私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第三章.自分のスキルを確認するまでが長い

032

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部屋に戻ると、背後の洞窟がすっと消えた。
これであっちの空間は閉ざされたって事なのか。

ゴーン…
ゴーン…
ゴーン…

街の門が閉まる鐘の音が聞こえる。

「さて、ご飯食べに行きますかー!」

味は期待するなって言われていたけど、どうなのかなー?
初めての異世界料理、楽しみだなー!

部屋を出て、階段を降りるとふわりと良い香りがしてきた。

なんだ、凄い美味しそうな香りじゃないか!
絶対美味しい奴でしょこれ!

ぐぅぅ…とお腹の虫が盛大に鳴いた。
そりゃそうだよ、私、向こうの世界から22時頃に異世界召喚されて、神様たちにスキル貰う所で数時間は滞在してたし、この国に召喚されて城から追い出されて、なんやかんやこの宿に来るまで飲まず食わず!!

さっき、ちょっとだけエネルギーバー食べたけど、あれじゃ食べた気にならないもんね。

食堂に入ると、4人掛けのテーブルが4台置かれていた。
その奥に、食堂とキッチンを繋ぐカウンターがある。

「あなたが夫が言っていたグラハムさんが紹介したって言うお客さんね」
「あ、はいそうです」
「私はこの宿の女将で、食事を担当しているアイシャよ、よろしくね」
「ブロッサムと言います。今日明日とよろしくお願いします」
「ええ、よろしくね。なんだか変な男に追い回されたんですって?そのせいでお城のお仕事断られたって…可哀そうに」
「あははは…」

誰が作ったのか知らないけど、この設定どうにかならんもんか…マジで。変な男に追いかけられたのは間違ってはいないけど。

「好きな席に座ってちょうだい、いま夕食を持ってくるから」

私はカウンターに近いテーブルの一つに座って、こっそりと手にクリーンの魔法をかけた。
食事前の手洗いは大事だからね。

席に着くとすぐに食事が運ばれてきた。
深皿にたっぷりと入ったビーフシチューのような料理と、切り分けたバゲットが数枚とマッシュポテトっぽい料理。

めっちゃ良い香り…

「美味しそうですね!」
「そういって貰えると嬉しいねぇ!熱いから気を付けて食べてね」

私は早速シチューを一匙すくって口に入れる。
「!?」

口に入れた瞬間に鼻を抜ける、食べ慣れた懐かしのビーフシチューの香り。
それとは相反するように、舌にねっとりとまとわりつく苦み。

何だこれ…

「ど…独特な味のシチューですね……」
「うふふ、健康の為に隠し味で薬草が入ってるのよ。ここに泊まるお客さん、疲れてる人が多いから…」

アイシャさんの笑顔が眩しい!

「それは、とっても体に良さそうですね…」

水を一気に飲んで、口の中の苦みを洗い流す。

<<スキル:毒耐性スキル(Lv1)及び麻痺耐性(Lv1)を獲得しました>>

はぁ!?
いや、このシチュー毒が入ってるの!?

頭の中に響いた声に、思わずシチューを鑑定した。

======
【アイシャ特製のフォレストブルのシチュー】

フォレストブルの肉を使った、いわゆるビーフシチュー。
隠し味に、ニガナが沢山入っている。

======


ニガナ…?名前からして苦い草だよね?
何故そんなものが入っているの!?
説明に出てくる単語は鑑定ってかけられるのかな?


======
【ニガナ(薬草)】

解熱、痛み止めの効果がある一般的な薬草。滋養強壮効果があるとされるが迷信である。
少量ならば食用としても使えるが、摂取量が多くなると身体に麻痺の症状が出る。

======


お、鑑定できた。

ほほぅ…薬草ではあるのね。ていうか、一口食べただけで舌がビリビリし痺れてるんだけど…
「しゅみましぇん…わらひにはひょっと…効果がつよしゅぎたようでしゅ…」

だめだ、ちゃんと喋れない。

「お母さん!初めて泊まったお客さんに出す料理は、隠し味は少なめにしなきゃダメっていつも言ってるじゃない!」
「いつもお客さんたち、完食してくれるわよ?」
「…それは料理に耐性があるからだよ…。私がお客さんの相手をするからお母さんは奥で片付けしてきて!!」

突然現れた12歳くらいの女の子が、手際よくアイシャさんをキッチンの方へおいやった。

「お母さんがごめんなさい…いつも一味加えて変な料理にしちゃうの…これ解毒のポーションです」
女の子がポケットから小さな小瓶を取り出した。

念のために鑑定してみると【解毒ポーション】と出たので、ありがたくいただく事にした。
舌がしびれて味はわかんない。

「ありがとう…痺れが引いてきたよ…」
「本当はお料理上手なのに…」

女の子はしょんぼりした顔でそう言った。
何というかアイシャさんは健康志向の強い人なのかな…?

「シチュー、こっちのお皿と交換しますね、こっちにはニガナあんまり入ってないから…」
「え、良いの?」

「うん、私もお父さんも食べ慣れてるから」
「あぁ…そうなんだ…ありがとう」

うーん…お母さんのお料理、残さず食べる良い子なんだろうな。大変そうだけど…
交換してもらったシチューは、ニガナの苦みが程よいアクセントになっていてとても美味しかった。


食事を食べ終えて部屋に戻る途中、片付けをしている女の子に声をかけた。

「さっきはありがとう。えーっと私はブロッサム。あなたの名前は?」
「アコットって言います。ブロッサムさん、さっきはお母さんがごめんなさい…お母さんの料理食べると翌日体調が良いってお客さんたちは言ってくれるんだけど…」

「宿泊するお客さんたちがそれで納得してるなら良いんじゃないかな。それに、アコットちゃんがさっき私にしてくれたみたいに、困ってるお客さんを助けてあげればいいと思うよ」

「それで良いのかな…?」
「うん。それでいいと思うよ」

私もちょっとびっくりしたけど、この宿に泊まる他の客があの料理に納得しているなら、私がどうこう言う事でもない。私も事前に食事は期待するなって言われてたし…。

「それじゃあ、私は部屋に戻るね。おやすみアコットちゃん」
「はい、おやすみなさいブロッサムさん」

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