生真面目彼女は異世界で自立を目指す

氷雨

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1章

3「副団長は魔王様」

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 「副団長!ついに我が国に『異邦人』様がいらっしゃいました!」
 敬礼をしながら壮絶な美貌の騎士へ報告するリース。


 「・・・『異邦人』?」
 眉を寄せリースの報告を耳にいれつつ、副団長の視線は朔夜を射抜く。


 「はい!こちらの女性です。『異邦人』様と言えば男性という歴史が覆されますね。しかし、異世界にお住まいという『異邦人』様とて人間であるならば、確かに女性の『異邦人』様もあり得るはずです。なぜこれまで誰も気が付かなかったのか・・・・」
 興奮したリースは副団長に熱弁を続ける。
 

 「(確かに、見かけない服装だ・・・。間者にしては隙がありすぎる)」
 話半分にリースの報告を耳にいれつつ、リースが示す『異邦人』の女に目をやる。
 座り込み震えながらこちらを見つめる女は、他国のスパイには到底見えなかった。
 ふむ、と長い指を整った顎にあて考え込む。
 


 「・・・・300年前はラグン王国、550年前はロワルド連合と北方の地域での来訪が相次ぎましたね。我が国にとっては初めての『異邦人』様!これで他国も大きな顔はできませんよ。それにしても・・・・」
 まくしたてるようにリースは話し続けるが、誰もその話は聞いていなかった。




 「(うっわあ・・・・同じ人間とは思えない・・・)」
 ギリシャ彫刻みたいだとついつい見つめてしまう。
 モデルみたいだが、副団長と呼ばれるならば偉いのだろうか?
 

 
 「!!!」
 ぼんやりとしていた朔夜の首に、スッと剣が添えられる。
 さぁっと血の気が引く。

 「(こ、殺される・・・?)・・・っひ」
 逃げたい。逃げたい。逃げたい。
 しかし、青い瞳に縫い付けられたように体が動かない。
 後ずさりすらできず震えながら見上げる朔夜。



 「副団長!!!???」
 悲鳴をあげるようにリースが叫ぶ。


 「黙れ。不審者には尋問をする必要がある」
 抑揚のない低い声。動かない表情。
 美しい彫像のような美貌が冴える。


 「名を言え」
 凛とした声が響き渡る。
 ざわめいていた周囲の騎士も総じて固まる。


 「あっ・・・・つ、月海朔夜、です」
 絞り出した声は酷く震えていた。


 「どこから入り込んだ。国境付近であり一般人は近寄らない」
 眉ひとつ動かさず質問が重ねられる。
 嘘をつこうものなら即座に切り捨てるという意思を感じる。




 「・・東京の、マンションの、階段から転んで・・・その、森に、えっと・・・」
 尻すぼみになる言葉。
 自分で話しながら信じられない事実。
 
 殺される。殺される。殺される。
 何もわからず、何もわかってもらえないまま。
 
 「嘘じゃ、嘘じゃないです。・・・・ほんとうに、わからなくて・・・」
 嗚咽が混じりながら精一杯伝える。
 震えも涙も止まらないけれど、せめてしっかり前を向きながら。




 「・・・・・・・」
  


 言葉を発さず微動だにしない副団長と、ぷるぷると縮こまる朔夜を見比べながら、どうしたものかとリースは思案する。
 
 

 そこへ。
 「おい?アデルバート、どうした?」
 煌めく金髪、意思の強さを示す琥珀の瞳。体格の良い男がまた一人近づいてくる。
 穏やかな落ち着いた声が、冷え冷えとした雰囲気を取り払う。
 

 副団長が氷の魔王であるならば、まるで太陽神のような男である。
 華やかに整った顔立ちをしており、周囲に明るい雰囲気が広がる。



 「・・・ニール団長。不審者を尋問しておりました」
 冷徹な声で返答する副団長、アデルバート。
 朔夜の首には切っ先が添えられたままであり、驚いたような目でニールが茫然としている朔夜を見る。



 「不審者?ここでか?」
 言外にこんなところに忍び込んでも何もないだろうに、という気持ちを滲ませながらニールは呟く。


 「団長!その女性は『異邦人』様であると思うのです!」
 救世主がきた!と言わんばかりにリースが大声で報告する。
 


 「ほう・・・。『異邦人』?アデルバート、剣を収めろ」
 『異邦人』であろうとあるまいと、目の前で震えている女は警戒に値しないと判断するニール。


 「・・・」
 アデルバートは大人しく控えにまわる。
 その目線は朔夜を突き刺しながら。



 「さて、お嬢さん。とりあえず、怪我はないか?」
 アデルバートの様子に苦笑しながら、ニールはしゃがみ、真っ青な顔をしている朔夜と目線を合わせる。
 

  
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