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────国が窮地に陥る時、聖女の証を持った者が誕生するであろう────
それは……レチュベーテ王国の古くからの言い伝えであった。
そして、その言い伝えの通り、レチュベーテ王国に聖女の証を持った赤ん坊が産まれたのは今から18年前の事────
◇◆◇
レチュベーテ王国の王宮……その一角に聖女マデリーナ=リトベリドの屋敷はあった。
「マデリーナ様、お茶の時間でございます」
侍女のベッテ=レドルトは美しい庭園が見下ろせるバルコニーで読書をしていたマデリーナに声をかけた。
「ベッテありがとう。良い香りね」
銀色に輝く長い髪、両手首には聖女の証である五芒星の紋様が刻まれている聖女マデリーナはベッテを見るとグレイの瞳を細めて微笑んだ。
ベッテも同じ様に微笑み返すと紅茶を注いだカップをテーブルの上に置いた。
「ベッテが淹れてくれる紅茶は格別ね」
「ありがたきお言葉にございます。マデリーナ様、このあとは魔術の鍛練にございますね」
その言葉にカップを取ろうとしたマデリーナの指が一瞬ピクリと跳ねた。
「え、ええ。そうね」
マデリーナはベッテに返事をするとカップを取って紅茶を口に含んだ。
「マデリーナ様、どうかなさいましたか?やはり近頃、あまり元気がないように見えますのは、この間の事を気に病んでおられるからですか?」
いつものように振る舞ってみせても、長年マデリーナの侍女を勤めるベッテにはマデリーナの小さな変化も手に取るように分かる。
「な、何もないわよ」
マデリーナはそれでも何でもないように笑みを浮かべる。
「そうですか………ベッテは心配なのでございます。聖女としてのお力がなかなか目覚めぬ事を気に病んでおいでではないかと……。でも大丈夫ですわよね!きっともうすぐ聖女のお力が目覚めになるはずですわ!」
「え、ええ。そうね」
マデリーナの顔は笑っているが内心は――
無理なのよ!!
と叫びたいのを我慢していた。
「高位魔術は習得されているのですから、もうすぐですよね!」
「そ、そうね」
マデリーナの返事にベッテは優しい笑みを浮かべると、追加の紅茶をカップに注いだ。
しばらくすると、部屋の扉がノックされて聖女の護衛騎士を務めるルーベルトと共に魔術師としての鍛練に向かうのだった。
それは……レチュベーテ王国の古くからの言い伝えであった。
そして、その言い伝えの通り、レチュベーテ王国に聖女の証を持った赤ん坊が産まれたのは今から18年前の事────
◇◆◇
レチュベーテ王国の王宮……その一角に聖女マデリーナ=リトベリドの屋敷はあった。
「マデリーナ様、お茶の時間でございます」
侍女のベッテ=レドルトは美しい庭園が見下ろせるバルコニーで読書をしていたマデリーナに声をかけた。
「ベッテありがとう。良い香りね」
銀色に輝く長い髪、両手首には聖女の証である五芒星の紋様が刻まれている聖女マデリーナはベッテを見るとグレイの瞳を細めて微笑んだ。
ベッテも同じ様に微笑み返すと紅茶を注いだカップをテーブルの上に置いた。
「ベッテが淹れてくれる紅茶は格別ね」
「ありがたきお言葉にございます。マデリーナ様、このあとは魔術の鍛練にございますね」
その言葉にカップを取ろうとしたマデリーナの指が一瞬ピクリと跳ねた。
「え、ええ。そうね」
マデリーナはベッテに返事をするとカップを取って紅茶を口に含んだ。
「マデリーナ様、どうかなさいましたか?やはり近頃、あまり元気がないように見えますのは、この間の事を気に病んでおられるからですか?」
いつものように振る舞ってみせても、長年マデリーナの侍女を勤めるベッテにはマデリーナの小さな変化も手に取るように分かる。
「な、何もないわよ」
マデリーナはそれでも何でもないように笑みを浮かべる。
「そうですか………ベッテは心配なのでございます。聖女としてのお力がなかなか目覚めぬ事を気に病んでおいでではないかと……。でも大丈夫ですわよね!きっともうすぐ聖女のお力が目覚めになるはずですわ!」
「え、ええ。そうね」
マデリーナの顔は笑っているが内心は――
無理なのよ!!
と叫びたいのを我慢していた。
「高位魔術は習得されているのですから、もうすぐですよね!」
「そ、そうね」
マデリーナの返事にベッテは優しい笑みを浮かべると、追加の紅茶をカップに注いだ。
しばらくすると、部屋の扉がノックされて聖女の護衛騎士を務めるルーベルトと共に魔術師としての鍛練に向かうのだった。
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