抱かれたいアルファの憂鬱なる辞令

七天八狂

文字の大きさ
23 / 49
第一章 憂鬱なる辞令

23.彼の胸中

しおりを挟む
 いてて、とぼやきながらコンスタンティンは立ちがあり、頬をさすりながらテーブルへと歩いていく。

「ロージャは応援してくれたんだがな」
 
 ぽつりと漏らした声を聞いて、はたと俺も腰を浮かせた。

「ロジオン様と何を話したんだ?」

 至宝がどうのと戯言を口にしていたが、いつそんな話をしたというんだ? 身体を許した云々についてもそうだ。
 動揺を隠せず声を荒らげると、コンスタンティンは残っていた酒のボトルを取り、ラッパでボトルを逆さにしたあと振り返った。

「惚気話だ」
「……ヤッてないって言ってんだろ!」
「嘘つけよ。おまえらどっちも態度に出てんだよ」
 
 苦笑の顔でコンスタンティンが説明してくれたことによると、酒を飲むと饒舌になるロジオンは、俺に懸想していることは簡単にぶちまけたのだという。しかしそれ以上のことは、どれほど酒を呑ませ、あれこれと突いても、頑として口を割らなかったらしい。ただ俺たちの態度から確信を得ていたコンスタンティンは、隠すほどに深い想いなのかと焦り、諦めさせるために要らぬ嘘をついたのだと口を滑らせた。

「嘘?」
「……ああ。すでに俺とおまえができているって話した」
「なんだその嘘は! いつ言ったんだよ!」

 信じられない思いでコンスタンティンを睨みつけ、だったら態度に出ていたはずだと記憶を辿る。ロジオンは俺に対する態度を日々軟化させてきていたし、数時間前に夕食で顔を合わせたときも、妙な素振りはいっさいなかった。

「ここへ来る前だ。廊下で顔を合わせたから」

 話したばかりらしい。平然としていたのはまだ聞いていなかったからのようだ。

「それで、あいつ……ロジオン様の反応は?」

 キレるか不貞腐れた反応を見せたのだろう。
 
「反応は、そうか、って感じだったけど……」

 コンスタンティンは虚を突かれたような顔で答えた。
 聞いても平然としていた? つまり、俺に対する気持ちはなくなっているってことなのか?
 
「なんだよ、それ。もっと具体的に言えよ」

 困惑しながら詰め寄ると、コンスタンティンのほうがますます戸惑った様子を見せた。
 
「具体的に?」
「言葉じゃなくて顔だよ。落ち込んでいたようだったとか、不満そうだったとか」
「……おまえ、ロージャのこと好きなのか?」

 ふいに聞き返され、えっ?とコンスタンティンを見上げた。

「嘘をついた理由を訊くより先にロージャの反応を知りたがるってことは、俺よりあいつのことを気にかけてるってことだろ?」

 見透かしたようなことを言われ、まさにを突かれた気分で顔が熱くなる。

「好きなわけないだろ! ただ、避けられたりしたら面倒って思っただけで……って、なんでそんな嘘ついたんだ?」

 確かに俺は、コンスタンティンが嘘をついた理由などまるで気に留めていなかった。そんなことよりロジオンの反応が気になり、平然としていたと聞いて頭にきていた。
 俺への妙な感情がなくなったほうが話は早いのに、もやもやとして不満な気持ちになるなんて誤解されるのも無理はない。
 コンスタンティンは俺を見つめたあと大きくため息をつき、馬鹿らしいと呟いて天を仰いだ。

