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1章

4「名実ともにお荷物」

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 「ぁ・・・・・・」
 しゃがみこんで朔夜を安心させるようにニールは微笑むが、怯えきった朔夜ははくはくと口を動かすだけであった。

 
 「(アデルバートのやつ、脅しすぎだろう・・・・)」
 どうしたものかと朔夜を見やるニール。
 どう見ても一般人の彼女には、アデルバートの殺気が効きすぎたようだ。


 「その!団長、『異邦人』様は足をかばっていらっしゃいました。」
 朔夜をここまで連れてきた団体の内の一人が、ニールに報告をする。
 
 髪色も瞳の色も優しそうなブラウンの騎士。
 心配そうに朔夜を見る彼と目が合った。

 目がクリッとした若い騎士。
 「(なんなんだ、イケメンばかり!)」
 周囲の顔面偏差値が高いことを認識しつつある朔夜は、思わず心の中で愚痴ってしまう。




 「おっと、そうなのか。テントの中でちゃんと手当てをしよう。安心してくれ」
 とはいうものの怯えるだろうと思案しつつ、ニールは救護者用のテントを彼女専用とするべく周囲への指示の内容を考える。



 「団長。私は医師の資格もあります。救護者テントにて手当てをいたしましょう」
 無感情なアデルバートの声が響く。
 拒否もされないと考えているのか、アデルバートはニールの許可を待つことなく朔夜に向き合う。



 「失礼」
 
 「・・・・・・!!???」
 戸惑う朔夜を横抱きに抱え、そのままテントに向かって歩き出すアデルバート。


 自分の顔の近くに彫刻のような美貌があるものの、殺されかけたイメージが強いため朔夜は固まる。
 「(うわ・・・・お姫様抱っこ?・・・このまま落とされて踏まれそう・・・)」
 失礼なことを考えつつ、大人しくアデルバートに運ばれる。



 「お、頼むぞ。少し時間を置いたら俺が向かう。」
 怯えきった朔夜を任せることに対して若干不安は残るものの、アデルバートが医師でもあることは事実。
 早めに顔を見せれば問題ないだろうとニールは結論付ける。




 「とりあえず、彼女を発見した部隊は俺に詳細を報告しろ」
 さて、彼女が本当に『異邦人』であるのか。
 どちらであろうと国王や宰相への報告しなくてはならない。一般人が近寄らないはずの国境付近に現れてしまったのだから。
 忙しくなるな、と口の中で呟く。





 ストンと天幕の中、無造作に積まれた箱の上におろされる。
 その手つきは驚くほど優しげなものであり、朔夜は緊張がだんだんとほぐれてきた。
 「どちらの足が痛みますか?」
 アデルバートは跪きながら包帯等の用意を始める。


 淡々とした言い方ではあるものの、命令口調がなくなったことに安心する。
 「えっと、右足です・・・」 
 声はまだ震えてしまう。彼は向けていないだけで、剣を持っている。
 首にあてられた冷たい感触を思い出して身を震わせる。


 「消毒をし、包帯を巻きます。痛みが耐えられなかったら言ってください」
 痛みで朔夜が震えたと思ったのか、アデルバートが声をかけてくる。

 
 こくこくと頷きながらアデルバートの手元を見てしまう。
 「(お医者さんって本当なんだ・・・・。手際がいい。)」
 特段痛みも感じずに足首を固定してもらう。


 痛みもおさまり、少し自分のことを考える余裕ができてきた。


 
 「(さっきの男の人、『異邦人』って呼んでいた・・・。異世界って・・・。)」
 また階段から落ちれば帰れるのだろうか。
 何の変哲もないマンションが無性に懐かしい。

 「(300年前とか、500年前とか。他に『異邦人』がいても会えないのかな・・。)」
 皆この世界で生きて、死んだのだろうか。
 そんなこと、受け入れられない。諦められない。信じられない。


 家族友人恋人。大切な人たちの笑顔が頭に浮かぶ。
 
 落ち着いたら『異邦人』に詳しそうなさっきの人に聞いてみようかな。
 ・・・・ちょっと勢いがあって怖かったけれど。



 じっと考え込んでいる朔夜の様子を観察しているアデルバート。
 手だけは滑らかに動き続け、完全に固定する。
 「終わりました。痛みはどうですか」
 目線が合う。

 「!大丈夫です、ありがとうございます」
 ハッと意識を戻し、慌ててお礼を言う。
 さっきまでじくじくと痛んでいた足首は、清潔な包帯にくるまれていた。 
 動かしても痛みは生まれない。

 
 少し冷静になると、この凄まじい美形を跪かせて手当てをしてもらったことが恥ずかしくなってくる。
 目線をうろうろさせる朔夜。

 汚い泥だらけの足を消毒させてしまった。
 溢れてくる気恥ずかしさをどうにもできず俯いてしまう。



 そこへ。天幕の外から呼びかける声。
 「おーい、大丈夫か?」
 これまでの状況を大凡把握したニールがやってきた。


 「団長、問題ありません」
 アデルバートは天幕を開けながら返答をする。


 アデルバートが背を向けたため、朔夜はほうっと息をつく。
 美形すぎて心臓に悪い。


 先ほど変わらず暖かな雰囲気を持つニール。
 「うっし。お嬢さん、怪我は大丈夫か?野営中でな、大したものもないんだが、これでも飲んでくれ」
 差し出されたものは白湯。
 

 「だ、大丈夫です。ありがとうございます。・・・・美味しいです」
 身も心も冷え切っていた。
 じんわりと暖かさが浸み込む。
 
 思っていたよりも精神的にきていたのであろう。
 お湯をこんなに美味しく感じる日が来るとは。感動してしまう。



 先ほどよりも表情が和らいできた朔夜をみて、ニールも顔を綻ばせる。
 「さて・・・お嬢さん。君の話をしようか」
 ビクッと肩を揺らせる朔夜を落ち着かせるように、穏やかに笑いながら本題に切り込む。
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