私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

文字の大きさ
58 / 89
【1部】第四章.旅立ちの準備

閑話4:見限る者(前)

しおりを挟む
「宰相様!!これは一体どういうことですか」

宰相の執務室に、一人の男がやって来た。

「ポーション製造は我が領地の誇るべき産業でございます!!なにゆえボルシェイク侯爵様の認可が必要になるのでしょうか」

「うるさい、これは国王陛下からの命であり決定事項だ。子爵の分際で口答えをするな」

ガイドーン子爵家の当主である、ヒューゴ・ガイドーンは内心非常に怒っていた。

今朝、突然城からの使いが来て、宰相からの命令書を渡してきた。
その内容について宰相に直に問いただしに来たのだった。

その内容とは、ガイドーン家の領地で製造されているポーション各種の、国からの直接買取を取りやめ、間にボルシェイク侯爵家が入るという物だった。

そして、ボルシェイク家からの認可が下りなければ国は買い取らないという。
その買い取り価格にしても、今までの5千ミルスから更に下がり2千ミルスだと言うのだ。

そんな話が通るわけが無い。

ボルシェイク家とは、タイエンベルク家と並ぶ歴史のある侯爵家であり筆頭貴族である。

対してガイドーン家は子爵位とはいえ、昔から国にポーションを大量に卸している。
ポーションと言えばガイドーン家と言われるくらいには国内外からの評価も高い家だ。


今まで国に卸すポーションは、1本3万ミルスという市場価格よりも低い価格で卸してきた。
そして、現国王が即位した時に、買い取り価格を5千ミルスなどというあり得ない額にされた。

それでも国を護る騎士団へポーションが渡らないのは国防の面からしてもあり得ない事だ。
貴族として当然の義務と、不満を飲み込んで今までと同じように国へ卸してきた。


しかし、ここにきて更に不当な条件を突き付けられたのだ。

その理由は分かり切っている。
私がボルシェイク家からの縁談を断ったからだ。

ボルシェイク家の三男であるジェファーソンの嫁にと、娘であるジェシカに婚約の打診があったのだ。
ポーション製造の技術を、自分の家に取り込みたかったのかもしれない。

しかし、ジェファーソンには良いうわさが無かった。
既婚未婚も関係なく、多くの貴族の女性とのうわさが絶えないのだ。
噂の中には、男爵家などの身分の低い女性に対しては暴力をふるうという噂まであった。

誰がそんな男の所に、可愛い娘を嫁がせたいと思うのか。

子爵という身分で、貴族の中で最上位である侯爵家からの打診を断る事は通常ではありえない。
しかし、幸か不幸かジェシカは既にビルヘルム辺境伯の元へ嫁ぐ事が決まっていた。

辺境伯は我がガイドーン家の領地と隣り合う、国境沿いのザラックという街を中心に、あのあたり一帯を治めている貴族である。そして、侯爵と同等の立場にある方だ。

それを理由に、ボルシェイク家からの縁談を断った。
その直後にこれだ。

「…分かりました。しかし、我が家から卸すポーションが無くなったとなれば、同等の品質の物をどこから購入するというのですか」

「それは、我が家からですよガイドーン殿」

いつの間にか、後ろに人が立っていた。
ボルシェイク候だ。

「…なるほど…そういう事ですか」

「何がなるほどなのかは分かりかねるが、我がボルシェイク家の召し抱える調合士も腕は一流だ。平民を雇い作らせているガイドーン家の物より上質な物を提供できるだろう」

宰相とボルシェイク家が繋がっているのは分かっていたが、こうもあからさまに嫌がらせをしてくるとは思いもよらなかった。

とはいえ、もう良いか。とも思った。

ポーションの買い取り価格が5千ミルスになった事を、あり得ないと抗議してくれた騎士団長は、表向きは平民がその地位にあるべきではない。などというクソみたいな理由でその座を追われ、今では閑職とまで言われている城の裏門の警備兵にされている。

騎士団長と共に抗議した部下たちも、同じく配置換えをされたらしい。

この国の上層は腐っている。

辺境伯は国境から動けず、タイエンベルク家は娘が第二王子と婚約をしてはいるが、要職からは外され殆ど発言権を持っていない。

この国を牛耳っているのは、宰相とボルシェイク家の息のかかった人間達だ。
今のグラム王国に対して果たす忠義は無い。

「わかりました。我がガイドーン家はポーションを国へ卸す事から完全に手を引きましょう。ボルシェイク家の調合士の方々には敵わないでしょうから」

「ははは!随分と物分かりが良くなったな」

「私のような身分の者が侯爵様方に意見するなどおこがましいと理解いたしました。我らガイドーン家の人間がここに居る意味は無くなりましたので、早急に城から去りましょう」

こいつらは貴族も平民も、国を動かす要だと何故分からないのか。
権力の使い方を間違えている。

それに、ガイドーン家のポーションの販売先は何も国だけじゃない。
冒険者ギルドとも契約しているし、それこそ辺境伯にも直接販売している。

「平民を簡単に城に上げた貴様等が居なくなるとせいせいするぞ!!」
ボルシェイク候は勝ち誇ったように言った。

「宰相様の執務室を騒がせたことまことに申し訳ございませんでした。私はこれで失礼いたします」

私は無表情で宰相の執務室から出た。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

湊一桜
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

処理中です...