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第二章 この天賦は誰が為
39.正義に対峙するは悪となるのか
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どうっと大きな音がして、地が揺れた。あたり一面が光りに包まれ、視界が閉ざされる。俺はぐらぐらと揺れる地面から逃れるべく浮き上がり、リザヴェータを探した。
しかし、影すら見当たらない。
魔力を使いすぎたようだ。レストランのときから比べると、話にならないほどの威力だった。防衛魔法で身を守りながら、どこぞへと逃げおおせたのかもしれない。
「くそっ」
不甲斐ない自分に毒づきつつも、アラムのいた地点へ向かう。事前に防御魔法をまとわせていたため、アラムは傷一つ負っていないはずだ。
「アラム……っ」
しかし、あと一歩のところで突然目の前に炎が迫ってきて、まともに食らってしまった。念のために解除していなかった防御によって守られたが、なぜとの驚愕で隙ができた。
続けざまに雷が落ち、がたがたとした振動が身体を貫く。防御魔法を突き破らんばかりの威力だ。
「……本当に、愛する人さえも手にかけるのですね」
轟音の中でもはっきりと聞こえたそれは、リザヴェータの声だった。音は遮断しないよう発動していたためだが、まさかのことに逃げていなかったようだ。
ならばと目視で探そうとするも、目を開けていられない。目がくらむほど続けざまに稲光があたりを覆い、瓦礫と煤の世界が暗転を繰り返している。雷の多重攻撃だ。視認したいのに、視界を塞ぐわけにもいかないし、どうにもできない。
「ベネフィン卿がいらっしゃるというのに攻撃なさるとは……」
声がして、ぱっと目を開けると、粉塵と稲光の収まったそこには、アラムを庇うように立つリザヴェータの姿があった。俺を見る目つきは、敵を見据えるかのごとくだ。
敵はおまえだろ? アラムから離れろよ。かっとなり、リザヴェータの元へと跳躍した。
「近づかないで」
しかし、あと数メートルというところで、壁のようなものに弾かれてしまい、反動で後方へ吹き飛ばされた。
「なんだ?」
痛みをこらえつつすぐに立ち上がり、駆け寄った。しかし、壁はなおもそこにある。アラムがすぐ目の前にいるというのに近づけない。
「……なにこれ?」
体当たりをし、魔法で攻撃をしてみた。なのに、突き破ることができない。繰り返し、どうやっても無理だ。
なぜなのかわからない。困惑に冷や汗がこめかみをつたう。
フョードルやクジマとした模擬戦闘でも、俺の本気を前に破れぬ魔法などなかった。それなのに、なぜ?
「ベネフィン卿がいらっしゃるというのにあのような魔術を向けてこられるとは、死に至らしめても構わないとおっしゃられるのですね」
「アラムのことは防衛魔法で守っている!」
「守るだけではなんの意味もありません。急いで専門的な治療をしなければならないのです!」
リザヴェータは声を荒らげ、再び攻撃魔法をしかけてきた。雷と火、そして風魔法を交えたそれは爆撃のごとくの威力で俺へ届き、弾き飛ばされた。
「なんっ……」
二発目をまともに食らってしまった。しかも、今回は油断によってではない。防衛魔法が破られたのだ。
俺の魔術が効かなかっただけでなく、堅固なはずの防衛が破られるなんて、こんなこと今までに一度もない。
呆然としていると、リザヴェータはアラムへと向き直り、まるで医師のごとく身体を触診し始めた。
「アラムに触るな!」
かっとするも、壁のようなものに拳を叩きつけることしかできない。
いったいこれはなんなんだ? なぜ破れない? そして、なぜ俺の攻撃は阻まれ、リザヴェータのは俺のほうへ届くんだ?
混乱しながらも、俺はめちゃくちゃに魔術を使って、壁を攻撃した。そうする以外、できることはない。リザヴェータを殺すにも、アラムの元へ駆け寄るにも、まずは壁をどうにかしないと先へ進めないのだ。
「リザヴェータ!」
「ロジー」
フョードルやクジマ、エウゲニーやコンスタンティンたちが駆けてきた。リザヴェータのほうへと駆け寄り、アラムを取り囲んでなにごとか魔法を発動させ始めた。
「リザヴェータ、ここはわたしに任せなさい」
フョードルがアラムの治癒を始めたようだ。「わたしも」とクジマも手をかざし、アラムの身体が金色の光に包みこまれた。
見たことのない色に、不安と期待が入り交じる。
フョードルとクジマなら任せていいのか?
