聖女の証を持っていますが、転生前に聖女は断っていたようなので、国を救う事は出来ません

花見 有

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 マデリーナの屋敷のすぐ隣には、マデリーナ専用の魔術訓練場が用意されている。
 マデリーナはそこで日々聖女として鍛練を積んでいた。

「──我は聖なる遣い……我に力を与えたまえ!!」

 気合いを入れて唱えてみたが両手首の紋様は何の反応も示さない。

「マデリーナ様、今日はここまでに致しましょう」

 その様子をみていた大魔術師オクージュはマデリーナに声をかけた。
 マデリーナもオクージュをチラリとみる「ええ」と返事をして両腕を下げた。

「しっかりとお休みになって下さいませ。まだ、魔力が完全に戻っていないようですし、聖女の力を目覚めさせるのは今は難しいかと思います」

「そうね。分かっているわ」

 オクージュの助言にマデリーナは少し苦い顔を浮かべた。

 国内屈指の大魔術師オクージュ=ルンベック。彼がマデリーナに基本の魔術の扱い方から高位魔術までを教えた張本人だ。
 彼自身もあらゆる高位魔術を扱える魔術師の中でも最高位の術者で、マデリーナは幼い頃から彼から魔術を学び、マデリーナ自身もオクージュに負けず劣らずの高位魔術師となったのだった。そして、その先に聖女にしか扱えないとされる聖魔術の習得が待っているのだが、マデリーナはまだその聖魔術を習得できていないのであった。

 ああ、オクージュ先生。私に聖女の力が目覚めないのは力が戻ってないとかの問題じゃないかもしれないんです。私……私……聖女じゃないから習得できなんです!!
って言えたらどんなに楽だろう……。ああ……どうしよう……

 マデリーナは頭を抱えてしまいたくなるのをグッとこらえると訓練場を後にして、王宮の中でも特にお気に入りである庭園の東屋へと向かった。
    ずんずんと歩くマデリーナの後ろを護衛騎士のルーベルトが大股で追いかけてくる。そして、突然立ち止まったマデリーナに合わせてルーベルトも立ち止まった。
    マデリーナは眉間にシワを寄せて難しい顔をしながら、王宮の従者達の話に聞き耳を立てていた。

「聞いたか?また魔獣が出たって」
「ああ!聞いた聞いた。怖いよなぁ。騎士団の討伐隊がやっつけてくれたらしいが、前の聖女様が魔界を封印してからそろそろ100年経つんだろ?封印が切れかかってるって話しだ」
「なら、早くマデリーナ様に新しい封印をかけてもらわないと、大変な事になっちまうよ」
「ああ、そうだよ。マデリーナ様がきっとこの国を守って下さるよ!」

    従者達はマデリーナの屋敷の方角に向けて拳を額に付け礼をした。
それはこの国の敬意を表した礼の仕方である。

    それを見たマデリーナはクルリと方向転換して違う道から庭園に向かった。そして、庭園の東屋に着くとマデリーナは無言のまま動かなくなってしまった。

 マデリーナは1週間前に思い出してしまった重大な事実について考えているのであった──
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