「とりあえず、部屋に戻るわ」

 コンスタンティンは呆れた様子で俺に背を向け、ドアへと向かい出した。
 
「なんでだよ!」

 ドアを開け、廊下に出たコンスタンティンを追いかける。

「答えてないだろ」

 次いで声をかけても、コンスタンティンは振り返らず手をひらひらと振っている。
 
「必要なくね?」
「あるだろ」
「俺に聞くより惚れた男に聞いてみれば?」
「だから、違うって言ってんだろ」

 小声で口論しながら追いかけたところ、コンスタンティンは自室ではなくロジオンにあてがわれた部屋のまえで立ち止まった。

「おい、なんでここに」

 聞いても答えてくれず、コンスタンティンは俺を一瞥もせずにドアをノックした。
 
「ロージャ、まだ起きてるか?」

 すると出てきたのはクリノフで、コンスタンティンの顔を見てぎょっとしつつも、俺もいることに気づき安堵とも言える笑みを浮かべた。

「ベネフィン副長、ロジオン様がまだお戻りにならないのです」

 クリノフの言葉に、コンスタンティンと目を見合わせる。

「俺と会ったとき珍しく一人だったな」 
「一人って……どこへ向かうと言っていたんだ?」

 嘘をついたときのことを言っているのだろう。訊いてもコンスタンティンからは肩をすくめられ、眉根を寄せていると、部屋の奥から憔悴した様子のスヴェトキンが駆けてきた。
 
「ベネフィン卿、三時間ほど前にお酒を頼みに行って以来戻られないのです。宿中探せるだけ探し回りましたし、クリノフ殿たちは外まで見回ってくださったのですが……」
「いなかったのか?」

 クリノフは神妙な顔で頷いた。
 三時間?
 コンスタンティンと飲み始めたころだ。つまり、コンスタンティンと顔を合わせたあと戻ってきていないということになのだろう。
 いたって平静な様子だったと言う話だから、よもや俺のことが関係しているとは思えないが、リュミトロフ国内で一人になられるのは困る。どころかまずい。いや、最悪とも言える状況だ。

 ──魔族に連れさらわれたのではないか。

 不安に駆られ、居ても立っても居られなくなってきた。

「捜索範囲を広げよう。通信機で連絡を取り合って……って、使えないんだった。いまは何時だ?」

 時間なんかも頭蓋内通信機ですぐに確認できるというのに、シャットダウンされているため使えず不便極まりない。
 部屋の奥からマクシミリアンの声で「零時十二分です」と聞こえてきて、ならばと一時に一度待ち合わせようと捜索する場所を割り振った。
 ネットワークも機器類も使用できない土地で人探しなど、まるで何千年と昔に戻った気分だ。

「一人でヒエスラに帰ったなんてことはないよな?」

 宿の玄関へと向かいながら、コンスタンティンが不安げに訊いてきた。
 確かに、初めて出会った繁華街のバーは常連のようだった。皇族が単身でうろつくなど普通はあり得ないと言っても、半魔であるロジオンには適合しない常識だ。一人でふらつく可能性はある。
 むしろ、だったらありがたいのだが、と考えていると、後ろからスヴェトキンが遠慮がちに声をかけてきた。
 
「リュミトロフの通貨は携帯しておりますが、出不精のロジオン様がお一人で見知らぬ土地を歩かれる可能性は考えにくいと存じます」

 その意見のほうがもっともかもしれない。
 基本的には引きこもりの人嫌いだ。慣れた土地ならまだしも、初めて来た地で単独行動を取るとは思えない。
 ただ、動車を動かしてきたのはロジオンであり、来た道を戻ればいいと考えれば、できなくはない気がする。
 一人じゃなにもできないお坊ちゃまで、面倒ごとや退屈を嫌う男がなぜと疑問だが、理由よりも現状の居所だ。
 連れ去らわれたとしても宿の中でとは考えにくい。なんにせよ、外に出たのはロジオンの意志であるはずだ。

 あの野郎、見つけたらただじゃおかないからな。

 焦る気持ちを抑えながら、絶対に見つけ出すとの覚悟を決めて宿の玄関から駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雪解けに愛を囁く

ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。 しかしその試験結果は歪められたものだった。 実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。 好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員) 前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。 別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。 小説家になろうでも公開中。

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

同室のアイツが俺のシャワータイムを侵略してくるんだが

カシナシ
BL
聞いてくれ。 騎士科学年一位のアイツと、二位の俺は同じ部屋。これまでトラブルなく同居人として、良きライバルとして切磋琢磨してきたのに。 最近のアイツ、俺のシャワー中に絶対入ってくるんだ。しかも振り向けば目も合う。それとなく先に用を済ませるよう言ったり対策もしてみたが、何も効かない。 とうとう直接指摘することにしたけど……? 距離の詰め方おかしい攻め × 女の子が好きなはず?の受け 短編ラブコメです。ふわふわにライトです。 頭空っぽにしてお楽しみください。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

王子殿下が恋した人は誰ですか

月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。 ――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。 「私の結婚相手は、彼しかいない」 一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。 仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。 「当たりが出るまで、抱いてみる」 優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。 ※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

処理中です...