聖女と王子は離縁を前提とした契約結婚をする事にした

花見 有

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第27話 契約は……

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 祝賀舞踏会の前夜、エリックとカレンは緊張した面持ちで向かい合って座っていた――

「ハァ。どうして、明日は祝賀舞踏会だっていうのに、また怪し気な立ち会いを任されなきゃならないんだよ」

 とデヴォンが呆れ顔でため息を吐いた。

 テーブルの上には二人が結婚する前に交わした契約書が置かれている。

「この契約書を保管していたのはお前なんだから、お前が立ち会わなくて、誰が立ち会うんだよ」

 とエリックが言うとカレンも

「私達以外にはデヴォンしかこの事を知らないんだから、仕方がないわ」

 と言った。

 そして、オッホンとわざとらしい咳払いをするとエリックが話し始めた。

「約束通り、魔王は倒した」

「ええ、倒したわね」

 そして、エリックはスーッと契約書の文字をなぞると言った。

「これで、残すは離縁を成立させれば契約は完了する……」

 両者は視線を合わせる事も出来ず重たい沈黙が続く。
 それは、どちらも離縁しようと言い出せないからだ。

 カレンはエリックが何を考えているのか分からず、不安で押しつぶされそうだった。

 エリックが何を考えているのか知りたいけど、目を合わせたら、エリックに離縁しようと言われてしまうかもしれない……。怖くて顔を上げられない。

 一方、この場にカレンを呼んだのはエリックだった。明日のカレンのお披露目を前に、離縁をしなければいけなかったからだ。
 エリックはカレンと結婚していても、今後、爵位の高い娘を側妃にして、子を授かるつもりでいる。それが嫌だからカレンは離縁を前提として魔王を倒すまで結婚してくれていたのだ。ならば、自分がちゃんと離縁を言い渡さねばならない。

 しかし、エリックはどうしても離縁を切り出せないでいた。

 すると、二人を見かねたデヴォンが契約書を手に取ると突然ビリビリと破り始めた。

「デヴォン!何をしてるんだ!?」「ちょっと!何してるのよ!」

 二人の言葉も気にする事なくデヴォンは契約書をビリビリに破り終わると、手の中の契約書をパッと紙吹雪のように手放した。そして、ヒラヒラと舞う紙吹雪を背に

「あ、すみません。契約書、間違えて破いちゃったんで、契約は無効ですね」

 と言ってニッコリと笑った。

「は!?」「え!?」

 突拍子もない事を言い出したデヴォンに二人は目を丸くして固まった。

「フッ。二人とも同じ顔してますよ」

 とデヴォンが笑うと二人はゆっくりとお互いの顔を見合わせた。

 目を丸くして、口を半開きにした顔にお互いが吹き出した。

 そして、アハハハと二人の笑い声が部屋に響く。
 次には2人の目が合ってスッと笑いが消えた。

 契約書は関係ない離縁すると言われたらどうしよう。

 とカレンは思わずエリックから目を逸らした。

 すると、今度は鼻を啜る声が聞こえ、見ればエリックが下を向いて額に手を当て泣いていた。そして、エリックは涙ながらに話し始める。

「俺の母親は伯爵家の出だったから、父と結婚しても身分が低い事を理由に苦労していたんだ。特にジョアンナは自身が公爵の娘だからとやりたい放題に嫌がらせをしていた。子供の俺でも気付くくらいにな……。そして、母さんは心労を重ねて亡くなったんだ。父は再婚を渋っていたが、シーリー公爵が無理矢理、ジョアンナとの再婚を押し通した。父も……下手に違う女性を側妃にしてもまたジョアンナからの嫌がらせがある事は分かっていたから、そこは政略結婚として割り切ったんだろう」

