいな。手を離しても暴れてくれるなよ?」
ふと目が合い、コンスタンティンの瞳が困惑に揺れた。
「楽しいかよ?」
滑稽だろうと構わず、俺はぼろぼろと涙を流しながらコンスタンティンを睨みつけた。
コンスタンティンは信じられないといったような顔で目を見開き、俺を拘束していた手を緩めた。
信じられないのはこっちだ。
自由になった俺は、思いっきりコンスタンティンを殴りつけた。一度ならず二度三度と殴りつけ、足で蹴り上げ、むちゃくちゃに暴れて、怒りをぶつけまくった。
「……おまえの望みだったんじゃないのか?」
「望んでたまるか! 強姦だぞこれは!」
「男に抱かれたかったんだろ? だからロージャに身体を許したんじゃないのか?」
あいつ、酔った勢いで漏らしやがったのか? かっとしてさらに拳に力が入る。
「なにを訊いたか知らないが、俺にそんな望みはない! あったとしても、無理やりされて喜ぶような趣味はない!」
怒鳴りつけると、コンスタンティンは俺の言葉にショックを受けたように静止した。
殴られるまま俺の拳を身体中で受け止め、それが罪滅ぼしとでも言うように、血が出ても、当たった拍子にうめき声をあげても、いっさいの抵抗をしなかった。
だからか無抵抗の相手を殴る後ろめたさが勝り始め、猛った怒りが少しずつ落ち着いてきた。
「……わるかった」
攻撃をやめると、コンスタンティンは降参とばかりに両手を広げた。あちこちから流れ出る血を厭わず、顔面はぼこぼこだ。
「許せると思うか?」
やめたからと言って、怒りが収まったわけじゃない。しかしコンスタンティンは「まだ未遂だろ?」とでも言うように上目で見据えてきて、どっと疲れを感じた俺はベッドに寝そべった。
「ふざけんな、一度ならず二度目だぞ?」
「……わるかったよ」
あのとき、もっとはっきり拒否の姿勢を示すべきだった。おまえとは嫌だと言ったはずだが、コンスタンティンは曲解して受け止め、だったらロジオンと距離を取らせればいいと考えたようだ。
誤解させたのは、いっさい俺が話を蒸し返さなかったせいだろう。
コンスタンティンの態度が普段どおりに戻ったからと、なにごともなかったように俺も振る舞った。想いを知りながら中途半端なことをした。
だとして、なんにせよこいつもわるい。行動を起こすより先に話をすべきだろう。
だからというわけでもなく、俺はコンスタンティンを受け入れたくはないし、こいつとは友人のままでいたい。
「許すのは二度までだ」
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