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第9話 聖女が戻りました
しおりを挟む「お酒くさっ……」
聖堂の隣のベッドに寝かされたへレーナを見てアメリアは開口一番そう呟いた。
オルランドともう一人の騎士がお姉様を担いで神殿へ来たときには驚いた。もうそろそろ戻って来る頃だろうとは思っていたが、まさか泥酔して担ぎ込まれるとは思っていなかったからだ。
「ア、アメリア、ちょ、なんか心臓が苦しくて……、息が……あんたの力でなんとかしてよ……」
「はあ……。こうなるだろうって思っていたわ」
アメリアはへレーナの手を握ると癒やしの力を注いでいった。
侍女達が心配そうに見守る中、オルランドとフランクもその様子に見入っていた。
「どう?もう、苦しくはないんじゃない?」
「ええ。はあ、助かったわ」
安堵したように笑うへレーナを見てアメリアはへレーナの手を離した。そして、その様子を見ていたオルランドはアメリアに言った。
「やっぱりあなたが私を癒やしてくれたんですね!!」
アメリアも観念したように言った。
「ええ、こうなってしまっては仕方がないわ。私は治癒の力を持っているの。確かにオルランドを癒やしたのは私よ」
「やっぱり、そうだったのですね!」
オルランドは嬉しそうにアメリアを見つめた。
「それから、あなた方はお姉様を助けて下さった。いえ、連れ帰って下さったと言った方がいいかしら?どちらにしてもお礼を申し上げますわ」
アメリアがオルランドとフランクに頭を下げると他の侍女達も一斉に頭を下げた。
その仰々しさにオルランドとフランクが戸惑っているとベッドに座るへレーナが頬を染めて言う。
「私を助けてくれて、嬉しかった。私、やっぱりあなたの事が好きみたい。聖女に好かれるなんてとても名誉な事よ。嬉しいでしょう?」
そう言われたオルランドは困惑した顔になる。
「え?本物の聖女様は今、あなたを癒やしたアメリア様ですよ」
オルランドは私の方を「そうですよね?」と言いたげに見てきたので、私は首を横に振って言った。
「オルランド。本物の聖女はお姉様ですわ。私は聖女ではないと言っていたではありませんか」
「え!?し、しかし……」
困惑するオルランドに
「そうよ。だから私と結婚しましょう?」
とお姉様が猫なで声で迫る。
「い、いや、待って下さい!では、アメリア様、あなたの力は一体……?」
「私は聖女の遣い。さっき見ての通り、治癒の力を持つ者。まあ、ここ2ヶ月程、本物の聖女に代わって祈りを捧げておりましたけどね」
「えっ……、だったら、本物の聖女が戻ったのなら、あなたはここで祈りを捧げなくてもいいという事ですか!?」
「え?まあ……」
私の返事にオルランドは真剣な顔で私を真っ直ぐに見つめてきた。
「それならば、言わせて下さい。アメリア様、私と結婚して下さい」
「まあ!素敵!」
「へレーナ様も戻ったしこれで何の問題もありませんわ!」
突然のオルランドからのプロポーズに侍女が湧く。
へレーナは、目の前で想い人が妹にプロポーズした事に唖然としていた。
アメリアが赤い顔で頷くとアメリアの返事に拍手が沸き起こる。オルランドは嬉しそうにアメリアの手を握りるとその手に口付けをしてアメリアを優しく見つめた。
しかし一人だけこの状況に納得いかない者がいた。
「ちょっと待って!!結局、私が祈りを捧げなくても国の結界は問題なかったじゃない。だったら、これからもアメリアが祈ってちょうだいよ!」
妹がイケメン騎士と結婚する事が許せないへレーナはこの後に及んでそんな事を言い出した。
するとアメリアは大きくため息を吐いた。
「お姉様、どうして今回、心臓が苦しくなったかお分かりですか?」
「え?そ、それはお酒の飲みすぎで……」
「はぁ。やっぱり分かってらっしゃらなかったんですね。ちゃんと前聖女様の教えを真面目に聞かなかったからですよ。国を護る結界の力の源は聖女の生命力。つまり命です。しかしそれでは聖女はすぐに、結界に命を奪われてしまう。だから聖女は、毎日祈りを捧げて言霊の力を借りることで自身の生命力の消費を最小限に抑えて結界を維持しているんです。つまり、祈りは自身の命を護る為でもあるんです」
「な!?そんな!!」
「言霊の力は皆が持っているものです。毎日多くの民が祈りを捧げに来てくれる事は、お姉様の命の消費を減らす手助けになっています。しかし、その力も聖女の言霊の力には遠く及びません。私の言霊の力も他の皆様よりは強いですが、本物の聖女の言霊の力には及びません。ですから、今回祈りをサボったお姉様の心臓は少しずつ生命力を削られていって、そして倒れてしまったのです。ですから、もう聖女の仕事を他の人に任せようなんて考えないで下さいね」
アメリアはへレーナにニッコリと微笑んだ。
すると、オルランドがアメリアの肩を抱いていった。
「さあ、もういいでしょう。行きましょう」
「え?どこに?」
「もちろん、新居を探しにですよ」
「え?気が早すぎない?」
「早く一緒に住みたいんです。もちろん、これからも神殿に通えるように近くで家を探しましょう」
「え、ええ。そうね」
それから、私とオルランドは無事に結婚式を行いました。
そして、お姉様はあれから毎日熱心に祈りを捧げるようになりました――
FIN
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そうなんです!前の聖女の話をちゃんと聞かずに、聖女になると言った姉への落とし穴って感じです(笑)
感想ありがとうございました!