「ロジー、降りてきて話をしてよ」
眉尻を下げた顔のエウゲニーが近づいてくる。
「話すってなにを話すんだ?」
「なんでアラムを攻撃したの?」
「俺じゃない! おまえまで俺がやったと決めつけるのか?」
「他に誰がいるっていうの? 痴話喧嘩だとしても命を取るまでキレるのはやりすぎだよ」
「だから俺じゃ……」
視線を感じてふとエウゲニーの後方へ目を向けると、クジマの非難する眼差しと、フョードルの悲しげな目とかち合った。
「ロジオン様、丸腰の国民を殺したともなれば釈明はできかねます。素直に捕縛されていただければ、多少は減刑の対象となりますから」
コンスタンティンが、声と同様に険しい顔で俺を見据えて言う。
「捕縛って俺をか?」
「今のところ死者は出ておりません。ですがここまでの破壊は罪となります。それに、アラムがもし……なぜアラムを攻撃なさったのですか?」
コンスタンティンは絞り出すような声になり、その場に膝をついた。まるで泣き崩れんばかりだが、俺じゃないと何度も言っている。なのに、俺の話を耳に入れてくれないばかりか、誰も彼もが俺の仕業だと決めつけ、なぜと問いかけてくる。
「……ふざけんな」
聞きたいのは俺だ。かっとなった勢いで、渾身の魔力を壁にぶつけた。
「なんなんだよ、これは!」
しかし、やはりというか、どうしたらいいのか、壁はびくともしない。
「……捕縛しようなど、不可能です」
苛立つ俺のまえに、リザヴェータが現れた。母そっくりな顔で、怒りをあらわにしている。
おまえだ。おまえがやったに違いない。殺してやる。俺の手で今度こそ存在を消し去りたい。なのに、できない。頭にくる。唇を噛み、血の味が口内に広がった。
「お兄様は危険です。それほどの魔力を持ちながら、すべてを破壊することにしか使わない方なのですから」
リザヴェータは俺の威嚇を真っ向から受け止め、鷹揚とした動作で両手を広げた。空がずんっと暗くなり、ばちばちと電気を帯びていく。
「……何をするつもりだ」
雨雲が再び日光を塞いだらしい。リザヴェータをまとう光が目に突き刺さらんばかりにまばゆい。
「二度目の過ちを食い止めます。わたしなら、できます」
言って、リザヴェータは跳躍した。
突如雷が落ち、とっさに張った防衛魔法は当たった瞬間に砕け散った。
「……くっ」
舌打ちをする間もなく再び遅い来る。負けじと張った防衛魔法は再び破られた。
信じられないことに、リザヴェータは俺に匹敵する魔力を持っている。あいつも半魔だからかもしれない。しかし、あいつとは母と繋がっているだけだ。ローギンとの血を分けているわけじゃない。
同じ半魔で、しかしリザヴェータは半魔の半魔である。半魔は親の魔力をさらに上回るという。俺とは違ってまじめにリュミトロフでフョードルから魔術を伝授されていた。
つまり、俺より魔力と技術を持つ半魔であるというのか?
十も年下の小娘が?