 エリックの話しにカレンは黙って頷いた。

「しかし、ヴァーンが生まれて状況が変わった。ジョアンナはあからさまに俺を潰しにかかってきた。でも俺もジョアンナの思い通りにはなりたくなくて、母さんの無念を晴らしたくて、自分がなんとしても国王になってやると思ったんだ。貴族の社会では爵位が大きな力になる。だから、俺も結婚するのなら、身分の高い娘とこの血を繋げる為だけに結婚すればいいと思っていた。そこに、魔王が復活して、聖女が……カレンが現れた。聖女と結婚して、魔王を倒せば、俺は確実に国王になれると思った。でもカレンは平民の出で……」

 エリックは首を横に振ると言った。

「あの時は、カレンも身分の事で嫌な思いをする事になるだろうし、王宮から離れた場所で、のんびりと好きな事をして暮らして貰おうと思った。カレンとの子を望まなかったのは、俺と同じような思いをする事になると思ったから……。あの時はカレンに嫌な思いをさせたと思う。だが、あれでカレンも魔王討伐後に離縁すると言ってくれた事は、俺には都合が良かったんだ。すまない……」

 とエリックはカレンに謝った。そして、その言葉の意味をカレンは理解した。

「分かったわ」

 やっぱり、離縁はしなければならないのだ。エリックは私やその子にエリックのお母様やエリックのような思いをさせたくないから、あんな事を言ったんだって、それが分かっただけでも……、エリックが私を蔑ろにする為にあんな事を言ったんじゃなかったって分かっただけでも良かったじゃない……。

 カレンは涙を拭くと、席を立とうとした。
 すると、エリックが立とうとしたカレンの手を掴むとカレンを見つめた。

「悪い、カレン。でも、君の事が好きなんだ。離してやれない……」

 涙ながらにそう言ったエリックに、カレンの目からも涙が溢れる。

「王族の血を絶やす事は出来ない。もしかしたら、君に嫌な思いをさせることになるかもしれない。身分の事をとやかくいわれて、君や子供に嫌な思いをさせることになるかもしれない……」

