私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

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翌朝、5時半ごろにやっと馬車が止まった。

初めての馬車の旅、流石に熟睡は出来なかった。
ウトウトしていても、時折踏む石の衝撃で目を覚ましてしまう。

(あんまり眠れんかった…)
『まだ1日目です。ファイトですマスター』

ナビからの無慈悲な応援。

車内で護衛をしていた冒険者の人が、そっと外に出て行った。
暫くすると、外から火を起こす音や朝食を準備する音が聞こえてきた。

他の乗客はまだ寝ているみたい。
私は、物音を立てないように馬車から出た。

「うーん、背中が痛い…」

ぐぐぐと伸びをすると、バキバキと音が聞こえそうなくらい背中がこわばってしまっていた。

『おはようございますマスター。眠そうですが大丈夫ですか?』
(おはようナビさん。うん、眠いけど、ちょっと外の空気が吸いたくてね)

辺りを見回すと、朝霧に覆われていて10メートル先も見えない感じだったけど、どうやら草原の真ん中に設置された駅らしい。

駅の職員の人は馬を馬車から外し、囲いの中に放してやっていた。
御者さんは、大きな樫の木の横にある炊事場で料理をしている。

外套に霧が付いてびしょびしょになってしまったが、ひんやりと澄んだ空気が美味しい。
濡れた外套は後でドライの魔法をかければ問題無いだろう。

(なんか、どっかの高原に居るみたいだわ)
『ここはグラム国最大の穀倉地帯でもあるグラス平原です』

(草原だけにグラスってか…)
『……』

ナビさんが無反応なので、私はマップを開いてみた。
寝ている間の数時間で、そこそこ距離を移動したみたいで、地図の縮尺が大きくなっている。
とはいえ、街道を真っすぐ移動してきただけだから、白地図の上に色の付いた線が描かれてるような感じになってる。

(ナビさん、地図作成っていうスキルはさ、マッピングの距離って広くならないの?)
『レベル表記が無いので多分そのままじゃないでしょうかね?』

(うーん。やっぱり自分で歩き回るしかないか)
『観光しながら地図埋めしていきましょう』
(そうだね)

このグラス平原は、グラム王国の実に三分の1を占めるくらい広いそうで、標高は800メートルから1200メートルと起伏のある土地らしい。

それぞれの気候に応じて、小麦や蕎麦、野菜、綿花などを栽培し、平原に隣接する森林地帯では馬やフォレストシープ、フォレストタインと呼ばれる乳牛の放牧などをしているんだってさ。

『マスター、ここら辺は結構薬草が生えてるっぽいので鑑定の練習も兼ねて探してみませんか?』
(お、それいいね!!)

今の所、ニガナしか薬草を知らないもんね。
ザラックで冒険者やるんだから、薬草くらいはちゃんと知っておかないとだ。

それに、鑑定はLvが付いていないけど熟練度という物があるって言ってたから、今後の為に腕を上げておかないとね。

私は周辺の植物をひたすらに鑑定する。
意外と普通に、足元に生えている草が毒草だったりするのでびっくりする。

薬になるようなものは、鑑定に書かれている説明や、ナビのアドバイスに従って採取した。
しかし、ニガナはここまでの道のりでは見つける事が出来なかった。

(ナビさん、ニガナって結構珍しい薬草なの?)
『いいえ、どこにでもある雑草レベルの植物です。この一帯は草食動物が多いので彼らが食べているのだと思います。ポーションの材料になる薬草ではありますが、彼等にとっても栄養価の高いごちそうですから』

(なるほど)

こうして私は、リムさんが朝食だと呼びに来るまで足元に生えている植物を片っ端から鑑定したのだった。


「ブロッサムちゃんおはよう!朝食の準備が出来たよー!!」

20メートルくらい後ろの方でリムさんの呼ぶ声が聞こえる。

「あ、リムさんおはようございますー!!」

気が付けばあたりの霧も綺麗に晴れて、なだらかな丘陵が遠くまで続いている。
私は小走りでリムさんの方へ向かった。

「昨日はよく眠れた?」
「実はあんまり眠れませんでした…振動がなかなかキツイですね」

「あははー、初めて馬車に乗る人はそう言うね。完全に横になるんじゃなくて、上半身を少し高くして寝るとマシになるよ」

「そうなんですね、今晩はそうしてみます」

私とリムさんは、ゆっくと駅の方へ歩いて行った。
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