俺は目の前が暗くなり、防戦に縛られるのは御免だとばかりに攻撃へ転じた。
しかしリザヴェータは埃でも振り払うかのように悠々と弾き飛ばし、浮き上がってどこぞへと飛んでいく。
なにをと俺も飛翔の術で飛び立ち、移動を始めたリザヴェータを追う。
俺が飛翔の術を使えるようになったのは三年前だ。俺の推測を裏付ける能力を見せつけられて、ますます頭に血が上る。
「兄が、世界の敵となるとは思いませんでした」
「……なんだって?」
「世界の敵です。人の命を顧みず破壊のためにご自身の力をお使いになられるなんて、物語に出てくる悪役そのものです。しかも、母と愛する方をその手にかけたのですから」
「……母上のことも、アラムも俺じゃない! 何度も違うと言っているだろ!」
「ベネフィン卿のことは、まだ命を奪ったとは言い切れません。生きておられますから。ですが、お母様はお兄様の魔法によって亡くなられたのです。十歳だったのですから、覚えておいででしょう?」
リザヴェータから嘘をつくなとばかりに睨まれ、頭を振る。
違う。違う。違う。
あれは記憶なんかじゃない。幻想だ。腹を割かれたところまでは現実に起きたことだが、縫合されてまではいない。フョードルと向き合いながら腕のなかの赤ん坊を愛おしげに撫でていた母は、あの場面は現実に起きたことじゃない。
もし、そうであったらと考えた、俺の悪夢だ。
「……世界の敵でいい。誰も信用してくれないのは、俺がおまえたちの敵となっているからなんだろう。ただ、アラムだけは違う。アラムは俺の味方で、俺を愛してくれている」
「ええ。なのに攻撃なさったのですから、捕縛なんかでお兄様を抑えるのは不可能なのです。説得しても聞き入れてくださらないとなれば、排除という手段を選ぶことは致し方ないことなのです」
覚悟を決めた顔で言ったリザヴェータは、まるで物語のヒーローのようだった。勇ましく、女でありながら雄々しく見える。正義の味方のごとく世界を背負っているかのようで、俺を見据える眼差しは、悪に立ち向かうそれだ。
俺は彼らの敵であり、悪ということになるらしい。
だから、殺意を持って攻撃するという。
「あなたにお会いする今日を、心待ちにしておりました……それなのに……」
涙ぐみながら言ったリザヴェータは、空を暗転させ、ばちばちと猛る光の矢を俺に向けて放った。
確かに世界なんてどうだっていい。俺にとって大切なのはアラムだけだ。
リザヴェータからの攻撃を捉えるべく、俺もと攻撃魔法を放った。
アラムがいないなら、へたな加減は要らない。
光は轟音を鳴らして正面からぶつかり、あたりに放射した。熱と風があたりに注がれ、防御魔法を突き破る。
あちこちに衝撃が走るも、神経はリザヴェータにだけ向いているため、なにも感じない。身体は火照り、生ぬるい雫が伝う。
世界など壊れてしまえ。
アラム以外の人間が生きていようがどうでもいい。俺を信じようとしないばかりか、あろうことかアラムを攻撃したなどとのたまうやつらなのだから。
アラムを傷つけたこの女さえ死んでくれるならと考えた。でも今は、なにもかもどうでもいい。知ったことか。
ヒエスラも、リュミトロフも、エズラにあるすべてを、ぶち壊してやる。
しかし、影すら見当たらない。
魔力を使いすぎたようだ。レストランのときから比べると、話にならないほどの威力だった。防衛魔法で身を守りながら、どこぞへと逃げおおせたのかもしれない。
「くそっ」
不甲斐ない自分に毒づきつつも、アラムのいた地点へ向かう。事前に防御魔法をまとわせていたため、アラムは傷一つ負っていないはずだ。
「アラム……っ」
しかし、あと一歩のところで突然目の前に炎が迫ってきて、まともに食らってしまった。念のために解除していなかった防御によって守られたが、なぜとの驚愕で隙ができた。
続けざまに雷が落ち、がたがたとした振動が身体を貫く。防御魔法を突き破らんばかりの威力だ。
「……本当に、愛する人さえも手にかけるのですね」
轟音の中でもはっきりと聞こえたそれは、リザヴェータの声だった。音は遮断しないよう発動していたためだが、まさかのことに逃げていなかったようだ。
ならばと目視で探そうとするも、目を開けていられない。目がくらむほど続けざまに稲光があたりを覆い、瓦礫と煤の世界が暗転を繰り返している。雷の多重攻撃だ。視認したいのに、視界を塞ぐわけにもいかないし、どうにもできない。
「ベネフィン卿がいらっしゃるというのに攻撃なさるとは……」
声がして、ぱっと目を開けると、粉塵と稲光の収まったそこには、アラムを庇うように立つリザヴェータの姿があった。俺を見る目つきは、敵を見据えるかのごとくだ。
敵はおまえだろ? アラムから離れろよ。かっとなり、リザヴェータの元へと跳躍した。
「近づかないで」
しかし、あと数メートルというところで、壁のようなものに弾かれてしまい、反動で後方へ吹き飛ばされた。
「なんだ?」
痛みをこらえつつすぐに立ち上がり、駆け寄った。しかし、壁はなおもそこにある。アラムがすぐ目の前にいるというのに近づけない。
「……なにこれ?」
体当たりをし、魔法で攻撃をしてみた。なのに、突き破ることができない。繰り返し、どうやっても無理だ。
なぜなのかわからない。困惑に冷や汗がこめかみをつたう。
フョードルやクジマとした模擬戦闘でも、俺の本気を前に破れぬ魔法などなかった。それなのに、なぜ?