 エリックは苦しそうにそう言った。

「それでも、もう君の事をどうしても離してやれないんだ……。すまない……」

「うん……。私も……エリックが好きよ」

「カレン……」

 エリックは思わずカレンを抱きしめた。

「カレン、カレン……」

 そして、何度もカレンの名を呼ぶ。カレンはそれに答えるように、強くエリックを抱きしめ返した――


 ◇◆◇


 そして、翌日の祝賀舞踏会では、楽しそうにダンスをするエリックとカレンの姿があった。

「やっぱり、カレンはダンスの才能があるよ」

「フフッ。でも、まだ今はエリックのダンスに付いてくのが精一杯だから、ダンスの練習も付き合ってくれる?」

「ああ、もちろん」

 そう言って微笑みあい、ダンスを終えて最後の礼をした王子夫妻に王宮は割れんばかりの拍手が沸き起こった――


 舞踏会を終えて、部屋に戻ったエリックとカレンにヘイリーが言った。

「今日はお疲れ様でした。それでは、ゆっくりお休み下さいね」

 すると続いてデヴォンが

「もう、変な契約を交わさないでくれよ」

 と言って意地悪く笑うとヘイリーが「変な契約ってなんの事?」と言うのを誤魔化しながら、二人は部屋を出て行った。

「エリックとデヴォンってやっぱり、似てるね。さっきの意地悪く笑う顔とかそっくり」

 と言ってカレンが笑うと

「え?まあ、従兄弟だし、デヴォンには世話になったからなぁ。母さんが亡くなって落ち込んでた時に、ずっと一緒にいてくれたのもデヴォンだったし」

 と懐かしむように言って、隣に座るカレンの腰を抱いた。

「所で……、今日も俺はソファで寝ないといけないのか?」

 と聞いてきた。
 王宮で二人が同じ部屋で寝るのは、結婚した日の夜以来であった。

「そうしてって言ったら、ソファで寝るの?」

 とカレンがすぐ横にあるエリックの顔を見ると、エリックは意地悪く笑ってカレンに口付けた。

「いや、今日は絶対に一緒だ」

 そう言って、エリックはもう一度カレンに口付けた。そして、二人は一緒のベッドで朝を迎えたのだった――


 ◇◆◇



「兄さん、もうすぐ国民に挨拶の時間だよ」

「ああ、ヴァーン。分かったよ」


 今日、エリックは新国王となった――

 先程、戴冠式を終えこれからテラスで国民に向けての挨拶をする事になっている。

 ヴァーンは今、エリックの臣下として働いている。
 二人の妹はそれぞれ結婚して王宮を出たが、今も仲良く、今日も兄の戴冠式に駆けつけてくれた。

 テラスの近くには一緒に挨拶をする為、エリックの子供達とその母親……カレンがエリックを待っていた。

『お父様、本日はおめでとうございます』

「ああ、ありがとう。可愛い子供達」

 エリックとカレンの間には三男二女の子供を授かった。

 そして、心配していたカレンや子供達への嫌がらせは、ヴァーンや妹達のお陰で被害にあうことはなかった。

 なんでも、ニコラー伯爵家での一部始終を見ていたヴァーンがジョアンナにこう言ったらしい。

「今度、お兄様に酷い事をしたら、僕はお母様を一生許さないから!!」

 ヴァーンを国王にする為に色々としてきたジョアンナにとっては、これだけでも堪えたようだが、さらに妹二人が

「エリックお兄様をいじめるお母様なんてきらーい!」

「こわーい!」

 と言って子供達全員がエリック側の味方に付いたのだ。

「それから、お母様。僕を次の国王にしようとか馬鹿な考えは辞めてよね!僕はデヴォンみたいなお兄様に信頼される臣下になりたいんだから!!」

 と言ったらしい。

 その話を聞いて、俺とデヴォンは大笑いしてしまった。まさか子供達が総じてエリックの味方に付くとは思っていなかっただろう。子供達に嫌われた時のジョアンナの顔を想像すると、子供を持った今となっては少し可哀想にも思えたりした。
 そして、ヴァーンは有言実行をして、デヴォンのように文武両道を極め、今ではデヴォンの部下として、俺の臣下としてよく働いてくれている。

 全てが順調で、今が充実しているのは、きっと彼女と結婚出来たからだろう。いや、彼女があの時、俺を見捨てず離縁しないと言ってくれたから――

 エリックは自身の傍らで、嬉しそうにエリックを見つめるカレンの姿を優しく見つめた。

「あなた、おめでとうございます」

 そう言って微笑んだカレンにエリックも嬉しそうに笑う。

「今日、この日を君と子供達と迎えられて本当に幸せだよ。カレン、俺と結婚してくれてありがとう」

「私の方こそ、あなたといる事が私の幸せなんです。あなたのお陰で、私は母の遺言も守る事が出来たわ」

「そうか……」

 二人は肩を寄せ合い、国民に向けて幸せそうに手を振るのであった――


 FIN

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感想 9

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みんなの感想(9件)

そら豆太
2022.03.05 そら豆太
ネタバレ含む
2022.03.05 花見 有

デヴォンとヘイリーを好きだと言って頂けて嬉しいです!
幸せな気持ちになれたとのご感想に、こちらが幸せになれました(^^)
感想ありがとうございます!

解除
uio
2022.02.27 uio

すごく面白くて、一気に読ませていただきました。カレンが可愛かったし、意外にもエリックはかっこよかった。ジーンとして感動してホッコリして読めました。これからも楽しみにしています。

2022.02.28 花見 有

面白いと言って頂けて嬉しいです(^o^)
カレンとエリックも褒めて頂けて良かった!
感想ありがとうございます!

解除
エイル
2022.01.31 エイル
ネタバレ含む
2022.01.31 花見 有

確かに!魔王でしたね(*_*;

感想ありがとうございます!

解除

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