生真面目彼女は異世界で自立を目指す

氷雨

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1章

5「海外旅行の前に異世界へ」

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 「まずは、うちの団員が驚かせて悪かったな」
 申し訳ない、と頭を下げるニール。
 頭を下げたニールを見て、後ろに控えるアデルバートは若干目を見開く。


 「!!!??いえ、いえいえ。そんな、頭をあげてください・・・。私が、きっと、私有地に入ってしまったんですよね?こちらこそ、ごめんなさい」
 ぶんぶんと手を振りながら朔夜は慌てて謝罪を返す。
 誰しも自分の敷地に無断で入られたら警戒するだろう。
 のほほんとしてしまった自分が悪い。

 というかイケメンに謝られるのはなんだか忍びない。

 
  

 朔夜の言葉に苦笑するニール。やはり、彼女は何も知らない様子。
 「お嬢さん、お名前はツキウミサクヤ殿、だったかな?俺は、ニール・ヴィリアーズ。騎士団の団長を務めている。後ろのやつが副団長のアデルバート・ハノーヴァだ」
 宜しくなと微笑みながら手を差し出すニール。
 アデルバートは紹介に合わせてスッと一礼をする。


 「えっと、ツキウミが姓でサクヤが名前です。色々とありがとうございます」
 おずおずと手を差出返しながら挨拶をする。
 いちいち絵になる人達だな、という感想を抱く。



 「サクヤ殿か。部下から聞いたが、トウキョウという所から来たんだよな?」
 言い辛そうに確認をするニール。


 「あ、そ、そうです。えっと、ここは、どこでしょう・・・?」
 心臓がバクバクと音を立てる。
 聞きたくないという思いと聞きたいという思い。
 


 ぎゅっと手を握りしめた朔夜の様子を見て、ニールは気の毒そうな表情を浮かべる。
 「サクヤ殿。ここはリオネルド王国だ。ロワルド連合との国境に近い。」
 地理選択で大学受験をした朔夜にとって全く聞きなれない国名。


 「それでな、我々の世界には数百年に一度、異なる世界から『異邦人』がやってくる、という伝承があるんだ」
 ニールは血の気が引いている朔夜の顔を見つめつつ、一度言葉を切る。


 「い、異邦人・・・」
 そんな伝承、聞いたこともない。
 

 「サクヤ殿。我々はトウキョウという地を知らない。・・・あなたは『異邦人』ではないかと考えている」
 遠くから響くようなニールの声。


 「そう・・・ですか・・・。わた、私は、どうしたら・・・・なんで・・・」
 ぐわんぐわんと目の前が揺れるよう。
 どうにか言葉を絞り出す。

 平々凡々な自分。 
 特段の取り柄もなく、普通に生活をしているだけの毎日。
 たいそうなことなど何も出来ない。


 「サクヤ殿、大丈夫だ。とりあえず、国境近くは安全とは言えない。我々が護衛して王都までお連れする。なに、『異邦人』を迫害しようとする奴はいない。あ~・・・リースは特殊だが、うん、基本的には普通に歓迎される。大丈夫だ」
 若干変人気質のある部下が思い浮かぶも、『異邦人』であることで害となることはない。
 騎士団にとっても王族と並ぶ程の警護対象だ。
 優れた視点で富をもたらす。『異邦人』とはそのような存在だと考えられている。



 「はい・・・・・・。ありがとう、ございます・・・」
 覇気なく返答する朔夜。
 結局自分はどうなるのだろう。
 ・・・・帰れるのだろうか。
 (・・・・帰れないのだろう。)


 頭のどこかで冷静な自分の声がする。
 生まれ育った世界との唐突な離別。


 「サクヤ殿。お疲れだろう。出発は明日の朝となる。粗末で恐縮だが寝床を整えたので案内しよう」
 ニールは朔夜の混乱が少しでも落ち着くようにと、ゆっくりと穏やかに声をかける。
 

 「足を痛めていたのだったな・・・。失礼」
 返事がない朔夜を軽々とニールは抱える。
 整理がつかないのか、虚ろな目をした朔夜。ニールに抱えられたことにも気づいていない様子である。
 
 

 
 「(突然、だよなあ・・・)」
 平和な世界で生きていたのであろう彼女。
 現実を受け止めるには時間が必要であろう。


 朔夜を抱えて隣の天幕に移動するニール。
 アデルバートは先行して動き、天幕を開ける。


 「おう。助かる」
 細くて軽い朔夜。
 明日からの移動は耐えれるのだろうか、と不安になりつつニールは朔夜を毛布の上へと下す。


 
 「あっ・・・・ありがとうございます」
 ハッと朔夜はお礼を言う。
 
 「(うわわわわわ・・・・・意識してなかったけれど団長さんにも運んでもらってしまった・・・・・)」
 あわあわと今更震える。
 

 「いやいや。明日はな、」
 移動時間が長いからゆっくり休んでくれ、と言いかけたとき。


 「団長!『異邦人』様の鞄をお持ちいたしました!」
 天幕の外から声がかかる。


 「アインか。入れ」
 ニールの返事とともに、アデルバートがアインを中に入れる。


 「(あっ、さっき足が痛いのに気付いてくれた方だ・・・)」
 くりくりとした目。
 年の近そうな青年の爽やかな笑顔に、朔夜の緊張が薄まる。


 「『異邦人』様。こちらです」
 ニコニコとした雰囲気につられ、朔夜も笑みを浮かべる。
 

 「(そうだ、鞄思わず落としちゃっていた。)ありがとうございます。良かった・・・」
 ほっと笑う朔夜。
 そんな朔夜を見てますますニコニコするアイン。


 幼い様子の二人を見て苦笑しつつ、ニールは声をかける。
 「アイン、『サクヤ』殿だ。団員には知らせておけ。サクヤ殿、明日は移動ばかりだ。ゆっくり休んでくれ。」
 
 「!失礼いたしました、サクヤ様」
 しまった、と顔を引き締めるアイン。


 「・・・サクヤ殿。水をこちらに置いておきましょう。ご自由に」
 アインを呆れたように見つめるアデルバート。サクヤの手が届く場所に水筒のようなものを置く。


 「み、皆様。ありがとうございます」
 姿勢を正して深々と頭を下げる朔夜。
 全く現状は理解出来ないが、とりあえず命の問題はなく、配慮してくれる彼らには感謝している。



 「気にしないでくれ。それではな」
 目に生気が戻ってきた朔夜の様子に安心しつつ、ニール達は天幕の外に出る。


 「アイン、このままサクヤ殿の警護につけ。天幕には誰も近寄らせるな。・・・・特にリースだな」
 流石に近づかないとは思うものの、何かあったら困る。
 精一杯前を向いているものの今の朔夜は脆い。


 「はっ!」
 敬礼をし、天幕の出入り口に待機するアイン。
 柔らかな笑みを浮かべた朔夜を思い出しながら気を引き締める。


 「リースには王都への伝令をさせました」
 しれっとした顔でニールへ報告するアデルバート。
 若干顔を引きつらせつつ、ご苦労、としか言えないニールであった。





 「・・・・・・ぅぇ・・」
 一人になり、冷静に涙が滲んでくる。
 泣いても仕方ない。
 そうは思いつつ溢れてくる。


 「・・・・寝ないと」 
 ゆっくり眠る気分ではなかったが、身も心も疲れていた。
 毛布をかぶり、目をつむる。
 あっという間に朔夜は深い眠りに落ちた。
 
 
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