「ベネフィン卿がいらっしゃるというのにあのような魔術を向けてこられるとは、死に至らしめても構わないとおっしゃられるのですね」
「アラムのことは防衛魔法で守っている!」
「守るだけではなんの意味もありません。急いで専門的な治療をしなければならないのです!」
リザヴェータは声を荒らげ、再び攻撃魔法をしかけてきた。雷と火、そして風魔法を交えたそれは爆撃のごとくの威力で俺へ届き、弾き飛ばされた。
「なんっ……」
二発目をまともに食らってしまった。しかも、今回は油断によってではない。防衛魔法が破られたのだ。
俺の魔術が効かなかっただけでなく、堅固なはずの防衛が破られるなんて、こんなこと今までに一度もない。
呆然としていると、リザヴェータはアラムへと向き直り、まるで医師のごとく身体を触診し始めた。
「アラムに触るな!」
かっとするも、壁のようなものに拳を叩きつけることしかできない。
いったいこれはなんなんだ? なぜ破れない? そして、なぜ俺の攻撃は阻まれ、リザヴェータのは俺のほうへ届くんだ?
混乱しながらも、俺はめちゃくちゃに魔術を使って、壁を攻撃した。そうする以外、できることはない。リザヴェータを殺すにも、アラムの元へ駆け寄るにも、まずは壁をどうにかしないと先へ進めないのだ。
「リザヴェータ!」
「ロジー」
フョードルやクジマ、エウゲニーやコンスタンティンたちが駆けてきた。リザヴェータのほうへと駆け寄り、アラムを取り囲んでなにごとか魔法を発動させ始めた。
「リザヴェータ、ここはわたしに任せなさい」
フョードルがアラムの治癒を始めたようだ。「わたしも」とクジマも手をかざし、アラムの身体が金色の光に包みこまれた。
見たことのない色に、不安と期待が入り交じる。
フョードルとクジマなら任せていいのか?
「ロジー、降りてきて話をしてよ」
眉尻を下げた顔のエウゲニーが近づいてくる。
「話すってなにを話すんだ?」
「なんでアラムを攻撃したの?」
「俺じゃない! おまえまで俺がやったと決めつけるのか?」
「他に誰がいるっていうの? 痴話喧嘩だとしても命を取るまでキレるのはやりすぎだよ」
「だから俺じゃ……」
視線を感じてふとエウゲニーの後方へ目を向けると、クジマの非難する眼差しと、フョードルの悲しげな目とかち合った。
「ロジオン様、丸腰の国民を殺したともなれば釈明はできかねます。素直に捕縛されていただければ、多少は減刑の対象となりますから」
コンスタンティンが、声と同様に険しい顔で俺を見据えて言う。
「捕縛って俺をか?」
「今のところ死者は出ておりません。ですがここまでの破壊は罪となります。それに、アラムがもし……なぜアラムを攻撃なさったのですか?」
コンスタンティンは絞り出すような声になり、その場に膝をついた。まるで泣き崩れんばかりだが、俺じゃないと何度も言っている。なのに、俺の話を耳に入れてくれないばかりか、誰も彼もが俺の仕業だと決めつけ、なぜと問いかけてくる。
「……ふざけんな」
聞きたいのは俺だ。かっとなった勢いで、渾身の魔力を壁にぶつけた。
「なんなんだよ、これは!」
しかし、やはりというか、どうしたらいいのか、壁はびくともしない。
「……捕縛しようなど、不可能です」
苛立つ俺のまえに、リザヴェータが現れた。母そっくりな顔で、怒りをあらわにしている。
おまえだ。おまえがやったに違いない。殺してやる。俺の手で今度こそ存在を消し去りたい。なのに、できない。頭にくる。唇を噛み、血の味が口内に広がった。
「お兄様は危険です。それほどの魔力を持ちながら、すべてを破壊することにしか使わない方なのですから」
リザヴェータは俺の威嚇を真っ向から受け止め、鷹揚とした動作で両手を広げた。空がずんっと暗くなり、ばちばちと電気を帯びていく。
「……何をするつもりだ」
雨雲が再び日光を塞いだらしい。リザヴェータをまとう光が目に突き刺さらんばかりにまばゆい。
「二度目の過ちを食い止めます。わたしなら、できます」
言って、リザヴェータは跳躍した。
突如雷が落ち、とっさに張った防衛魔法は当たった瞬間に砕け散った。
「……くっ」
舌打ちをする間もなく再び遅い来る。負けじと張った防衛魔法は再び破られた。
信じられないことに、リザヴェータは俺に匹敵する魔力を持っている。あいつも半魔だからかもしれない。しかし、あいつとは母と繋がっているだけだ。ローギンとの血を分けているわけじゃない。
同じ半魔で、しかしリザヴェータは半魔の半魔である。半魔は親の魔力をさらに上回るという。俺とは違ってまじめにリュミトロフでフョードルから魔術を伝授されていた。
つまり、俺より魔力と技術を持つ半魔であるというのか?
