婚約破棄ですって?私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

花見 有

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 そして、アーモスと婚約破棄してから、しばらく経ったある日の事――


「ダーシャ、ディデス侯爵が経営していた店が、紛い物を販売していたとして問題になっているようだ」

 とお父様が呆れた顔で言っていた。

「あら!私と婚約した後に始めたっていうあのお店が?」

「ああ。全く、やはりあの侯爵家はロクな事をしないな。婚約破棄されたという形ではあったが、あんな家とは縁が切れていて良かったな」

「ええ、そうね」

 とダーシャも呆れたように答えた。

 ◇

 そして、ラデク王子の誕生日を祝う舞踏会の日――

 会場に着くと、既に大勢の人がラデク王子にお祝いの言葉をかける為に列になっていた。ダーシャもその列に並んで順番を待っていると、近くにいる令嬢達の会話が聞こえてきた。

「ラデク王子、今日はまだ誰とも踊ってらっしゃらないわね」
「いつもの舞踏会は、初めに妹のビエラ王女と踊って、その後は、誘われると気まぐれに踊ったりなさっていたけど……、ビエラ王女と踊ってらっしゃらないなら、誘いにくいわねぇ」
「ねぇ、もしかしたらラデク王子も今日で20歳ですし、そろそろご結婚を意識されて、いるのではないかしら?」
「え!?それって、もしかして、今日1番初めにラデク王子と踊った方が婚約者になれるとか……?」
「え!?だったら、私、誘ってみようかしら!」
「それでしたら、私も!」

 皆さん、楽しそうねぇ。私は、ラデク王子にお祝いを言ったら、今日は静かに壁の花になりましょう。アーモス婚約破棄されて初めての舞踏会ですから、皆様からの好奇の視線がありますしね。せっかくのお祝いの場では、なるべく目立たないようにしていなければ。

 そして、列は進んでいき、先程の令嬢達はラデク王子をダンスに誘って断られたのか落ち込んだ様子で、ダーシャの横を通り過ぎていく。

「ラデク王子……、今日は1番初めに踊りたい方が決まっているって仰っていたわね」
「残念ですけれど、丁寧に断って下さる所も、やっぱり素敵よねぇ」

 まあ、ラデク王子にもそんな方がいらっしゃったのね。

 ご令嬢方の話を聞いて、そんな事を考えているとダーシャの番がやって来た。

「ラデク王子、20歳のお誕生日、おめでとうございます」

 丁寧にカーテシーしてそう言ったダーシャに、ラデク王子は、嬉しそうに微笑んだ。

「ダーシャ嬢、今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ、ラデク王子のお誕生日をお祝いする場に呼んで頂けて、光栄ですわ」

「そうか。君が今日、来てくれたらしたいと思っていた事があるんだ」

 ラデク王子はそう言うと椅子から立ち上がり、ダーシャの前に来て、片膝を着くと右手を差し出し少し頬を赤らめて言った。

「ダーシャ嬢、私と踊って頂けますか?」

「……――!?」

 ダーシャは、まさかラデク王子の今日初めてのダンスの相手に選ばれるとは思わず、頭の中で何度もラデク王子の言葉を反芻していた。

 えーと、今……ラデク王子は私をダンスに誘ったのよね?私の聞き間違いではないのよね!?

 そして、周りが固唾をのんで私の答えを待っている事に気が付いた。

 これは……、今日は壁の花になろうと思っていたけど、むり……そう……ね

「……喜んで」

 皆に注目されている場面で、王子の誘いを断る事など出来るわけがない。

 どうして自分なのか?婚約破棄された令嬢が、王子のダンスの相手でいいのか?そもそも、身分も釣り合ってないのでは?

 とダーシャは複雑な心中で、ラデク王子の手の上にそっと指先を乗せた。すると、ラデク王子は優しくその手を包んで、ニコリと微笑んだ。
 その微笑みに、ダーシャは全ての疑問を優しく包まれたような気がして心がフッと軽くなった。そして、そのまま会場の中央へとエスコートされ、音楽が鳴り始める――

 優しく優雅なワルツに乗せてラデク王子と踊るダンスは、心地良く、ラデク王子の優しいリードでダーシャも心からダンスを楽しみ、そんな二人のダンスは見るものの心を掴んだ。

 ダンスが終わると会場は割れんばかりの拍手に包まれ、二人は互いの顔を見合わせると、照れたように笑い合った。
 皆が暖かく二人を見守っていた次の瞬間、一人の男が二人の前に立ちはだかった。

 それは、ディデス侯爵令息……ダーシャの元婚約者、アーモスだった――
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