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 卒業を一週間後に控えているある日、ブラッシュ侯爵家の温室――

「え!?ローレンとアランが!?」

「はい。婚約する事になりまして」

 とローレンは、頬をかきながらなんとも言えない顔で笑った。

「それで、お父様とお母様は正式に離婚する事になりました」

「まあ!そうなの!?ローレン、大丈夫?辛いんじゃない?」

「元々、もう冷めきっていたので、そこはもう覚悟は出来ていましたから……。それに……、アラン様が色々と気を遣って下さって、悲しむ暇もないというか……」

 すると、侍女がやって来た。

「お話中、失礼いたします。アラン侯爵子息様がおいでになりました」

「あ、あら?もう来てしまったの?今日は、エリーナ様と会うから、早く来ないでって言ってあったのに」

 唇を尖らせていっていても、ほんのり頬がピンクに染まっているのが可愛らしくて、エリーナはクスクスと笑った。

「じゃあ、私もそろそろお暇しようかしら」

「え!これじゃあ、エリーナ様を帰らせるみたいになってしまうわ」

「実は、私もこの後、結婚式の打ち合わせでルドルフと会う約束があるの」

「まあ、そうでしたのね。あと2週間後ですものね」

「そうなの。卒業式もあるから、忙しくて」

 卒業式の翌日に結婚式をしようというルドルフの暴論を何とか抑えて、卒業式から一週間後に結婚式を取り行う事になったが、それでも忙しい事に変わりはない。自分の方が忙しいくせに、結婚式は早くやりたいとそこは、譲らなかった。
 おかげで、新しく宰相に抜擢されたお兄様は非難轟々だった。若い事もあり、古参の貴族にはかなり睨まれているらしいが、そこはルドルフと国王が後ろ盾になってくれているらしい。
 あの後、謀反を引き起こしたマカロッカ公爵家は取り潰しとなり、マカロッカ公爵とジェフは、刑が執行されるまで、地下牢に幽閉されている。

「エリーナ様。お邪魔してしまってすみません」

 すると温室にアランが、やってきた。

「もう帰る所だったから、大丈夫よ。それから、帝国騎士副団長就任おめでとう」

「ありがとうございます。あ!ルドルフが執務室で首を長ーくして待ってましたよ」

「あら。じゃあ、早く行ってあげないとね。それじゃあ、二人共、お幸せに」

 エリーナは、二人に微笑むと王宮に向かう馬車に乗り込んだ――


 ◇

「はあ……。早くエリーナ、来ないかなあ」

 ルドルフが執務室の机で頬づえをついているとクレマスがドンッと書類の束を机に置いた。

「おい!ちょっと待て!今日の仕事はもう終わったはずだぞ」

「これは、今日の仕事じゃなくて、500年前のアヴィリアス帝国に関する資料です。確認して、間違っている事や新たな事実があれば、書き足してくださいね」

「いや、だから仕事は終わった……」「誰のせいで、今これをやる事になってると思ってるんですか!?貴重なアヴィリアス帝国の500年前の皇族の証人なんですから。記憶に目覚めた時にちゃんとやっとけば、今こんなに苦労しなくても良かったんですけどね。5年間も黙ってたんだから、さっさとやって下さいよ!特に古参の貴族達には、アヴィリアス帝国が勢いづいた500年前の歴史は人気ですからね。それ終わったら、歴史小説でも執筆してもらいましょうか?」

 誰のせいで、こんなにクソ忙しくなってると思ってるんだ!と言わないまでも、クレマスの顔にはそう書いてあるようで、ルドルフはクレマスを宰相に担ぎ上げた負い目から、強気に出られないでいた。

「ああ!これじゃあ、エリーナが来てもゆっくり話せないじゃないか!」

 すると、扉がノックされ、クレマスがあけるとエリーナがやってきた。

「エリーナ!ちょうどいい所に来た。ルドルフ皇太子殿下が、ちゃんと仕事するように見張っててくれ。俺は忙しいから、出る」

 とクレマスは、そそくさと執務室から出ていった。

「ごめんなさい。まだ忙しそうね。出直した方がいいかしら?」

「いいんだ。エリーナさえ良ければ、そこのソファに座って待っていてくれるか?」

「邪魔じゃない?」

「当たり前だろ」

 エリーナは、ソファに座ろうとして、ルドルフの机の資料を見ると500年前に関する事であった。

「500年前の事についての仕事?」

「ああ。事実か確認して新しい事実は付け足すようにと……。俺が5年間黙ってたから、今やらなくちゃならなくてな」

「そうなんだ……。あ……、私もリザハ王国の事ならわかるわよ」

「全部、思い出したのか?」

 ルドルフは、少し驚いていた。

「ごめんなさい。ちゃんと言ってなかったけれど、あの謀反の後に目が覚めたときには、全部思い出していたの」

「そうだったのか……」

 するとルドルフは、少し言いにくそうに聞いてきた。

「その……、恋愛に関する記憶とかって……あったりとか……」

 エリーナは、そんなルドルフにフフッと笑みを溢す。

「そうね。恋愛って程ではないけれど、優しくしてくれた青年の……思いが叶いますようにって願った事はあったわ」

「え!?だ、だれ!?リザハ王国の人か?」

 焦るルドルフにエリーナが優しく、そしてどこか切なく微笑んだ。

「ルヴェルフ皇子よ。私が、死を覚悟して城の中にいたのに、助けに来てくれて……。その優しさに一瞬、手を取ってしまいそうだった。だから、私は、自分でその可能性を断ち切ったわ。それで、息も絶え絶えの私に悲しそうに語りかけるあなたを見ていて、最後に思ったの。ああ、この人の思いが叶いますようにって……」

「エリーナ……」

 ルドルフはそう言って立ち上がった。

「ちゃんと……、願いは叶った?」

 エリーナが微笑んで、ルドルフの赤い瞳を見つめると、ルドルフは、エリーナの頬に手を伸ばした。

「ああ、ちゃんと叶ったよ。君と他愛ない話をして、その瞳に俺を映して、微笑んでほしいという願い……ちゃんと叶ったよ……」

「よかった……」

 微笑むエリーナにルドルフは、優しく口付けをしたのだった――


 fin

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みんなの感想(5件)

蘭丸
2023.11.15 蘭丸

初めまして(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)⁠✧⁠*⁠。

面白かったです💕
500年の時をへて転生者として
記憶がよみがえり幸せか不幸か
考えてしまいます(>ω<)💦

是非、番外編もお願いします💕

花見 有
2023.11.15 花見 有

感想ありがとうございます。

番外編も投稿しましたので、転生者達のその後を楽しんで頂けたらと思います!

解除
もも
2023.11.14 もも

素敵なお話でした。 他の方の番外編楽しみにしています!

花見 有
2023.11.14 花見 有

感想ありがとうございます!

番外編、頑張ります(^^)

解除
kokekokko
2023.11.13 kokekokko
ネタバレ含む
花見 有
2023.11.13 花見 有

公爵子息、悪巧みしている番外編になりそうです(笑)

感想ありがとうございます!

解除
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