十も年下の小娘が?
俺は目の前が暗くなり、防戦に縛られるのは御免だとばかりに攻撃へ転じた。
しかしリザヴェータは埃でも振り払うかのように悠々と弾き飛ばし、浮き上がってどこぞへと飛んでいく。
なにをと俺も飛翔の術で飛び立ち、移動を始めたリザヴェータを追う。
俺が飛翔の術を使えるようになったのは三年前だ。俺の推測を裏付ける能力を見せつけられて、ますます頭に血が上る。
「兄が、世界の敵となるとは思いませんでした」
「……なんだって?」
「世界の敵です。人の命を顧みず破壊のためにご自身の力をお使いになられるなんて、物語に出てくる悪役そのものです。しかも、母と愛する方をその手にかけたのですから」
「……母上のことも、アラムも俺じゃない! 何度も違うと言っているだろ!」
「ベネフィン卿のことは、まだ命を奪ったとは言い切れません。生きておられますから。ですが、お母様はお兄様の魔法によって亡くなられたのです。十歳だったのですから、覚えておいででしょう?」
リザヴェータから嘘をつくなとばかりに睨まれ、頭を振る。
違う。違う。違う。
あれは記憶なんかじゃない。幻想だ。腹を割かれたところまでは現実に起きたことだが、縫合されてまではいない。フョードルと向き合いながら腕のなかの赤ん坊を愛おしげに撫でていた母は、あの場面は現実に起きたことじゃない。
もし、そうであったらと考えた、俺の悪夢だ。
「……世界の敵でいい。誰も信用してくれないのは、俺がおまえたちの敵となっているからなんだろう。ただ、アラムだけは違う。アラムは俺の味方で、俺を愛してくれている」
「ええ。なのに攻撃なさったのですから、捕縛なんかでお兄様を抑えるのは不可能なのです。説得しても聞き入れてくださらないとなれば、排除という手段を選ぶことは致し方ないことなのです」
覚悟を決めた顔で言ったリザヴェータは、まるで物語のヒーローのようだった。勇ましく、女でありながら雄々しく見える。正義の味方のごとく世界を背負っているかのようで、俺を見据える眼差しは、悪に立ち向かうそれだ。
俺は彼らの敵であり、悪ということになるらしい。
だから、殺意を持って攻撃するという。
「あなたにお会いする今日を、心待ちにしておりました……それなのに……」
涙ぐみながら言ったリザヴェータは、空を暗転させ、ばちばちと猛る光の矢を俺に向けて放った。
確かに世界なんてどうだっていい。俺にとって大切なのはアラムだけだ。
リザヴェータからの攻撃を捉えるべく、俺もと攻撃魔法を放った。
アラムがいないなら、へたな加減は要らない。
光は轟音を鳴らして正面からぶつかり、あたりに放射した。熱と風があたりに注がれ、防御魔法を突き破る。
あちこちに衝撃が走るも、神経はリザヴェータにだけ向いているため、なにも感じない。身体は火照り、生ぬるい雫が伝う。
世界など壊れてしまえ。
アラム以外の人間が生きていようがどうでもいい。俺を信じようとしないばかりか、あろうことかアラムを攻撃したなどとのたまうやつらなのだから。
アラムを傷つけたこの女さえ死んでくれるならと考えた。でも今は、なにもかもどうでもいい。知ったことか。
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