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待ち伏せ大作戦
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アルバートとの会話で、一つ目の不安はすっかり消え去ってしまった。
まだ熱をもった頬をそっと撫でる。浮き足だって、ふわふわとして、ぼーっとした気持ちが続いていた。
時折ちらとアルバートの様子を伺うと、彼もこちらを見つめていたりして、お互いこそばゆい気持ちでサッと目を逸らしたりもした。
「あらあら。今日はまた、おかしな様子ね? あなたたち、何があったのかしら」
と夕食時のダリアは、楽しそうににこにこと笑っていた。
幸せな気分で眠りにつく時、ふと、クラウディアの声が蘇った。
『あなたはきっと、とても恵まれているのね』
そうかもしれない。
きっと、そうなのだろう。
すぅっと意識が落ちていく。
翌朝、すっきりと目覚めた私は大きくのびをした。マリーと共に朝の身支度をして、ダリアとアルバートと共に朝食を食べた。
部屋に戻った私は、ペンを手に取った。クラウディアに手紙を書くためだ。
一つ目の不安が解消された以上、気にかかるのは二つ目、クラウディアの本心だ。
茶会に来てくれた礼を伝えて、またお会いしたいと文を結ぶ。しかし、数日経って返ってきたクラウディアからの手紙はそっけなく、遠回しに会いたくない旨が書かれていた。
「…………はぁ」
昨日も考えたことだけれど、彼女が苦しそうだからといって、私が何かをする理由にはならない。
それでも、彼女を見ていると、思わず手を差し伸べたくなってしまう。
まぶたが不自然にピクピクと痙攣するあの症状は、前世の私の身にも起こったことがあった。仕事の強いストレスからくる不調である。
それに、あの瞳だ。
静かな絶望を映し出した様な、あの虚ろな瞳は、前世の私が毎朝鏡で見ていたものにそっくりだった。
社畜時代の私は、視野がとてつもなく狭くなっていた。
与えられた仕事をこなし、同じ会社で働く人としか喋れず、淡々と毎日をこなすだけで疲弊してしまい、外からの情報を得ることもできない……。
なんとなくだけれど、今のクラウディアは、あの頃の私と同じなのではないか……なんて、そんなふうに考えてしまうのだ。
ノックの音が聞こえた。返事をすると、お茶と乾燥果実をお盆に乗せたマリーが、入室してきた。
「お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう。ここに置いておいてくれる?」
「はい」
お茶を置き終わったマリーに、尋ねてみる。
「ねぇ、クラウディア様との約束がないのに、直接ローズウェル家を訪ねるのは、良くないわよね」
「……セレスティア様が何を考えているか分かりませんが、マナー違反ですね」
「ですよね……」
何か良い手はないものか。うぅんと頭を悩ませていると、マリーが言った。
「……クラウディア様とお会いになりたいのなら、もしかしたら、マダム・ローズに行けば良いかもしれません」
「え?」
「クラウディア様が身につけていたドレスのいくつかは、あの店独自の仕立て方でしたから」
「さすがよ、マリー!」
私は彼女の手を取り、ぴょんと飛び跳ねた。クラウディアのドレスは、毎回違うものでとても綺麗だった。きっと、マダム・ローズにも頻繁に通っているに違いない。
マリーがダリアに外出の許可をもらいに行った後、早速、護衛騎士を連れて馬車に乗り、マダム・ローズに向かった。
「……けれど、一発で会えるとは限らないわよね、当然……」
「問題ありません。ちょうど良い言い訳がありますわ」
自信満々のマリーと共に、マダム・ローズを訪れた。
「あら。またいらしていただいて、光栄です、セレスティア様」
前回と同じ、年配の女性店員さんがやってきた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
そこで、マリーがスッと前に出た。
「はい。無事に婚約披露も終えましたので、結婚準備のためにドレスを選びに参りました」
「え」
「まあ! 重ねておめでとうございます」
「大事な催しですから、何度かこちらにお伺いしたく思います」
「ええ、勿論です」
マリーが振り返り、軽くウィンクをしてきた。
この時代の結婚式のドレスは、前世と違い『白』と固定化されたイメージはない。むしろ、赤、青、金色など豪華な色合いの方が好まれている。
細かな刺繍や、体格に合わせた仮縫いも何度も行うし、何より公爵家だ。
既製品の仕立て直しではなく、一からオリジナルで作る必要があるという。
つまり、何度もマダム・ローズに通う必要があるし、その分クラウディアと遭遇できる確率も上がるのだが……。
「ちょ、ちょっとマリー、結婚式って! この間婚約が終わったばかりなのに、急すぎないかしら?」
小声でマリーに囁くと、きょとんと不思議そうな顔をする。
「何もおかしなことはありません。ドレスの準備には何ヶ月もかかりますから……。ダリア様にもきちんと許可をいただいておりますよ?」
「…………」
確かに、マリーのいう通り何もおかしなところはない。
それでも、思ってもいなかった展開に、焦りは消えない。……結婚式……アルバートと、結婚式か……。
知らず知らずのうちに、頬が熱くなっていく。
「さあ、腕がなりますよ!」
マリーは綺羅綺羅とした笑顔で、店員と共に店の奥へと消えていく。
……あれ? これ逆に、マリーの楽しみに利用されてない?
取り残された私は所在なく、前回と同じソファに腰を下ろした。
まだ熱をもった頬をそっと撫でる。浮き足だって、ふわふわとして、ぼーっとした気持ちが続いていた。
時折ちらとアルバートの様子を伺うと、彼もこちらを見つめていたりして、お互いこそばゆい気持ちでサッと目を逸らしたりもした。
「あらあら。今日はまた、おかしな様子ね? あなたたち、何があったのかしら」
と夕食時のダリアは、楽しそうににこにこと笑っていた。
幸せな気分で眠りにつく時、ふと、クラウディアの声が蘇った。
『あなたはきっと、とても恵まれているのね』
そうかもしれない。
きっと、そうなのだろう。
すぅっと意識が落ちていく。
翌朝、すっきりと目覚めた私は大きくのびをした。マリーと共に朝の身支度をして、ダリアとアルバートと共に朝食を食べた。
部屋に戻った私は、ペンを手に取った。クラウディアに手紙を書くためだ。
一つ目の不安が解消された以上、気にかかるのは二つ目、クラウディアの本心だ。
茶会に来てくれた礼を伝えて、またお会いしたいと文を結ぶ。しかし、数日経って返ってきたクラウディアからの手紙はそっけなく、遠回しに会いたくない旨が書かれていた。
「…………はぁ」
昨日も考えたことだけれど、彼女が苦しそうだからといって、私が何かをする理由にはならない。
それでも、彼女を見ていると、思わず手を差し伸べたくなってしまう。
まぶたが不自然にピクピクと痙攣するあの症状は、前世の私の身にも起こったことがあった。仕事の強いストレスからくる不調である。
それに、あの瞳だ。
静かな絶望を映し出した様な、あの虚ろな瞳は、前世の私が毎朝鏡で見ていたものにそっくりだった。
社畜時代の私は、視野がとてつもなく狭くなっていた。
与えられた仕事をこなし、同じ会社で働く人としか喋れず、淡々と毎日をこなすだけで疲弊してしまい、外からの情報を得ることもできない……。
なんとなくだけれど、今のクラウディアは、あの頃の私と同じなのではないか……なんて、そんなふうに考えてしまうのだ。
ノックの音が聞こえた。返事をすると、お茶と乾燥果実をお盆に乗せたマリーが、入室してきた。
「お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう。ここに置いておいてくれる?」
「はい」
お茶を置き終わったマリーに、尋ねてみる。
「ねぇ、クラウディア様との約束がないのに、直接ローズウェル家を訪ねるのは、良くないわよね」
「……セレスティア様が何を考えているか分かりませんが、マナー違反ですね」
「ですよね……」
何か良い手はないものか。うぅんと頭を悩ませていると、マリーが言った。
「……クラウディア様とお会いになりたいのなら、もしかしたら、マダム・ローズに行けば良いかもしれません」
「え?」
「クラウディア様が身につけていたドレスのいくつかは、あの店独自の仕立て方でしたから」
「さすがよ、マリー!」
私は彼女の手を取り、ぴょんと飛び跳ねた。クラウディアのドレスは、毎回違うものでとても綺麗だった。きっと、マダム・ローズにも頻繁に通っているに違いない。
マリーがダリアに外出の許可をもらいに行った後、早速、護衛騎士を連れて馬車に乗り、マダム・ローズに向かった。
「……けれど、一発で会えるとは限らないわよね、当然……」
「問題ありません。ちょうど良い言い訳がありますわ」
自信満々のマリーと共に、マダム・ローズを訪れた。
「あら。またいらしていただいて、光栄です、セレスティア様」
前回と同じ、年配の女性店員さんがやってきた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
そこで、マリーがスッと前に出た。
「はい。無事に婚約披露も終えましたので、結婚準備のためにドレスを選びに参りました」
「え」
「まあ! 重ねておめでとうございます」
「大事な催しですから、何度かこちらにお伺いしたく思います」
「ええ、勿論です」
マリーが振り返り、軽くウィンクをしてきた。
この時代の結婚式のドレスは、前世と違い『白』と固定化されたイメージはない。むしろ、赤、青、金色など豪華な色合いの方が好まれている。
細かな刺繍や、体格に合わせた仮縫いも何度も行うし、何より公爵家だ。
既製品の仕立て直しではなく、一からオリジナルで作る必要があるという。
つまり、何度もマダム・ローズに通う必要があるし、その分クラウディアと遭遇できる確率も上がるのだが……。
「ちょ、ちょっとマリー、結婚式って! この間婚約が終わったばかりなのに、急すぎないかしら?」
小声でマリーに囁くと、きょとんと不思議そうな顔をする。
「何もおかしなことはありません。ドレスの準備には何ヶ月もかかりますから……。ダリア様にもきちんと許可をいただいておりますよ?」
「…………」
確かに、マリーのいう通り何もおかしなところはない。
それでも、思ってもいなかった展開に、焦りは消えない。……結婚式……アルバートと、結婚式か……。
知らず知らずのうちに、頬が熱くなっていく。
「さあ、腕がなりますよ!」
マリーは綺羅綺羅とした笑顔で、店員と共に店の奥へと消えていく。
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